軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

婚姻の条件

前日と同じ宿で一泊することになり、朝を迎えた。段々とエルフの国の雰囲気になれてきたのか、皆も初日より自然な様子で集合し、食事を終える。

「……悔しいことに美味しかったです。それでは、 リベットさんが朝謁見するように言っていたので、ちょっと行ってきますね」

ご馳走様でした、と一言口にしてから立ち上がる。食べ終わった食器を戻そうとすると、エプロンをしたストラスが先に食器を回収しながら口を開いた。

「謁見? 大丈夫か?」

昨日の魔術による戦いのことを言っているのだろう。大丈夫とは思うが、何の用事か分からない以上何とも言えない。

「そうですね。まさか、昨日の続きをしようなどと言うことはないでしょうが……」

そう答えると、グレンが口元を拭きながら頷いた。

「そうじゃの。いくら何でも王城に呼んで争うようなことはあるまい。恐らく、アオイ君の言っていたエルフの意識を変えようという話の詳細を聞きたいんじゃと思うぞい」

その言葉にまだ食事中のエライザとシェンリーも顔を上げる。

「ふむ、ふむむんむむ。むごごご」

「え、エライザ先生。食べてから喋りましょう」

まだ食事の真っただ中で喋ろうとするエライザと、それを控えめに止めようとするシェンリー。立場が逆ではないかと思うが、何故か二人の様子に違和感はない。エライザがシェンリーと同級生のように見えるからかもしれないが、教員としてそれで良いのだろうか。若干不安になる。

そんなことを思っていると、口を両手で押さえて急いで咀嚼したエライザが口を開く。

「……んぐ。でも、あの王様は怒ったら怖かったですよ! 気を付けてください!」

「そうですね。あまり気が長い方ではなさそうですから、注意しておきます」

大急ぎでそれを言いたかったのだろうか。そう思い、苦笑をしながら同意する。エライザは優しいから、本気で心配してくれているのが良く分かる。同様に、シェンリーも心配してくれていた。

「アオイ先生なら大丈夫と思いますが、私も心配です……」

「多分、そういう話にはなりませんよ。でも、気を付けておきます」

そんなやり取りをしてから、私は王城へと向かった。

城に着くと、すぐに門番のエルフがこちらに来る。人間がいないからか、すぐに誰か分かったようだ。こちらへどうぞと、王城の奥へ通される。

前回と同様に元老院の皆がいた広間の前に来ると、扉の左右に立つエルフが扉を開けてくれた。少し雰囲気が違う。不思議に思いながら扉が開くのを待っていると、更に違和感がある景色が目の前に広がった。

扉を開けて正面に道を作るように左右に近衛兵が並び、その奥には元老院の議員達が立っている。更に、中央には椅子に座った リベットの姿があった。

「……本来なら、王の後継者を元老院が決定して、最後に余が最有力の候補者の資質を見るという流れなのだがな。今回は特別に、元老院の会議にアオイも加えてやろう。昨日の一件で、余は貴殿の心根を信用した。貴殿は地位や権力、金銭などに左右されない、清廉潔白な人間だろう。それは次期国王を決める際にも良い判断をしてくれるものであろう」

と、 リベットは朝会ってすぐにそんなことを言った。若干呆れながらも、首を左右に振って断る。

「いえ、他国の王を決める会議に参加しようとは思いません。信用していただけるのはありがたいのですが、私としてはハーフエルフや他種族への差別意識を撤廃してもらえるならそれで充分だと思っています」

はっきりと断りの言葉を告げると、 リベットは片手を顔の前で振った。

「分かっておる。貴様は大して興味も持たんだろうと思っていたからな。故に、二つの褒美を用意した。もし会議に参加してくれるならば、その褒美をくれてやろう」

「褒美?」

リベットの言葉に首を傾げる。さきほど、地位や金銭に関心がないだろうと言っていたのに、どんな代物で私を釣ろうというのか。懐疑的な気持ちで眺めていると、 リベットは人差し指だけを立てた状態で手をこちらに見せる。

