軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

継承権

「う、裏切者め」

味方をしてもらえると思っていたようだが、流石に無理である。国家機密レベルの王家の魔術なのだから、国内に今後もいてくれる人物でないと渡すことは出来ない。

そう思って否定したのだが、分かっているのか、いないのか。オーウェンは悔しそうに私を見て文句を言った。

「自分だけ教えてもらえるから良いと思っているだろう? む、そうだ。後でこっそり私に教えるんだ。それなら良いだろう」

何故、そんなことをこの場で言うのか。どちらにしても教える気はないが、流石に聞く場所くらいは考えて欲しい。

「ダメです。他言しないことを条件に教えてもらうのですから、誰にも教えません」

「ぐ、ぐぬぬぬ……頑固者め」

はっきりと拒絶すると、オーウェンは一歩二歩と後ろへよろめきながら悪態を吐いた。その姿に苦笑していると、オーウェンはハッとした顔になる。

「そうだ。エルフの言語はどうするつもりだ? いまや魔術の為だけにあるような古代の言語だ。そう簡単に解読は出来んぞ」

だから、自分も一緒に研究してやろう。そんな副音声が聞こえた気がした。しかし、そんなことは心配しないでもらいたい。

「大丈夫です。意地でもエルフの言語を覚えてみせますから」

「……くそ。アオイならすぐに覚えてしまいそうだな」

当てが外れたオーウェンは肩をがっくりと落としながらそう呟く。確かに難しい言語なのかもしれないが、それを学ぶしかない環境に身を置けば数か月でコツはつかめるだろう。外国語と同じでそれが日常会話となれば覚えるのは早いはずである。

と、そこまで考えて重要なことを思い出す。

「あ、そうでした。私は後一週間以内にフィディック学院に帰らなくてはなりません」

そう呟くと、リベットが眉根を寄せた。

「帰らなくてはならない?」

不思議そうにそう呟かれて、振り返りながら頷き答える。

「はい。そろそろ新しい講義を始めなくてはなりませんから。これでもフィディック学院では上級教員という立場ですので、いつまでも講義をしないでいるわけにはいきません」

そう告げると、端で聞いていたエドラが口を開いた。

「それほど大切なことだろうか。確かに学生からするとアオイ殿に魔術を習う時間というものは掛け替えのない時間となるだろう。しかし、アオイ殿からすると誰かに魔術を教えるよりもエルフの魔術を学ぶことの方が重要だと思うのだが」

「うむ、確かに」

「そうある機会ではないぞ」

エドラの言葉に何人かが同意の言葉を口にする。しかし、一般的にはそうだろうが、私にとってはそうではない。

「私の本分は教員です。魔術学院の教員として、生徒達に魔術を教えることが最も大切な仕事なのです。とはいえ、エルフの魔術は早急に学びたいので、週末の二日間はこの国に顔を出すことにします」

答えてから、リベットの方を見た。すると、リベットは呆れたような顔で溜め息を吐く。

「自らの職務を大切にすることは良いことだが、そんなことで魔術を学ぶことができるのか。言語の違う魔術を学ぶのは、これまでの他国の魔術とは難易度が違うものと思うがな」

そんな指摘に、成程と頷く。まったく馴染の無い魔術を毎週少しずつ学んでいくのは確かに難しいことだろう。それに、目の前に知らない魔術が幾つもあるのに、中々覚えることが出来なかったらストレスが凄そうだ。

悩むが、教員としての自分を否定することも出来ない。

そんな時、不意にラングスが真剣な顔で頷いた。

「……よし! 私は決めた。候補者としての権利を放棄する!」

唐突な宣言に、エドラ達がギョッとした顔になって絶句する。

「え?」

一瞬遅れて、疑問符を口にした。

「……な、なんだと!?」

「どういうことだ!?」

ヘドニズ達が怒鳴るように驚きの声を上げた。場は一気に混乱していくが、リベットが再び冷静に問いかけることで、僅かに落ち着く。

「……なぜ、候補者の権利を放棄する? 貴様にとって王とは、それほど軽いものか?」

その問いに、ラングスが胸を張って顎を引く。

「……私は、これまで王になる為に努力を続けてきました。それは父である陛下への憧れであり、それこそが我が使命であると信じていたからです。しかし、その決意が昨日、揺らぎました」

ラングスがそう口にして、リベットが黙る。話の続きを促しているのだろう。ラングスはそれを空気で察して、目を細めた。

「正直に言えば、このままでは私は陛下のように優れた魔術師になることは出来ないでしょう。どれだけ努力をしても、あの火の魔術を生み出すことが出来ない。それが、私の限界です」

ラングスがそう告げると、リベットは消極的に同意を示す。

「……魔術の才能というだけならば、確かに候補者四人の中で最も凡庸であろうな」

ある意味で残酷な一言である。しかし、それにラングスは口の端に笑みさえ浮かべて肩を竦めてみせた。

「そうでしょう。だからこそ、虚勢を張り、己を大きくみせようと必死だったのです。誰よりも優れた候補者に見えるように意識して行動をし、言動にも気を配って来た……それも全て、魔術の才能が無いことを悟られたくないからであり、そんな自分を恥じているからだったのです」

誰よりも堂々としており、元老院からの印象も良かったであろうラングスの告白。胸の内ではそんな葛藤をしていたとは、傍目からは気がつけなかった。

それは元老院の議員達も同様だったらしく、皆が驚きに顔を見合わせていた。そして、リベットも怪訝な顔でラングスを見つめる。

「それで、自暴自棄にでもなったと言いたいのか?」

リベットが尋ねると、ラングスは静かに首を左右に振る。

「そうではありません。ただただ、衝撃を受けただけです。エルフの魔術ではなく、劣っていると思っていた人間の魔術で我が父と戦い、勝利をおさめたアオイという魔術師に……エルフの魔術が出来なくとも、私はまだ上を目指せる可能性がある。そう思うことが出来ました。それは暗闇の中を歩いていた私にとって、希望の光であり、それをくれたアオイを女神のように感じてしまったのです」