軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本音で

ロレットが私の表情に気が付き、吹き出すように笑い出した。

「ふ、ははは……! アオイ殿は考えていることが手に取るように分かるな。だが、普段貴族ばかり相手にしている私としては新鮮で面白い反応だ」

ロレットがそんな感想を口にすると、グレンが冷や汗を手のひらで拭いながら何度か頷いてみせた。

「うむうむ……そういう意味ではわしも同様かのう。そうじゃろ、ロレット殿?」

グレンがそう聞くが、ロレットは急に真顔になって視線を返す。

「グレン殿は侯爵でありフィディック学院の長でもある。アオイ殿とは立場が違うのだから、学長として学院を守ることも視野に入れて行動してもらいたいものだな」

「Oh……」

ロレットの厳しい指摘に、グレンは分かりやすく項垂れた。それに傍から見ていただけのティスとコラムの方が不安そうにしていた。

と、そこへ扉をノックする音が聞こえて来る。返事をすると外から扉が開かれた。

「失礼いたします。お飲み物をご用意いたしました」

「ありがとうございます」

開かれた扉からは執事が一番に顔を出し、後にメイド達が配膳台を押して入室してくる。メイド達は流れるような動きでテーブルに茶器の類を並べていくが、ロレットは執事の顔から視線を離さなかった。

「それでは、引き続きご歓談を」

執事はそれだけ言ってメイド達とともに部屋を出ていく。その後ろ姿を見送ってから、ロレットに向き直る。

「あの執事さんはお知り合いですか?」

そう尋ねると、ロレットはなんとも言えない顔で唸った。

「まぁ、それなりにな……いや、そんなことはどうでも良い。我々の耳にもフィディック学院での出来事が伝わってきたのだから、陛下の耳にもすぐに入ることだろう」

「陛下の耳に……それでは、謁見の許可も下りるでしょうか?」

ロレットの言葉に反射的に謁見の機会について尋ねる。もう随分と待っているのだから、何処の誰がカーヴァン王国に来ているのか察してくれても良いのではと思う。

しかし、ロレットはなんとも言えない顔で腕を組んだ。深い息を吐き、眉根を寄せる。

「……そうはならないだろうな。私も話を聞いてすぐに陛下との謁見が行われたんじゃないかと思って調べたんだが、どうも誰かが情報を遮っているようだった」

低いトーンで告げられたその言葉にロレットはティスの方を見る。

「調べた結果はどうだった?」

「は、はい! 通常でしたら、この建物に滞在することが決まった時点で王城に報告が入ります。その後、その人物の国籍や肩書き、地位が間違いないか確認をします。場合によってはその人物の行動、性格、実績などについても噂レベルで調査を行いますが、そういった状況だと確かにかなりの時間を要することもあります」

ティスがそう前置きすると、引き継ぐようにしてコラムが口を開いた。

「ただ、今回はグレン学長とアオイ先生のお二人なのでこれほど待たせることは無い筈なのです。そのことに違和感を持って確認に行ったのですが、どうも調査室はグレン学長とアオイ先生を騙る何者かである可能性について調査をしているようです」

コラムがそう話し、ロレットが溜め息を吐く。

「……まぁ、普通に考えてグレン学長みたいな有名な貴族の名を騙る者などいないが、偽者かもしれないと言われてしまえば、調査室は調査せざるを得ない。なにせ、陛下に謁見を申し出る他国の上級貴族が偽者なのだとしたら、狙いは陛下の暗殺以外に考え難いからな」

ロレットがそう口にすると、一瞬の沈黙が室内に満ちた。

厳しい顔をするロレットやティス達を見て、私は落ち着いて確認する。

「……つまり、誰かがわざとそういった情報を流して、私達の邪魔をしている、ということですね。そして、困ったことに調査室という機関はそれを無視することが出来ない、と」