「まずは、我が子であるラングスとの婚姻の許可だ」

「父上!」

リベットの言葉に奥に控えていたラングスが椅子から立ち上がりながら感極まった声を出した。

「いえ、不要ですが」

思わず正直な言葉が口から出る。ちらりとラングスを見ると、まだリベットが結婚を認めたことに対して感涙をしている最中だった。

確かに美しい外見をしているが、別にそんなことは重要ではない。会って間もないだけでなく、まともに会話もしていないのだ。そもそも、結婚など考えてもいなかった。

動揺する元老院の面々が リベットの方へ顔を向けて口を開くのを他人事のように眺めながら、何となく自身の結婚観について考えさせられる。

「王よ! そんな話は聞いておりませんぞ!?」

「やはり、王家の血筋に関してはエルフの血を残すべきでは……」

「エルフ同士で子は成し難いのは承知ですが、せめてラングス殿には二人エルフの妃を娶ってもらい、第三王妃としてアオイ殿を……」

勝手にそんな話をするエルフ達に、若干腹を立てる。

「……ちょっと待ってください。先ほども言ったように、そもそも私に結婚するつもりがありません。予定もありませんし、まだまだ学院でやりたいことが多くありますから」

そう答えると、皆の目がこちらに向いた。

「……エルフの王家を軽んじているのではないか?」

「うむ、王族からの婚姻の申し出をあのような……」

「いや、待て。結果として破談となるならば好都合。思うところはあるが、ここは耐えて……」

なにやら元老院の議員たちが自分勝手な怒り方をしている気がする。とはいえ、自国の王家に対する並々ならぬ想いもあるのならば仕方が無いのかもしれない。

何とか文句を言わずに我慢していると、ラングスが涙を拭いて口を開いた。

「第一王妃はアオイ殿だ! そこは譲らん! しかし、皆の気持ちも理解した! 私が王になった際には、必ず二人以上のエルフの妻を娶ることを約束しよう!」

ラングスがそんな宣言をすると、一部から「おお!」などという感嘆する声が聞こえてくる。

殴っても良いだろうか。

思わず物騒なことが頭に浮かぶ。いや、問題はない気がするが、流石に王族や家臣団の前でその国の王子を相手に物理的な罰を与えるのは良くない。

そんな葛藤をしていると、 リベットが腕を組んで低い声を出した。

「騒がしい」

その言葉に、一瞬で場は静まり返る。流石に威厳がある態度と声だった。長い年月を王として過ごした リベットだからこそ出せる雰囲気だろう。

感心しつつ、リベットの言葉を待つ。皆が口を噤んだことをゆっくり確認してから、リベットは口を開く。

「……では、次の褒美の話をしよう。ラングスとの婚姻の話は両名に任せるとして、次の褒美は恐らくアオイも興味を抱くものだろう」

そう言って、 リベットは笑みを浮かべる。

「……限定的だが、王家の魔術の一部を学ぶ許可を与える」

リベットがそう告げると、元老院だけでなく近衛兵のエルフ達も驚きの声を上げた。

「そ、それは流石に……」

エドラが リベットの言葉に異を唱えようとするが、王の一睨みで黙らせられる。 リベットは混乱する場を睥睨すると、静かに呟いた。

「これはもう決定したことだ。覆ることは無い。もちろん、条件もある。アオイがエルフの王家秘匿の魔術を学ぶ場合は、己一人の内に留めることを約束してもらいたい。王家の魔術とはそれだけ特別なものなのだ」

そう言われて、即座に頷いて返事をする。

「分かりました」

この褒美は素直に嬉しい。エルフの魔術を学べる機会はもうないだろう。モヤモヤしていた心が晴れ渡るような高揚感を感じた。

「己の内に留めることを約束します」

はっきりとそう口にすると、 リベットは声を出して笑った。

「はっはっは! 我が子との婚姻はあれだけ嫌がったというのに、魔術を学ぶ機会を得たら随分と素直に喜んだな」

どうやら、そうなるだろうと予測していたようだ。特に不機嫌な様子もない。二人で話がついてしまった為、元老院の議員達ももう文句を言う者はいなくなった。

ホッとしていると、奥からオーウェンが肩を怒らせて出てきた。

「ちょっと待て! 王家の魔術を学ぶなら俺も同席させてもらおう! 候補者なのだからそれくらい良いだろう!」

と、どう考えても無茶な言い分で魔術を教えてもらおうとするオーウェン。候補者であったとしても、次期国王に内定しなければ無理があるだろう。そのうえ、オーウェンは最も外様の候補者であり、その性格上、次期国王になったとしても国外に出てしまうこともあり得る。もし自分がエルフの立場で王を選ぶなら、最も王の席から遠い人物であろう。

それは元老院でも同様の意見だったのか、口々に反論する声が聞こえてくる。

「そんなわけにいくか!」

「オーウェン殿、王家の魔術は王が認める者しか授かることは出来ぬぞ」

そういった声に、オーウェンは眉間に皺を寄せて口を開く。

「この国は昔からそうだ。そんなことで魔術の発展が出来ると思うのか? 全ての魔術を研究し尽くして、さらに応用しながら改良をしていかなければ新しい魔術なども生まれない。薬であってもそうだろう? 一人が同じ薬草一つ持って考え続けたところで、大したものは生まれない。複数の薬師が数十種類の薬草を持って議論し合えば、これまでにない何かが出来上がるのは自明の理だ」

オーウェンはもっともらしいことを言いながら、こちらに歩いて来る。

「そう思うだろう、アオイ」

何故か、こちらに同意を求めてきた。それには流石に首を左右に振るしかなく、若干申し訳ない気持ちになりつつも否定の言葉を口にする。

「それとこれとは別でしょう。せめて、元老院の方々のように長く自国に留まった人たちで共有するなら分かりますが」

そう告げると、オーウェンはショックを受けたように目を見開いた。