軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レイド王

「ほ? カーヴァン王国の国王? レイド・ディスティラーズ・レイバーン陛下じゃな。レイド王は若くして国王になったのじゃが、色々あって極度の出不精でな。そもそも人と接することが苦手と聞いたこともあるぞい」

グレンは斜め上を見上げながら思い出すようにそう語った。

「……何故、そのような人が国王に? どう考えても向いていないでしょう」

そう呟きつつ、成程と納得もした。各国の代表が集まる時、カーヴァン王国とブッシュミルズ皇国だけは王が来ることは無かった。まぁ、中々王も予定を合わせることが出来ないと言われればそうなのかもしれないが、今まで一回も来たことが無いのは気になるところだ。

「それでは、ブッシュミルズ皇国の王も国から出たがらない性格なのですか?」

そう尋ねると、グレンは首を左右に振る。

「いや、ブッシュミルズの国王はただ単純にとても慎重派な性格なだけじゃ。正確に言えばレイド王も神経質なほど慎重な性格だが、ブッシュミルズの国王はその比ではない。だからこそ、国境を守るラムゼイ侯爵などの上級貴族に相当な武力を保持することを許しておる。他の国であれば、反乱を恐れて一人の貴族に多くの武力を保持させたりしないことが多いのう。それだけ、ブッシュミルズ皇国が何度も侵略された過去があるということでもあるがの」

「ブッシュミルズが、ですか?」

グレンの説明に驚く。戦闘狂のようなラムゼイ侯爵のことを考えると、とてもではないが侵略されるような国とは思えない。

何を考えているのか分かったのか、グレンは苦笑しながら頷く。

「ラムゼイ侯爵やフェルター君のことは例外と思ったほうが良いぞい。ケアン侯爵家は極端に武闘派なのでな。遥か昔のブッシュミルズ皇国はもっと小さな国で、奴隷狩りが盛んだった頃に獣人達が逃げ込む避難先のような立ち位置だったのじゃ。獣人が奴隷狩りの対象じゃった頃は、ブッシュミルズ皇国はずいぶんと酷い目にあったとのことじゃ。今でこそ大国として認められておるがの」

「……恐ろしい時代があったのですね」

奴隷狩り。酷い言葉だ。獣人と聞いてシェンリーの笑顔を思い浮かべてしまい、胸が締め付けられるように痛んだ。

見た目が違うからと、差別の対象になってしまったのだろう。そんな時代にシェンリーが生まれなくて良かったなどとと思い、すぐにそれは自分のエゴであると気が付いて自己嫌悪に陥る。

その時代にも、シェンリーのように心優しい獣人の子は多くいたのだ。そんな子達が犠牲になった事実から目を逸らしてはいけない。

そう肝に銘じながらも、本題から逸脱してしまったことを思い出してグレンに声を掛ける。

「……ブッシュミルズ皇国にそんな歴史があったことは分かりましたが、カーヴァン王国のレイド王には何があったのでしょう?」

そう尋ねると、グレンは自らの顎を指でつまみながら唸った。

「うむ……先ほどレイド王が若くして王になったと言ったのを覚えておるかの?」

「はい」

そう答えると、グレンは軽く頷き返して口を開く。

「レイド王が王となったのは、僅か六歳の頃じゃったという」

「六歳? そんな年齢で国王など出来るのですか?」

グレンの言葉に思わず驚いて聞き返した。グレンは目を細めて少し悲しそうな表情になり、顎を引く。

「もちろん無理じゃよ。それだから、レイド王には助言役として当時の大臣が任命されたのじゃ。しかし、その助言役とは名ばかりでの。王家の血筋ではない大臣が王国を好きに操る為に作られた傀儡政権となってしまったのじゃ。厄介なことに、レイド王は賢く、慎重であった。それ故に傀儡となってしまっていることに早期に気付けたのじゃが、結果として国を二分するような内乱にまで発展してしまった」

そう口にしてから、グレンは腕を組んで溜め息を吐く。

「その内乱は五年間も続いたのじゃ。結果、当時十代だったレイド王は暗殺の恐怖に怯えながら、誰が味方か敵かも分からない状況で大臣派と争い、最後には大臣派の貴族やその血縁者、そして協力者合わせて数千人の首を刎ねることとなった」

「……数千人。それだけ、大臣派の人が多かったのですね」

幼い頃からそんな過酷な環境で育ったのか。そう思い、まだ見ぬレイド王に同情のような気持ちを抱く。グレンも似たような気持ちなのか、深く頷きつつ溜め息をついた。

「そのせいじゃろうな。レイド王はその時の忠臣と、何より家族をとても大切にしておる。いや、大切にするのは良い事なのじゃが、少々いき過ぎておるくらいじゃ」

「過保護、ということですか?」

「うむ。簡単に言うならそうじゃのう」

グレンが同意の言葉を口にした。

その話を聞き、これならば何とかなるだろうと少し自信を持つ。

「ご安心ください。過保護なご両親を説得した経験があります。何とかしてみせます」

胸を張ってそう告げると、グレンは目を丸くして顔を上げた。

「なんと。それは頼もしいのう。ところで、その時はどのようにしたんじゃ?」

そう聞かれて、日本での教師時代を思い出しながら回答する。

「やはり、時間をかけての説得ですね。最初は家庭訪問をして現状を伝え、その後実際に授業の様子を見てもらったりもしました。実際に自分の目で見ることも大切ですからね。生徒達には内緒にして授業の見学などをすると効果的です」

そう告げると、グレンは若干頬を引き攣らせて口を開く。

「……も、もしや、またその国の代表をフィディック学院に呼びつけるつもりかの? 前回はロックス君じゃったから、距離的な問題があまりなかったが、カーヴァン王国の王都から国王を呼ぶとなると、中々難しい気がしてならんのじゃが……」

恐る恐るといった様子で、グレンはそんなことを聞いてきた。それに首を傾げつつ、自分の考えを述べる。

「そのあたりはあまり心配しておりません。地図で確認したことがありますが、飛翔魔術で片道二日以内に辿り着くことが出来るはずです。まずは私が直接カーヴァン王国に行って今回の事柄について詳細を話に行きます。レイド王が納得してくれない時は、ジェムソンさんを交えて話しをしましょう。他国の魔術学院で、どのような行動をとったのか。そして、何故国外追放となったのか」

「Oh……国外追放と聞くと中々重いのう。もう少し柔らかい言い方はないじゃろうか……いや、そもそも、レイド王がそれでも納得しなかった場合はどうするのかの?」

グレンは不安そうにそんなことを言う。

「納得してもらうまで話をするしかありません。大丈夫です。誠心誠意説得し続ければ、いつかは分かってもらえます」

「……いつかはカーヴァン王国が壊滅しておったりして……」

「何か言いましたか?」

小さな声でぶつぶつ何か呟くグレンに聞き返すと、すぐに首を左右に振って口を開いた。

「ナンデモナイゾイ」

何故か片言で返事をするグレン。

不思議に思いつつ、グレンの執務室を後にする。グレンから得た情報を整理したが、やはり当初の予想通り、フィディック学院に迷惑がかかる前に一度カーヴァン王国へ説明に行った方がよさそうである。

そう決めた私は、すぐに準備に取り掛かるのだった。