軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都のオークションハウスで受付

「アオイ・コーノミナトです」

城門前に立つ衛兵達に、ストラスの後に自己紹介をした。すると、衛兵たちは姿勢を正して私に向き直る。

「貴女が、フィディック学院の上級教員、アオイ殿ですか。お目にかかれて光栄です」

「え?」

何故知っているのかと疑問に思う。すると、衛兵の一人は苦笑しながら道を譲った。

「フィディック学院の教員というだけで魔術師としての知名度は高いんですよ。特に、最年少の上級教員ともなれば宮廷魔術師長以上の知名度でしょう。さぁ、王都へご入場ください」

「出来たら、ドラゴンを早めに引き取っていただけると助かります」

衛兵達からそんなことを言われて、恐縮しながら会釈をする。

「とりあえず、エライザが怒り出す前にオークションハウスへ向かうとしよう」

ストラスはそう言って先に城門を潜った。後に続くと、城門を抜けてすぐに視界が開ける。

城門のすぐ目の前に広場があり、行き交う人々や馬車で賑わっていた。端の方には出店が立ち並び、さながら縁日のような雰囲気だ。これが通常の景色ならば、これまで赴いた各国のどの都市よりも栄えているだろう。石畳の道路や趣のある住居、複雑な織物などを販売する衣料品店など、街には長い歴史や文化を感じさせるものが多いが、それでも綺麗に整備されていてゴミなどもそれほど目立たない。これだけの規模だというのに良く統治されている。

「こっちだ」

周りの景色に目を奪われていると、ストラスが声を掛けてきた。

「遠いなら飛んでいきましょうか?」

「いや、王都のオークションハウスはそれこそドラゴンみたいな大型の出品を考慮して城壁の近くに設置してある」

「そうなんですね」

「そもそも、これだけ人がいて気軽に飛んで移動していたら騒ぎになるかもしれないからな」

「分かりました」

そんなやり取りをしながら歩いていると、僅か五分から十分程度でストラスが立ち止まった。

「ここだ」

ストラスがそう言って目の前の建物を見上げてみせた。それに釣られて一際大きな建物を見上げる。赤茶けた色合いの石造りの建物だった。まるで体育館のように大きいが、この建物が全てオークションハウスなのだろうか。

「……ウィンターバレーとは規模が全然違いますね」

「見た目よりも大きいからな。中に入れば分かる」

驚く私を横目にストラスは笑みを浮かべてそう言った。ストラスは慣れた様子でそのまま歩いていき、オークションハウスの中へと足を踏み入れる。建物の中に入ると、まるで高級ホテルのロビーのような受付があった。天井は高く、壁や天井の梁は少し凝った木の組み方をされている。受付カウンターの奥には高級そうな生地で仕立てられた赤い服の男女が五人並び、笑顔で立っていた。

「いらっしゃいませ」

中心に立つ男がそう言うと、ストラスはまっすぐにそちらに歩いて行って口を開いた。

「オークションの参加、間に合うか? 出来たら出品もしたい」

ストラスがそう告げると、男は微笑みを浮かべたまま頷く。

「もちろんでございます。それでは、参加者と出品物の詳細をご記入ください」

恭しくそう告げると、隣に立つ若い女性が紙とインク瓶をカウンターに置き、羽ペンを両手で持ってストラスに差し出した。一瞬こちらを見たが、良く分からないのでストラスを指差しておいたせいだろう。

ストラスは無言で受け取るとササッと内容を記入して戻す。なんとなくだが、あまり字が上手くないように思えた。

ストラスから用紙を受け取った男は記載内容に目を通していき、徐々に笑みを失う。

「……なんと、フィディック学院の教員と上級教員の……いえ、失礼しました。一つ質問をさせていただきますが、これは、ドラゴンの出品でよろしいですか? ドラゴンの一部、ではなく?」

