軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出発からの到着

馬車に乗って空を飛び、カーヴァン王国を目指す。馬車の中からはグレンが顔を出しており、地面が流れる様を見て目を輝かせていた。

「ぅおっほほーう! 凄いのう! アオイ君が本気を出すとこんなに速いんじゃのう!」

と、グレンは歓声を上げる。それに微笑みつつ、さらに速度を上げた。

「いえいえ、まだまだ速くできますよ。ただ、制御が曖昧になってしまいますが」

「お、おお……それはちょっと怖いぞい。というか、すでにとんでもなく速いと思うんじゃが? お、勘違いじゃなければさらに加速しとらんかの? もう十分じゃぞ? おーい、アオイ君?」

「いえ、時間短縮の為にもう少し加速しますね」

いくら効率化した飛翔の魔術とはいえ、速度を上げ過ぎると魔力の消費が増えてしまう。グレンは燃費を心配してくれているのだろう。

しかし、時は金なり、である。魔力を温存する必要もないだろうと判断し、さらに速度を倍にしてカーヴァン王国の王都を目指したのだった。

そのおかげで、夜に差し掛かる前に目的地近郊に辿り着くことが出来た。

「おお……あの特徴的な尖塔の数は、間違いなくカーヴァン王国の王都じゃ……まさか、ほぼ一日で着いてしまうとは……」

グレンがそこはかとなくぐったりとした様子でそう呟く。その言葉を聞いて、目の前の都市を改めて観察してみた。

確かに、日が暮れてきていてほとんどシルエットになりつつあるが、まるでニューヨークのマンハッタン島の夜景のようだった。ビルの代わりに背の高い尖塔が幾つも立ち並んでおり、尖塔の各所に明かりが灯っている。美しく幻想的ながら、どこか恐ろしさを感じるような景色だった。

周囲が高い城壁に覆われているから要塞のような無骨な雰囲気となるのだろうか。

ふと空を見上げると、もう星が見え始めていた。空の色もオレンジ色から紫や青色が混じってきている。

「とりあえず、王都に入って宿を探しましょうか」

そう提案すると、グレンが困ったような顔でこちらを見た。

「いきなり王都に入ることは出来んじゃろう。ここはカーヴァン王国の王都じゃ。人間不信……いや、慎重に慎重に行動するレイド王の居城がある街じゃからな。ちょっとやそっとの防衛力ではないと思うぞい」

グレンがそう口にした直後、まるでそれを合図にしたかのようにどこからか男性の声が響いてきた。どうやら、風の魔術を使って遠隔通話のような要領で声を飛ばしているらしい。

「ここはカーヴァン王国の王都である。貴殿らは何者か?」

厳しい雰囲気の中年男性の声だ。魔力の残滓から方向を探ってみると、どうやら尖塔の一つからのようだった。

「私が答えて良いですか?」

「おお、アオイ君が珍しくわしを立てようとしてくれておるのかの? とはいえ、こんな状況で顔を立てられても困るから、アオイ君が話をしてくれて構わんぞい」

眉を八の字にしてグレンがそう言ったので、代表して私が答えることにする。

「我々はヴァーテッド王国のフィディック学院から来ました。学長のグレンと教員のアオイと申します。王都への入場を許可してもらえませんか?」

そう尋ねるとしばらく間が開いた。

「……風の魔術によって飛翔魔術を使い、さらには遠距離での会話を可能にしているとは、宮廷魔術師級以上の魔術師とお見受けする。そのような相手をこの王都に簡単に入れるわけには……」

と、断られそうな感じになったが、すぐに言葉が聞こえなくなる。またしばらく待たされたが、すぐに別の声が聞こえてきた。

「……失礼。先ほど、アオイ殿とお聞きしましたが、フィディック学院の上級教員であるアオイ殿でしょうか」

「はい? ええ、フィディック学院にアオイという者は私しかおりませんので」

そう答えると、男は押し黙ってしまった。

「……どうしたのでしょう?」

あまりにも長い時間沈黙が続いている為、グレンに意見を求める。すると、グレンは馬車から顔を出して唸った。

「なんじゃろうなぁ……もしや、カーヴァン王国では悪い噂の伝わり方をしとるんじゃろうか。メイプルリーフやエルフの王国を制圧した学院の魔女、みたいな感じ」

「私がですか?」

「他におらんじゃろうもん」

あまりの言葉に聞き返すと、グレンは目を瞬かせて当たり前のようにそう言ってきた。

「……甚だ不服ですが、もしそんな噂が広まっていたら、もしかしたら攻撃されてしまう可能性もありますね」

少し緊張しながらそう告げると、グレンは片手を左右に振って否定した。

「逆じゃろう。誰かも分からん魔術師が急に王都に現れたら追い返すか武力鎮圧となるが、アオイ君が来たとなったらそんなこと恐ろしくて出来ないじゃろ」

「恐ろしい?」

「やや……! 違う違う、恐れ多いと言ったんじゃよ。やはり、エルフの王に認められた魔術師など聞いたことがないからのう」

と、グレンは妙に慌てた様子で言い換えた。

その様子に溜め息を吐きつつ、首を左右に振る。

「一部の方々から怖がられているのは承知しております。とはいえ、アードベッグさんも言っていましたが、カーヴァン王国ほどの大国が個人を怖がることもないでしょう」

グレンにそう告げると、グレンが何か答える前に王都から声が聞こえてきた。ただし、今回の声は少し気の強そうな女性の声だ。

「……現在、陛下は謁見をしておりません。しかしながら、事情があるだろうとのことで、謁見の時間を設けてくださるとのことです。その間はこちらが指定する場所で待っていただきますが、問題はありませんね」

丁寧な筈なのに、どうにも言葉の端々に棘が感じられた。

すぐには答えず、グレンに顔を向ける。

「……王に謁見を求めた記憶はありませんが」

確認すると、グレンは難しい顔で頷く。

「レイド王の方が会いたいのかもしれんぞい。もしくは、ジェムソン殿下とアードベッグ魔術師長から話を聞いていて、謁見が目的であると看破したかもしれんのう」

グレンの推測を聞き、納得した。

「なるほど。それならどちらにしても明日まで待った方がよいですね。どんな理由であれ、謁見が出来るというのなら願ったり叶ったりです」

「そうじゃのう……願いが叶うかどうかはまだ分からない気もするがのう……」

そんなやり取りをして、私は尖塔にいる魔術師へ声を飛ばした。

「はい。問題ありません」

そう答えると、数秒の間が空いて先ほどの女性の声が聞こえてくる。

「……それでは、正門を開けますのでそちらに降下してください。なお、こちらからは宮廷魔術師団が同行します。良いですね?」

「はい、構いません。それでは、下に見える大きな城門へ向かいます」

それだけ告げて馬車を降下させる。地面が近づいて来ると、想像以上に城壁が高いことに気が付く。広く、整備も行き届いた街道はあるが、夜だからか人の姿はない。巨大な城壁を下から見上げていると、壁の向こうで何かの装置が作動する音が鳴り響いた。地響きにも似た低い音を立てて、城門が徐々に開き始める。