軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勘違い男の成敗

ジェムソンとアードベッグを順番に見やり、しっかり、はっきりと否定の言葉を口にする。

「……申し訳ありませんが、カーヴァン王国の王妃に、一切興味ありません。そもそも、学院内のルールを守らない人は生徒として相応しくありません。今回はフィディック学院の見学に来たということにしておいてあげますので、自由気ままに振る舞うことが出来る、カーヴァン王国内の魔術学院へ行かれることをお勧めいたします」

苛立っていたせいもあり、少々棘のある言い方でジェムソンを拒絶してしまった。言い終わった後に少し後悔したが、訂正するつもりはない。ジェムソンは二十歳前後だろうし、我が侭を注意する人間も必要なはずだ。

そう思って厳しめに指摘をしたのだが、ジェムソンは衝撃を受けたような表情で固まってしまった。貴族でもない女がはっきりと否定したことが余程驚きだったのだろうか。

そして、アードベッグは声を出して笑い、自らの顔を片手で覆った。

「わっはっはっは……! いやはや、最近の若い者は……魔術師としていくら卓越していたとしても、大国を相手に一人で勝てるなどと自惚れているのか。それとも、傲慢なまでの正義感を振りかざしたいだけか」

肩を揺すって笑いながらそう口にしてから、アードベッグは顔に押し当てていた手を離した。

手の下からは、憤怒の色に染まるアードベッグの顔が現れる。

「この下民が……ふざけるのも大概にしてもらおうか」

地の底から聞こえてくるような低い声でそう呟き、アードベッグは詠唱を始めた。僅か一小節で詠唱を終えて、中級の火の魔術を発動する。

「 火の蝶(ファイヤフライ) 」

アードベッグが魔術名を口にした瞬間、十を超える蝶の形をした火の塊が一気に私の方へ飛来してきた。蝶のような姿なのに、その速度は風のようだ。しかし、一目で威力に欠けることが分かる。完全に奇襲の為の魔術だろう。相手が火の派手さと数に焦り、注意がそちらに向いた先に次の行動をとるのが目的に違いない。

その予想通り、アードベッグは火の蝶が手元を離れた瞬間から別の魔術の詠唱を始めている。

「…… 氷の城(アイスシャトー) 」

隙を与えてはいけない。そう判断した私はその場を動かず、アードベッグからも視線を逸らさないまま氷の魔術を行使した。魔術名を口にした直後、分厚い氷の壁が次々と地面を突き破るようにして出現する。

氷の壁は四方を包むように現れ、即座に天井も出来上がった。城と呼ぶには小さいが、左右に塔もある二階建ての氷の城となる。中庭の形状を考えて半円に近い形にはなってしまったが、一先ず相手の攻撃を防ぐには十分である。

炎の蝶は氷の城に当たって即座に凍り付き、壁の彫刻となった。それを横目に見つつ、アードベッグの次の魔術を確認する。

丁度詠唱が終わったのか、アードベッグは目を見開いて口を開く。

「…… 炎の魔人(イフリート) !!」

アードベッグが魔術名を口にすると、アードベッグの前方に火の粉が幾つも舞い踊るように現れる。その火の粉は徐々に大きく、猛々しい炎へと変化していき、やがて全ての炎が一つに集まって何かの形を成していく。

「お、おお……!」

「凄い……!」

アードベッグの魔術を見て学生達から驚愕の声が聞こえてきた。それもそのはずだ。行使されたのはただの普通の魔術ではない。まるで生きているかのように動く、炎で形作られた巨人なのだ。炎の魔人は丸太のような腕を振り上げ、こちらへ迫ってくる。

「さて、氷の城で防げるかも興味ありますが、もし何かあって生徒達に被害が出たら大変ですからね。仕方ありません」

そう呟いてから、片手を上げた。明らかに特級クラスの魔術だ。特別な魔術具を使うしかないだろう。

「…… 水神の矛(トライデント) 」

魔術名を引金として魔術具を発動させる。先ほどの氷の城などは小さな指輪の内側に描き込まれた魔法陣で発動出来るものだが、この水神の矛は違う。なにせ、多重魔法陣で十近くの詠唱を一つにしているのだ。それを何とかブレスレット一つに収めている。

魔力がブレスレットに流れると、淡い光を発しながら魔力が形作られていった。空気中の水分を集めて水を作り出し、水圧を掛けて威力を増す。更に水を収束させながら流速を上げていく。水の魔術において、水量は一つの目安となる。水量を増すことが水の魔術の命題の一つであり、その魔術師の技量を表すのだ。

それはとても理屈通りであり、私にとっても素直に受け入れられる概念だった。なので、この魔術にあっては巨大な人型の水タンクを空中に浮かべる工程がある。海の王ポセイドンを模した人型の水タンクは、水流の射出口である矛を前に突き出して構えた。

氷の城をバックにして巨大な海の王が矛を構え、炎の魔人に刃先を向ける。その様子はどこか神話の中の戦いのような幻想的な雰囲気を作り出していた。

だが、実際には千℃を超えるような高温の炎の塊と、大量の水のぶつかり合いである。炎の魔人がもう間近に迫ってきたタイミングで、水神は矛から水を放出する。まるでレーザービームのように細く放たれた高圧の水流は一瞬で炎の魔人を切り刻んだ。直後、バラバラになった炎の魔人は一気に膨れ上がり、地面を揺らす衝撃を発しながら爆発した。

真っ白な煙を空に届くほどの勢いで膨らませて爆発した炎の魔人に、それを発現させたアードベッグ本人が驚愕する。

「な、なにが……なにが、起きたのだ……」

困惑から次の動作をすることが出来なくなっているアードベッグを見て、水神は矛先を地面へと向けた。

「一気に圧縮された水が熱せられて水蒸気になり、体積が急激に膨張して炎の塊は形を維持出来なくなってしまったのです」

一応解説をしようと思って簡単に説明をするが、アードベッグは眉根を寄せて唸るのみだった。まぁ、水が水蒸気になると体積が急激に膨張するなどと言われても予備知識がないと理解は難しいかもしれない。

それはフィディック学院の教員であっても同じらしく、スペイサイドが乾いた笑い声をあげて驚きの声を漏らした。

「ま、まさか、あれほどの魔術を一瞬で無効化するとは……それにあの爆発……恐ろしい威力だ……!」

スペイサイドがそう呟くと、集まっていた教員や生徒も同意するように反応した。まぁ、そういった部分はまた魔術概論の講義で皆に教えていけば良いだろうか。

「……それでは、申し訳ありませんがジェムソンさんとアードベッグさんは一旦拘束させていただきます。良いですね?」

一先ずは、この騒ぎを収拾しよう。そう思っての発言だったが、ジェムソンが再び怒りに駆られたように口を開いた。

「き、貴様……! 言うに事を欠いて、こ、拘束だと……!? この私を、誰だと……!」

「 拘束(バインド) 」

会話にならない。そう思って、私は問答無用で二人の体を拘束した。突然体が動かなくなった二人は、そのまま地面に転がる。風の魔術を使い、二人の体を浮かび上がらせると、そのまま周囲を見回して頭を下げた。

「皆さま、お騒がせしました。この方々がもう暴れることのないようにいたしますので、ご安心ください」

そう言って、私は二人を連れて飛翔魔術を行使したのだった。