軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レイド王との謁見

紆余曲折あったが、ようやく謁見の許可が下りた。目の前には険しい顔で歩くアードベッグと魔術師の男たち。そして、周囲には私たちが乗る馬車を騎士達が囲んでいる。どうやら、許可が下りたからには要人扱いで送迎してもらえるらしい。カーヴァン王国はなんともややこしい国である。

「謁見の許可を得た。通してもらおう」

「はっ!」

王城に到着し、アードベッグが門番らしき騎士達に声を掛ける。騎士達は素早く門を開けにかかった。城門は見上げるほどの大きさで、物々しい鋼鉄製だった。動かすだけでもかなりの労力が必要そうだが、それよりも街や王城の防衛力が重要なのだろう。

城門が完全に開放されると、巨大な城が目の前に現れた。城はこれまでの豪華な宿泊施設や馬車と同様に美しく、見事なものである。大きさや豪華さだけでなく、十分すぎるほど迫力もある。きちんと戦いの場となることを想定した城なのだろう。

城門を抜けると、馬車が止まって扉が開かれた。

「どうぞ、こちらへ」

そう言って、騎士達が先導する。グレンと一緒に馬車から降りて付いていくと、後ろにアードベッグ達が並んだ。

城の中に入ると、磨き抜かれた美しい石の床が広がった。広いロビーだ。左右に上がれる階段があり、正面には馬車が通れそうな大きな廊下がまっすぐ続いている。

案内を受けて歩いていき、二階、三階と登って行く。気が付けば、真っ白な両開き扉の前に立っていた。

「こちらで陛下がお待ちです。お二人の身元は証明されておりますが、我が国の仕来りの為謁見の間には騎士と宮廷魔術師が参列いたします。ご容赦を」

「はい、分かりました」

案内していた騎士から注意事項を告げられて二つ返事で答える。こちらの返答を受けてから騎士が扉をノックすると、中から扉がゆっくりと開いていった。

扉が開いた瞬間目の前に広がったのは、曇り一つない真っ白な石を磨いて作られた床と壁、そして等間隔に並ぶ頑丈そうな巨大な柱だった。その柱の奥にはずらりと騎士、魔術師が並んで立っている。

カーヴァン王国の謁見の間には絨毯が敷かれておらず、私とグレンの硬い足音だけが響き渡った。アードベッグだけが付いてくるのか、他の騎士や魔術師はそれぞれ謁見の間の左右の壁に分かれて移動している。

奥に目を向けると、最奥のところに十段ほどの階段があり、その上に大きな椅子が置かれていた。まだレイド王は来ていないのか、空席のままである。

謁見の間をグレンと並んで歩いていると、しばらくして階段下近くに立つ騎士から声を掛けられた。

「そこで立ち止まりなさい」

言われるままに立ち止まると、アードベッグが静かに跪く。これは跪いた方が良いのだろうか。

そう思っていると、先ほどと同じ騎士が同様に口を開いた。

「陛下がお見えになる。片方の膝を地面に突いて待つように」

と、新たに指示が来る。横目でグレンを見ると、すでに跪こうとしている最中だった。それに合わせて跪き、なんとなく顔を下方に向ける。

すると、奥で大きな鐘の音が鳴り、騎士が声を発する。

「陛下の御入場です」

その言葉を聞き、わずかに顔を上げる。すると、階段の奥から豪華なマントを羽織った男が現れるのが目に入った。

「来訪者。ヴァーテッド王国グレン侯爵。フィディック学院上級教員のアオイ殿。良くぞ参られた。顔を上げてくれ」

そう言われて、改めて顔を上げる。

椅子に座っている男、レイド王を初めてしっかりと見ることが出来た。意外にも精悍な顔立ちで、騎士と言われても違和感を持たないような風貌である。また、その目には厳しさがあり、こちらの内心を見透かすかのような鋭さがあった。

「中々、謁見の許可が下りなかったと聞く。我がカーヴァン王国は厳しい出入りの管理をしておるが故のことである。国防の為と考え、許してもらいたい」

レイドは表情に似つかわしくない低姿勢でそう告げる。それにグレンが目じりを下げて頷く。

「いやいや、そのようなことで怒ったりはしませんぞい」

「はい、謁見をすることが出来て安心しております」

グレンの言葉に続き、同意に似た返事をした。怒ってはいないが、かなり不安な想いはしたのだ。

その感情が伝わったのかどうかは分からないが、レイドは顎を引いてこちらを見た。

「……グレン侯爵とはこうして直接言葉を交わすのは初めてだったか」

「お互い、出不精じゃからのう」

レイドが少し歩み寄った物言いをすると、グレンは思わずいつもの調子で返事をした。それに、謁見の間の緊張感が高まる。一部の騎士が表情を変えてしまったのが此処からでも分かった。

