軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

グレンの困惑…

「……それで、わしのところに来たのかの?」

グレンが困ったようにそう呟き、椅子に座ったままこちらを見上げた。

「はい。学長としてはどうされるおつもりですか?」

そう聞き返すと、グレンは眉をハの字にして唸りながら、私の背後にそっと視線を向けた。そこには一人用のソファーに座るジェムソンとアードベッグの姿がある。

「……このような形で最初の挨拶をすることになるとは思わなかったぞ、グレン侯爵殿」

ジェムソンが腕を組み、低いトーンでそう口にする。それにグレンは苦笑しつつ頷いた。

「そうですな。いや、本当にもう少し平和な形でお会いしたかったと思っておりますぞ」

冷や汗を片手で拭いつつグレンがそう答えると、ジェムソンは舌打ちをして目を細める。

「……そんな返答をするあたり、魔術師として上級貴族まで成り上がったというのは本当だろうな。生粋の貴族であれば、そのような返答など絶対にしない」

そう言うと、ジェムソンは肩を竦めて大仰に両手を広げる。

「まぁ、良い……それで、グレン学長はどういう処分を下すつもりだ?」

と、ジェムソンはまるでグレンの上司かのような態度でそう尋ねた。それにグレンは溜め息を吐いて顎を引く。

「……そ、そうですなぁ。では、一応学院から出てもらうことに……」

「ふむ? 思ったより処分は重いようだな。しかし、学院から追い出したところでその後はどうとでもなるだろう。その後のことも考えた処分が必要だ」

ジェムソンが口の端を上げてそう言うと、グレンは顎を指でなぞりながら成程と頷いた。

「それは確かに……では、このウィンターバレーから出てもらい、さらに飛翔魔術で自国まで連れて行くとしますかの」

そう告げると、ジェムソンは片方の眉をあげて生返事をした。

「ふむ……自国ということは、出身地はこのヴァーテッド王国ではなかったということか。だが、そうなると話は変わってくるな。魔術学院で働くことが出来ないように、六大国全てにこの事実を伝えることが肝要だろう。どう思うかね」

ジェムソンが笑みを浮かべてそう告げると、グレンは眉根を寄せて顔を顰める。

「そ、そこまですると、流石に遺恨が残ると思うんじゃよ。それこそ、王位継承権にも影響が……」

グレンが苦笑いを浮かべて再度冷や汗を拭いつつそう言うと、ジェムソンは顔を上げて眉間に皺を作る。

「……王位継承権? ちょっと待て、今、誰の話をしている? アオイの教員としての資格の話ではないのか」

ジェムソンがそう口にすると、グレンは真顔で首を左右に振った。

「……ジェムソン殿下。心して聞いてほしいのじゃが、全て殿下の処罰を決めるお話ですぞい」

改めてそう告げると、ジェムソンは呆気にとられたように目と口を丸くして動きを止めた。暫くして、ようやくグレンの言葉の意味が理解できたのか、顔を真っ赤にして椅子から立ち上がる。

「ど、どういうことだ!? 貴様の学院では一般市民出身の教員が無礼な行いをしたというのに、王族である私を処罰するというのか!?」

激昂するジェムソンに、グレンはどうしたものかとこちらを見てきた。それまで私はアードベッグが何かしないか注視していたのだが、どうも抵抗するつもりもないようなので視線を外して答える。

「……フィディック学院は王族、貴族、市民に対して差をつけることなく、公平に学ぶことが出来る場所です。逆に言えば、王族が自らの地位を振りかざして横暴な行動をとった時は、他の生徒が暴れた時と同様に対処をしています。ただし、今回はジェムソン殿下はまだフィディック学院に入学されていませんので、自国にお帰りいただくという処分になる、ということですね」

簡単に説明すると、ジェムソンは声にならない声をあげて何か反論しようとするが、私とグレンの目を見て一瞬怯み、アードベッグに助けを求めるように視線を向けた。

すると、これまで黙っていたアードベッグが溜め息を吐いてから口を開く。

「……仮にも魔術師として敗北した以上何も言うまいと思っておったが、仕方がない」

そう呟き、アードベッグは私を見た。

「……最低でも私と並ぶほどの類稀なる魔術師。その上、それほどの圧倒的な技量、魔力をその若さで手にしたとあらば、アオイ殿は史上稀にみる天才なのは間違いない。しかし、それ故に傲慢になり過ぎているようだ……まさかとは思うが、たった一人で大国を相手に出来るなどとは思っていまい?」

アードベッグが低い声で淡々とそう告げ、ジェムソンが深く頷いてから賛同する。

「そ、その通りだ! どれだけ優れた魔術師だろうと、我がカーヴァン王国を相手にたった一人では何も出来ん! そもそも、私は貴様を王族にしてやろうと言ったのに、何故私を処罰するなどという話になるのだ!? まったくをもって理解し難い!」

怒鳴りながら身振り手振りを交えて怒りを表現するジェムソン。まぁ、王族としてはそれほどの屈辱だったのかもしれない。

仕方なく、改めて説明をする。

「……王族に関する部分が問題になったのではありません。学院内のルールに反したこと。そして、学院内で魔術を使って暴れたことが問題となったのです。もし、ジェムソンさんとアードベッグさんが最初からこちらの言うことを聞いてくれていたら、このようなことには……」

「馬鹿な! ただの教員が王族に命令するなど、あってはならないと何故分からない!?」

説明途中で話を遮られてしまった。やはり、話を聞く気はないようだ。

グレンにどうするつもりか確認しようと視線を送ったが、冷や汗を拭うばかりである。

「……分かりました。それでは、フィディック学院に迷惑をかけないように、私からカーヴァン王国の国王様に会いにいきましょう。為政者たる者、ジェムソンさんよりは話が通じるでしょうから」

「な、な、なななな……!?」

きっぱりとジェムソンの能力不足を指摘しつつ、国王に直談判をすると告げた。予想通り、ジェムソンは激怒を通り過ぎて顔面蒼白になっている。

一方、アードベッグは呆れたような顔で失笑すると、グレンに目を向けた。

「……随分と自由に教員を働かせているようだが、本気で言った通りにさせるつもりですかな? はっきり言って正気の沙汰ではありませんぞ」

アードベッグが警告に近い言葉を口にする。それにグレンは曖昧に笑いながらも、しっかりと頷いた。

「ははは……まぁ、これで間違ったことをしようとしていたら止めるところじゃが、アオイ君の言う事は学院の教員として正しいことなのじゃ。学長たる自分が学院の決まりを曲げて権力に屈してしまっては、何故この学院を建てたのか分からなくなってしまうわい」

グレンがそう言って困ったように笑うと、アードベッグは片方の眉を上げた。

「……つまり、王族よりも一人の教員の言葉を優先する、と?」

アードベッグがそう聞き返すと、グレンは首を傾げる。

「おや、聞いておらんかったのか? フィディック学院の決め事通りに、ジェムソン殿下を追放処分とする。それが、学長たるわしの決定じゃよ」