「成体のドラゴン一体だ。生きていて、傷も無い」

「生きたドラゴンの出品は久しぶりですが、傷も無いものは私も初めてです。こちらに記載されているたった三名で……?」

「そうだ」

質問に対してストラスが簡潔に答えていき、周りの男女も驚きを隠せなくなっていった。しかし、流石は王都オークションハウスの受付というべきか。冷静に全ての内容を確認し終えると、再び冷静な態度で微笑みを浮かべた。

「……承知いたしました。当施設にも大型魔獣用の檻があります。もしかしたら小さいかもしれませんので、まずはその檻に入る大きさか確認に参りましょう」

「頼む」

「申し遅れました。わたくし、オークションハウスの出品担当をしております、クリークと申します。以後、お見知りおきを」

クリークと名乗った男はそう言って一礼すると、柔和な笑みを浮かべたまま顔を上げた。

クリークを連れてオークションハウスから街道まで移動する。街道の外れには大きな石の壁のような物が出来上がっており、その手前でエライザが優雅に寝こけている姿が目に入る。お茶を楽しんでいる内に眠気がきたのだろうか。テーブルに突っ伏すような形で寝てしまっていた。一方、街道の方は落ち着きを取り戻したのか、何人かは大きな岩の壁を見上げたりしていたが、大多数は王都への出入りだったり他の都市への移動を開始しているようだった。

「……あのような巨大な岩の塊があったとは記憶しておりませんが、もしや……」

「ドラゴンを檻に入れて街道に降りたら大騒ぎになってしまったので、とりあえず岩の壁で覆って目隠ししつつ、安心してもらおうと思いました」

疑問に答える。クリークはそれに納得したのか、なんとも複雑な表情で笑った。

「ははは……いや、やはり超一流の魔術師の方々は常識では測れませんね。改めて、そう思いました」

そう言ってから、クリークは岩の壁に近づいていく。すぐそばまで来るとドラゴンの息遣いや身じろぎするような気配が伝わってくる。

「……ここでドラゴンを見ることは出来ますか? サイズなど確認できたらと思いまして」

「はい、大丈夫ですよ」

返事をしてから、岩の壁を崩して地中へと戻した。突如として視界が戻ったドラゴンは一瞬パニックになったのか、岩の壁を解除すると同時に威嚇するような雄叫びをあげてきた。檻越しとはいえ目の前での出来事だ。クリークが失神するのではないかと思ったが、意外にもクリークは冷静にドラゴンを見上げて頷いたりしている。ちなみに、近くで寝ていたエライザは椅子ごとひっくり返ってしまった。

「……なるほど、大型のドラゴンですね。これは、オークションハウスの檻では少々窮屈かもしれません。しかし、この大きな檻をそのままオークションハウスに入れるというのも難しいところですね。オークションハウスの保管室へは搬入することが出来ると思いますが……」

悩むクリークを見て、ストラスが口を開いた。

「それならオークションハウスの会場内で檻を作っても良いだろう」

「……そういったこともお出来になるのですね。では、一旦会場へ運んでみましょうか。ただ、このままだと望まずとも今回のオークションの宣伝となってしまいそうですね」

クリークはそう答えて、含みのある笑みを浮かべる。どうやら騒ぎになっても宣伝できる方が良いと思っていそうだ。

「オークションに運ぶんですか?」

少しテンションの低いエライザが聞いてきた。

「はい……あ、先ほどは驚かせてしまってすみませんでした」

「いえ、大丈夫です。後ろ頭を強めに打ったけど、大丈夫です」

涙目のエライザはそう言って強がると、クリークに顔を向ける。

「オークション会場に檻を作ったらいくらになりますか?」

「え?」

エライザの突然の質問に思わず声が出てしまう。しかし、クリークは当然のように頷き、ドラゴンが入った檻を見上げた。

「そうですね……もし、今後もドラゴンを出品してくださるなら、会場の一部を間仕切りする形で大型の檻に改造してしまえば、とても便利になるかと思います。それだけの工事、通常であれば金貨百枚はかかるでしょう。金貨百枚、いかがでしょう?」

「やった! 金貨百枚で作ります!」

あっという間に檻をお金に換えたエライザが輝くような笑顔でこちらに振り返る。それに苦笑して、感謝の言葉を述べたのだった。