軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アードベッグとの再戦1

翌日、いつになく豪華な食事が食卓に並んだ。毎回フルコース料理のように多彩で手の込んだ品が並んでいたのだが、今回は更に繊細かつ豪勢な食事だった。最後のスープをゆっくりと飲んでいると、執事からそっと声を掛けられる。

「ご武運をお祈りしております」

執事からそう言われて、素直にお礼を述べた。

「ありがとうございます。精一杯頑張ろうと思います」

そう答えると、テーブルの奥から恨めしそうな声が響いてくる。

「……わしがあれだけボロボロにイジメられたんじゃもの。勝つに決まっておるわい」

ぶつぶつと聞こえてくる声に振り向くと、何故かゲッソリと頬がこけてしまったグレンがチビチビとスープを飲んでいた。スプーンを口に咥えてカチカチと音を立てる様子は残念ながら教育者には見えない。

「どうかしたんですか、グレン学長?」

尋ねると、グレンはビクリと肩を跳ねさせた。

「な、ななな、ナンデモナイゾイ」

そう答えて、グレンは素早く食事を済ませて立ち上がる。

「さ、さぁ……! 腹ごしらえも出来たし、そろそろ向かうとするかのう! 準備は万端じゃな!」

「え? もうですか? 後三時間ほど余裕があるかと思いますが」

「か、会場の状態も分からないのじゃから、早めに行って色々と確認しておく方が良いじゃろう?」

「なるほど。では、すぐに着替えて参ります」

そんな会話をして、早速出かけることとなった。確かに、言うなれば場所はアウェー、敵地だ。しっかりと現場の状況を確認しておくことが重要かもしれない。

やはり、グレンは様々な経験をしているだけに良く気が付く。

急ぎで部屋に戻って服を着替え、改めて気を引き締めなおした。いつもより念入りに準備をして魔法陣入りの装飾品もきちんと選別して身に着ける。

数分で準備が完了し、忘れ物はないかと室内を確認した。すっかり使い慣れたベッドやソファー、テーブルを見て、何となく引っ越しをするような気持ちになる。

「……この部屋には随分とお世話になりました。帰る際にはお掃除をして帰りたいですね」

常にメイドに掃除されていて清潔な部屋だが、何となく最後は自分の手で掃除をしておきたいものである。

そう思って部屋を出て、一階に下る。するとそこにはグレンの姿があった。

「お待たせいたしました」

「いやいや、わしも今来たところじゃよ」

グレンはのんびりした様子で返事をする。そこへ、執事やメイド達が集まってきた。

「グレン様、アオイ様」

執事が名を呼び、一礼する。それに合わせて、後ろに並ぶメイド達も一礼した。

「行ってらっしゃいませ」

「ありがとうございます。お陰でとても快適に過ごせました」

振り返り、頭を下げてお礼を言う。すると、執事やメイド達が穏やかに微笑んだ。

「……その言葉が聞けて何よりでした」

執事のその言葉に会釈をしつつ、先に行くグレンの後を追い、建物の外へと出る。随分と長い時間がかかったが、せっかちな性分の私が待つことができたのは間違いなく、執事達のお陰である。感謝の気持ちを忘れてはならない。

「おぉ、もう迎えが来ておったようじゃぞい」

先を歩くグレンにそう言われて顔を上げる。すると、通りの前に馬車が一台停まっていた。傍には徒歩の騎士も四人立っている。

「グレン侯爵閣下、アオイ様。お待ちしておりました」

正面に立つ一人が頭を下げてそう言った。その言葉を聞いてから、左右に立つ二人が馬車の扉を開けてこちらを見る。

「おお、お迎えで間違いなさそうじゃのう」

そう言って、グレンは笑いながら馬車に乗り込んだ。どうやら、あの施設での滞在期間の間にすっかり安心してしまったようだ。施設に泊まった初日に襲われそうになったことなど、まったく覚えていないようである。

お気楽なグレンの様子に微笑みつつ、私も馬車に乗った。

「よろしくお願いします」

そう言って馬車に乗り込むと、毛皮が敷かれた上品な馬車の内装に驚く。

「カーヴァン王国はお金持ちじゃのう」

グレンは嬉しそうに馬車の椅子に座り、毛皮を指で撫でるように触ってそんなことを言った。座面と床に豪華な茶色の毛皮が敷かれており、壁や窓枠にも美しい装飾がされている。

ここまで豪勢の限りを尽くされると、流石に心配になってきた。いくら他国の貴族といえど、どうしてここまでするのか。グレンの喜び様を見る限りこれが普通というわけではなさそうだし、長い期間待たせているという自覚があるのだろうか。

それとも、何か罠にかけようとでも思っているのか。

「……今更ですね」

色々と深読みし過ぎてカーヴァン王国に来たばかりのグレンのようになってしまった。心配し過ぎだと自覚し、すぐに気持ちを切り替える。

「実際、カーヴァン王国とはどういう国なのでしょう? 町並みやそこに住む人々を見ると普通と変わらないと思いますが、やはり端々に特異な部分が感じられます」

馬車の扉が閉められたのを確認してから、カーヴァン王国に関して尋ねる。それにグレンは「ふむ」と呟きながら顎髭を指でつまむ。

「まぁ、特殊は特殊かもしれんなぁ。他の国はそれなりに獣人やドワーフなどが住んでおるが、カーヴァン王国には一切亜人種はおらん。ある意味、エルフの王国と真逆で人間を尊重し過ぎているのか。それとも、獣人やドワーフ、エルフらを信じることが出来なかったのか……その辺りはわしでも分からんのじゃよ」

グレンの返事を聞きながら、頷いて馬車の窓を開ける。外の景色を見ると、ちょうど王都の中心を囲む城壁を通るところだった。その城壁の前では、幾人もの騎士達が並び、通る人々を厳重にチェックしている。

「……確かに、外からの出入りは王都の周りを囲む城壁と城門で管理しているはずなのに、この城壁でも厳しく一人一人確認しているのは、過剰だと思います。王都内を別つ壁は、その言葉通りに受け取れば王都内に住む人々であっても信じることが出来ないということでしょう」

そう呟きながら、城門でチェックに引っ掛かって通過することが出来なかった中年の男性を眺める。男性は重要な用事があったのか、城門を管理している衛兵に詰め寄り、必死に訴えている。だが、胸を片手で突き飛ばされて地面に倒れこんでしまった。

衛兵は倒れた男性に見向きもせず、そのまま列の次の人物を指差して声を掛ける。

「……人を信じられないというのは、寂しいものですね」

何となく、そんな言葉を口にしてしまった。すると、グレンが釣られるように外を見て口を開く。

「さてのう。考え方は人それぞれじゃよ……良くも悪くも」

何か違う視点から発されたようなグレンの台詞に、視線だけを向けた。

「見方を変えると違う、ということですか?」

聞き返すと、グレンは遠くを見つめたまま首を左右に振る。

「……いや、何か知っているわけではないぞい。ただ、どんなことも白か黒だけではないと思うんじゃ」

「なるほど……確かに、それだけ慎重である、という見方もありますからね」

グレンの言葉に、私は少しだけ色々と考える部分があった。