軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】国王の感情

【リベット】

信じられない思いだった。

そもそも、自身の中で最も得意な魔術を即座に真似された段階で驚いていたのだ。まさか、亡き我が父でも出来なかった魔術を模されるとは思わなかった。

また、余であっても極めて簡単な魔術でなければ不可能な無詠唱による魔術の行使だ。どの魔術もとてもではないが簡単なものは無かった。むしろ、エルフの魔術では再現できない魔術までも見せられてしまったのだ。

誰に言われるまでもなく、内心ではアオイという人間の魔術師を十分過ぎるほど認めていた。それこそ、自らを凌ぐ初めての魔術師が現れたかもしれないという想いもあった。

しかし、だからといって人間を王族と婚姻させるかは別問題である。どれだけ優秀な魔術師であろうと、純粋なエルフの血を王族は守らなければならない。

そんなことも分からない我が子らに、本気で腹が立った。

だが、今や頭に上った血も完全に下げられた。そう、我が憤怒が人間の魔術師によって強制的に抑え込まれたのだ。

目の前に突如として現れた氷の刃の切っ先を油断なく見据え、どうするべきか頭を働かせる。この威圧感は、生半可な魔術ではない。無詠唱で使える火の魔術では溶かすことは出来ないだろうし、風の魔術などで切っ先を逸らすことも質量を考えたら難しい。

一瞬の判断間違いで死は確実なものとなる。その緊張感のせいで、動くのが遅れた。

「…… 神炎槍(ファラリカ) 」

次の瞬間には、アオイは新たな魔術を行使していた。またも無詠唱であり、発動から効果を発揮するのも早い魔術だ。

腕が青白い炎を纏う様は、まるで神話の時代にいたとされる悪魔のようにも見えた。そして、アオイが腕をこちらに向けて伸ばす。

直後、腕の炎が槍のような形状となって伸びた。炎の槍の先が見たことも無い速度で迫り、条件反射で僅かに首を左に傾ける。

それが精一杯だった。

「……情けをかけたつもりか? それとも、余を舐めているのか?」

避けられたわけではない。だが、拳一つ二つ程度の距離を空けて、炎の槍は突き出されていた。つまり、最初から当てるつもりは無かったのだ。

侮辱するつもりならば、たとえここで死んだとしても一矢報いなければならない。得意の魔術での勝負に負けて死んだという不名誉な事実を残したとしても、我が自尊心が許さないだろう。

拳を握り、アオイを睨む。左右にはいまだ巨大な氷の刃がこちらに切っ先を向けて浮かんでいたが、そんなものは関係ない。

恐らくだが、この炎の槍を横に動かすだけで余の命は失われるのだ。それならば、氷の刃に首を切り落とされながらでも反撃するしかない。

命を賭した戦いの覚悟を決めてアオイを睨み据えるが、当の本人は疲れたような顔でこちらを見ていた。なんだというのか。これだけエルフの王を追い詰めておいて、何が不満だというのか。苛立ちと共に睨み続けていると、アオイはあっさりと氷と炎の魔術を解除した。

困惑するこちらの様子を眺めながら、冷めた態度で口を開く。

「別に私はリベットさんを害したいわけではありません。もちろん、優劣をつけたいわけでもないのです。ただ、教員として、親が子を殺そうとする現場を止めないわけにはいかなかっただけです」

と、そんな場違いなことを言われて、思わず毒気を抜かれてしまった。

「……今、長い系譜を持つエルフの王族の血筋が存続するかどうか、という話だった筈だが、教員として、だと?」

どう言って良いか分からず、明確な形で指摘することも出来ずに反論する。しかし、アオイは何も思わなかったようで、苦笑交じりに首を左右に振った。

「正直に申し上げると、エルフの王国の未来というものは二の次で考えています。私にとって大事なのは生徒達であり、子供たちが育つ環境です。申し訳ありませんが、私はエルフの国で育つ子供たちは可哀想だと思っています。ハーフエルフへの差別意識、人間や獣人、ドワーフへの差別意識を幼い頃から植え付けられて、外に出ることもなく他種族の友人を作ることもない……それは、酷く閉鎖的で寂しい人生ではありませんか?」

不意に予想外の指摘をされて上手く言い返すことが出来なくなった。

考え方の視点が違う。こちらは国王として、国の行く末や王家の未来について話をしているというのに、アオイはどこまでも子供のことを考えていたのだ。

それならば、どこまでも意見が合うことなどないだろう。そして、ここで意見をぶつけ合う必要も意味もない。

そう結論を出すと、肩の力が抜けた。

「……ふ、はははは! どこまでも教師としての考えで動いているのだな。なるほど、面白い人間だ。魔術師としてそれだけの実力を持っていながら、何故そんなに無欲なのか。やろうと思えば小さな国くらいならば乗っ取ることも容易であろう? 余をこの場で殺せばこの国を簒奪することも可能だというのに……」

この場で王を殺し、自らに好意を寄せるラングスと婚姻する。力で黙らせれば誰も逆らうことは出来ず、問答無用で王家を自分のものとすることが出来るだろう。あの様子ではラングスも思いのままに操ることが出来るに違いない。

それが分からないはずがない。つまり、それだけ地位や権力といったものに興味がないということだろう。

「本当に面白い人間だ。アオイ、お前にならラングスとの婚姻を認めても良いやもしれんな」

「いえ、それは結構です」

婚姻させてやっても良いかと認めてやったのに、即座に否定されてしまった。

これまで受けたことのないような無礼な態度に、思わず吹き出すように笑う。この時には、すっかりアオイという人間を気に入ってしまっていたのだった。