それを尻目に、グレンは眉をハの字にする。

「……無礼じゃったか。これは申し訳ない」

真摯に謝罪するグレンだったが、レイドが片手を挙げて首を左右に振った。

「良い。忠臣の者しかおらん故、少々過剰な反応をしてしまうことがあるのだ。気にせず、いつもの調子で話してもらいたい」

レイドが許可すると、謁見の間の空気は徐々にもとへ戻っていく。

おや、意外と話せる相手なのか。

そんなことを思いながらレイドを見上げていると、やがて視線がこちらに向いた。

「……その方が、アオイ・コーノミナトという魔術師か。稀代の魔術師で、あのエルフの王にも認められたと聞いている。どのような魔術も扱えるというのは本当か?」

「いえ、エルフの精霊魔術はまだ学んでいる最中です。同じ現象は起こせても、似て非なるものという結果になりました。もう少し研究が必要です」

そう答えると、レイドは興味を持ったのか椅子から少し背を離して顔を前に出す。

「ほう? エルフの魔術を模倣することが出来るだけでも信じられん。どうだ、規模の小さなもので良いので披露してもらえるか」

レイドにそう言われて、すぐに頷いた。

「もちろんです。それでは……室内でも問題が無さそうな水の疑似精霊魔術をお見せします」

そう言って立ち上がると、すぐに謁見の間の騎士や魔術師達が一歩だけ前に出た。もし、私が怪しい動きをしたら全員が止めにかかるに違いない。

それはアードベッグであっても同様なのか、私の後ろで少しだけ腰を上げて様子を覗っていた。

その様子を一瞥してから、魔術を使う為に口を開く。

「…… 小水龍召喚(レビアタン) 」

呟いた直後、水の魔術と風、土の魔術が連動して動き、瞬く間に空中で形を成していった。僅か二秒程度で少し青みがかった色合いの水の龍が空中に現れる。ドラゴンというより東洋の蛇に似た龍という感じだ。

その水龍を見て、謁見の間ではどよめきが起きる。

「……空中を泳ぐように動いているぞ」

「そう見せているだけではないのか」

「しかし、あまりにも自然だ……」

魔術師達の声だろう。そんな言葉が所々から聞こえてくる。

「静まれ」

階段下に立つ騎士が大きな声を出した。すると、すぐさま謁見の間に静寂が戻ってくる。静かになったことを確認してから、レイドは再び口を開いた。

「その水の蛇は、動くのか? どのようなことが出来る?」

興味津々といった様子で尋ねられ、すぐに水龍をレイドの方へ飛ばした。

「へ、陛下……!」

慌てて騎士達が駆けだそうとした為、水龍を階段手前で止める。皆の視線がこちらに向いているのを背中に感じながら、口を開いた。

「警戒させてしまいそうなので、このくらいの距離で実演をいたします」

そう前置きしてから、魔術の説明に入る。

「……この水龍はある程度自立して動くことが出来ます。この魔術の一番の特性は私と水龍別々に魔術を使用することが出来る、というものです。実際にやってみましょう…… 雷戟(トレノ) 」

事前説明をしつつ、まずは自分が魔術を使って見せる。雷の魔術の応用で、自分の周囲に小さな雷球を幾つも発生させるものだ。触れれば高圧の電流により感電する為、攻撃的な防衛手段としても使える。静電気の影響を受けて髪の毛が逆立ってしまうのが難点である。

一方、水龍の方は魔術名も無しで水の魔術を行使してみせた。水を風で巻き上げるようにして操作し、小さな水の竜巻を作りあげる。海の上で竜巻が出来た時に起きる水の柱のような雰囲気だ。ただ、サイズが小さい為威力としてはそれほどでもないだろう。

同時に二つの魔術を行使する様を見て、皆も驚いたのか息を呑む音が聞こえてきた。

階段の上でこちらを見ているレイドも同様である。

「……このように、私は雷の魔術を、水龍は水と風の複合魔術を同時に使うことが出来ました。もちろん、今回は出来るだけ小さな魔術を扱ったので、本来なら水龍単体でも山を削ったり、大きな砦を壊すことが出来るような大きな魔術を使うことが出来ます」

と、簡単に解説を行った。

しかし、数秒もの間反応が返ってこず、何か間違えたのだろうかと不安になる。

「……か、雷の魔術だと……?」

「報告にはあったが、あんな魔術を本当に一人で……」

「……一人で同時に複数の魔術を使うことが出来るというのは、明らかに脅威だぞ」

暫くして誰かが何か呟いたりと反応はあったが、徐々にざわめきが起き始め、やがて謁見の間内は騒然となってしまった。

混乱に近い状態となった謁見の間で、レイドは真剣な目で水龍を見下ろしていた。