軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

有能な男

ロレットが施設を出て行ってから二日。まだ何も連絡が無く、私はもうそろそろ諦めて自力で王城へ訪ねていこうかと思い始めていた。だが、その話をする度にグレンから「いやいや、もう少しだけ待ってみようじゃないか」と諌められてしまう。

食事を終えて、グレンは昼間から軽い足取りで浴室へ向かい、執事やメイドが音もなく食器類を片付けていく様子を横目に見ながら、口の中で呟く。

「……夜中に内緒でレイド陛下の部屋に侵入したらダメでしょうか。いや、一応城門まで行って、直接用件を伝えに行く方が……」

強硬手段の方法について検討をしていると、食事の後片付けを終えた執事がこちらに歩いてきた。

「アオイ様。ロレット様がお見えです」

「ロレットさん? それでは、ようやく謁見の話が……」

ロレットの名を聞いて、勢いよく立ち上がりながら答える。執事は私の問いに答えなかったが、その微笑みはどこか嬉しそうに見えた。

「グレン様はメイドに呼びに行かせますので」

「ありがとうございます。私は先に応接室に行っておきますので」

「はい、承知いたしました」

それだけのやり取りをしてから、足早に食堂を後にする。廊下へ出て、メイド達に軽く挨拶をしながら通り過ぎ、応接室へと向かった。

ドアをノックすると、中から声が聞こえて来る。

「失礼します」

そう言ってドアを開けて応接室の中に入ると、ロレットがソファーに深々と座ってこちらを見ていた。その後ろにはティスとコラムが立っている姿も見える。

「アオイ先生」

「アオイ殿」

私の姿を見て、ティスとコラムが笑顔になって名を呼んだ。

「ロレットさん、ティスさん、コラムさん。皆さん、お揃いですね」

そう言ってから挨拶をすると、ロレットが片手をあげて遮った。

「とりあえず、用件を済ませておこう」

ロレットがそう言うと、何か話しかけようとしていたティスが口を噤んで背筋を伸ばした。それを横目に、ロレットに対して口を開く。

「はい。お待ちしておりました」

そう答えると、ロレットは肩を竦めて応える。

「それは我々ではなく、王との謁見の話だろう? まぁ、良い。とりあえず、陛下との謁見は決まった。だが、最終確認として、我が国の宮廷魔術師であるアードベッグと魔術対決をしてもらいたい、ということになったのだが」

「……それはつまり、フィディック学院でアードベッグさんの魔術を相殺したから、本物ならそれと同じことが出来るだろう、ということですか?」

聞き返すと、ロレットは不満そうに腕を組んで唸った。

「とりあえず、私の証言でグレン侯爵とアオイ殿が本物であるという話にはなったのだが、調査室としては王の血筋同士の情報で片方に偏ることは難しい、ということらしいな」

「……王の血筋同士?」

ロレットの言葉の中に気になる単語があった。それを復唱すると、ロレットは思わず顔を顰める。

「余計なことを言ったかもしれんが、それは気にするな。とりあえず、日時は明日の午後だ。明日の午後、そこの城壁の向こう側、街の中心にほど近い場所にある大広場で魔術を披露してもらう。問題はないな?」

「はい、それは構いません」

待ちに待った機会だ。ロレットの問いに即答で返事をした。それに不敵な笑みを浮かべて、ロレットが頷く。

「話はついたな。それじゃあ、後は任せるとしようか。グレン侯爵によろしく言っておいてくれ」

「ロレットさんは陛下との謁見に同席しないのですか?」

用件は済んだとロレットが帰ろうとした為、何となく気になって尋ねた。すると、ロレットは鼻を鳴らして面倒くさそうな顔を隠さずに首を左右に振る。

「……私は陛下とは少しそりが合わなくてな。下手に入るとややこしくなりそうだ。当日はストーン家に同行してもらって、グレン侯爵と合わせて四人で行くがよい」

「そうなんですか? まぁ、こちらは構いませんが……あ、皆さんにはとてもお世話になってしまいました。この御恩はまた何かの際にお返ししたいと思います」

そう言って深々と一礼すると、ティスたちが首を左右に振って苦笑した。

「い、いえ、全てはロレット閣下の御力ですから」

ティスがそう答えると、ロレットは片手を振って口を開く。

「そんな話はどうでもよい。とりあえず、アードベッグとの魔術比べに備えて準備をした方が良いんじゃないか?」

ロレットにそう言われて、確かに、と頷く。

「そうですね。ロレットさん、ありがとうございます。それでは、今日はグレン学長と魔術比べをして予行練習をしておこうと思います」

そう答えた直後、ドアをノックしてグレンが部屋へと入ってきた。グレンはしっかり浴室を堪能してきたのか、血色の良い顔色で微笑んだ。

「おお、ロレット殿。ディーン君のご両親も……これは良いお話を聞かせてもらえるのじゃろうか」

ほかほかと湯気を立てながらグレンが歩いて来ると、ロレットがにやりと含みの笑みを浮かべる。

「グレン侯爵。明日の魔術比べでアオイ殿がアードベッグと戦い、勝利したら謁見が実現することになりましたぞ」

「おお! それは凄いのう! まぁ、正直なことを言うと、もう少しここでゆっくりしても良かった気がするがのう」

と、ロレットの言葉にグレンは喜びつつも残念そうにした。

「それほどまでに気に入ってもらえたなら、執事やメイド達も喜ぶことだろう。ところで、明日のアードベッグとの魔術比べに備えて、アオイ殿がグレン侯爵と予行練習で対決したいそうだが……」

ロレットがそう言うと、グレンは笑顔のまま固まり、ぎぎぎぎと音が聞こえそうな動きでこちらに顔を向けた。

「よろしくお願いします」

そう言って一礼すると、グレンは「ヒェ」と変な声を発して動かなくなったのだった。