「……もし届いた情報を大した調査もせずに誤報であると断じた場合、何かがあった時は全ての責任をとらされることになる。だから、グレン侯爵とアオイ殿の情報はフィディック学院の中だけじゃなく、他国での行動や言動なども調査される。それがどれだけ時間が掛かったとしても、だ」

ロレットのその言葉に、今まで黙って話を聞いていたグレンが困ったように口を開いた。

「それは、どうしたものかのう……慎重にならざるを得ないという気持ちは分かるのじゃが、我々はこの通り極めて平和的な学院の長と教員じゃ。何も心配することはないとロレット殿から言ってくれんかのう?」

グレンのそんなセリフに、ロレットは皮肉げな笑みを浮かべた。

「……誰が平和的な人間だと? 言っておくが私だって節穴じゃないし、独自の目と耳を持っている。グレン殿の過去の話は遠い昔だとしても、アオイ殿の噂はどれもとんでもないものばかりだ。それも、大国であっても無視できないような過激なものまで揃っているときた。悪いが、誰かの余計な情報が無くても多少慎重な王ならば、アオイ殿が訪ねてきたとあれば警戒しても仕方がないだろう」

と、ロレットは大変失礼なことを言う。

「いえ、私は教員としての正しいと思う道を邁進しています。何故、警戒されないといけないのでしょうか?」

「……あえて一番警戒すべき噂を例に出すとするならば、ヴァーテッド王国の特別自治領であるウィンターバレーを裏側から支配している、というものか」

「……支配はしておりません。知り合いがいるだけです」

「本当か? 上下関係が少しでも存在するなら実質支配していることと変わらないぞ」

「……それは、判断が難しいところがあるかもしれません」

少し濁して答えると、ロレットは呆れたような顔になった。

「本人がはっきりと違うと言えないような状況なら、他国が警戒するのは当たり前というものだ。違うか?」

「…………違いません」

ロレットの言葉にがっくりと項垂れて肩を落とす。

確かに、ロレットの言う通りだ。どんな噂が流れているのかは知らないが、先ほどのものに近い噂を耳にしているなら簡単に会おうなどと思ってくれるはずがない。

「……どうしましょう」

困り果ててそう呟くと、グレンが短く息を吸ってソファーから腰を上げて立ち上がった。

「よし、わしがレイド王を説得するとしよう。アオイ君のこれまでの色々は、全て善意や厚意によるものであり、悪意はなかったと説明するぞい。そうすれば、色々と起こしてしまった問題も違う見方で見てくれるようになると思うのじゃよ」

グレンが力強くそう宣言する。いつになく頼りになる学長の姿に内心感動していると、ロレットが短く息を吐いて笑った。

「は、ははは……そもそも、グレン侯爵は陛下に会えない状況だが、どうやって説得するつもりなのかね」

その言葉を聞き、グレンは静かにソファーに座りなおし、両手で自らの顔を覆い隠す。その格好のまま何も言わずに押し黙ってしまったグレンを横目に見つつ、私は代わりにロレットに質問をした。

「……それでは、もうどうしようもないということですか? 本当に無理なのであれば、申し訳ありませんが強制的にレイド王に会いに行こうかと……」

そう告げると、ロレットだけでなく、ティスやコラムの表情も凍り付いてしまった。やはり、まずいだろうか。

「……ダメですか? それなら、風の魔術で手紙を届けてみましょうか」

「それも、捉え方によってはいつでも暗殺できるぞって言ってるようなものだ。下手をしたら警戒心を最大にまで引き上げてしまうだけだろう」

ロレットの指摘に、視界が真っ暗になってしまったかのような錯覚を受けた。話せば分かってもらえると思って来たのに、まさか会うことも出来ないとは。

それどころか、今のロレットの話を聞く限り、会えないからと言って勝手に帰ってしまったら完全に不信感を抱かれてしまう気がする。

これは、もはやどうにもならないのだろうか。

そう思ったその時、ロレットが自らの胸を指さして口を開いた。

「……だから、俺が話をする機会を用意してやろう」