作品タイトル不明
まさかの展開
「……質の悪い冗談、というわけではなさそうだな。これほど色々と見せられては何も言えん。それで、その魔術を教われば我々でも使えるようになるのか?」
疲れたようにそう尋ねられ、私は首肯を返した。
「もちろんです。魔術の才能など関係ありません。獣人やドワーフといった種族も無関係です。全員が雷の魔術を覚えることが出来るでしょう。また、先ほどの風の魔術、水の魔術、土の魔術までならフィディック学院の生徒たちなら覚えることが出来るでしょう。火の魔術に関しては、一部の生徒でないと覚えることは難しいかもしれません」
全員がどんな魔術でも使えるのが理想である目指す未来なのだが、どうしても魔力量が多く必要なものは難しい。同じ効果を少ない魔力で実現することが魔術研究の一つの醍醐味なのだが、それも規模が大きいものになると中々難しい。
そう思っての発言だったのだが、リベットは目を吊り上げた。
「……議員の者どもの魔術は分かるが、余の魔術を真似ることが出来ると思っているのか? それは傲慢が過ぎるというものであろう。たかだか数十年程度しか生きておらぬ女と思って大目に見ていたが、数百年にわたって磨き上げた王の魔術を模すことが出来るなど、妄言も大概にするが良い」
低い声でリベットが呟く。押し殺した怒りが地底で鳴動するマグマのように感じる。かなりの威圧感だ。リベットが怒った場面を知らぬ私ですらそう感じるのだから、普段接している元老院の面々はどれだけの恐怖を感じるだろうか。
そう思った矢先、エドラが元老院を代表したように口を開いた。
「……王よ。所詮、人間の若い魔術師が口にすること。あまり、本気にはせぬほうが……」
「黙れ」
エドラの言葉を遮り、リベットが唸り声にも似た声を出した。それにエドラは顎を引いて口を閉じる。見れば、元老院の議員達は揃って深刻な顔つきで黙り込んでしまっていた。よほどリベットが怖いのかもしれない。
とはいえ、変な誤解をされたままなのも嫌なので、否定をさせてもらう。
「いえ、別に馬鹿にしているわけではありません。先ほども、リベットさんの魔術一つに私は三つの魔術を使用しましたから」
そう告げると、リベットは眉間に皺を寄せたまま口を開いた。
「……分かっておるではないか。無詠唱には驚いたが、どちらにしても我が魔術に対抗するには三つの魔術が必要であったことは確かであろう? ならば、多少はわきまえた方が良いと思うがな」
目を細めて息を吐き、軽く片手を振ってそう呟く。それに、申し訳ないと思いつつも「違う」と意思表示をさせてもらう。
「いえ、それも違います。水や氷の魔術は確かに通常レベル程度なら使うことは可能です。しかし、最も強力な魔術というわけではありません」
そう言ってから、魔術の詠唱を行った。火の魔術のコツは、何を熱源にするか、である。良く燃える材料を選択し、十分な酸素を送り込んで燃焼を促進させる。そして、最後が圧縮だ。リベットの場合は燃え上がるだけ燃え上がらせていたが、それを圧縮することによって一気に超高温へと昇華させることが出来る。逆にエルフの火はサイズを維持したまま温度のみを上げようとしたから緻密な魔力操作が必要となったのだ。
まぁ、実は温度だけで考えるなら雷の一撃の方が瞬間的な温度は高いのだが、継続するという点では炎に負けるだろう。故に、この魔術は継続性を重要視した。
「…… 聖火(ヘスティア) 」
呟き、火を燃焼させる。材料は水素だ。私の手のひらの上で生まれた火は、爆発するような勢いで一気に燃焼した。轟々と燃え上がる炎は瞬く間に先ほどのリベットの火ほどの大きさになる。色はまだ青く、火の勢いも弱い。
「ふむ、中々だが、まだ足りぬな」
リベットの嘲笑うような声が聞こえた。
だが、まだまだこれからが本番だ。
魔力を集中すると、一気に炎が数倍の大きさに膨れ上がる。先ほどのリベットが魔術を行使した時よりも上空の為危険はないが、空を覆いつくすような巨大な炎は恐ろしいまでの存在感を放っていた。
その炎を、一気に圧縮する。
行き場を失った熱エネルギーが圧力により高温化して急激に温度を高めていく。炎のサイズは小さくなっていくのに、色は一気に白く染まる。温度はもうすぐリベットの火の魔術に迫るだろう。後は、燃焼を促進するだけである。
約二秒程度だろうか。魔術を発動して十秒は経っていない筈だ。その間に、温度に関してはリベットの魔術に匹敵するほどの超高温に達したと思う。ただ、大きさが少しばかり足りなかっただろう。
「……もう少し大きくしてから圧縮すれば良かったですね。時間を急ぎ過ぎました。リベットさんの魔術で作った炎よりも少し小さいと思います」
反省を交えつつそう言って、背後を振り返る。すると、リベットが初めて悔しそうな表情で私を見た。そして、すぐに視線を外して鼻を鳴らす。
「……ふん。実際に何かにぶつけでもせねば威力の違いなど分からぬわ」
と、まるで拗ねた子供のような態度でそんなことを言った。機嫌を損ねてしまっただろうか。そう思って助けを求めるようにエドラを見たが、どうもフォローはしてくれそうにない。
どうしようかと思っていると、不意にラングスが感極まったような声を上げた。
「わ、私は、今、猛烈に感動している!」
「え?」
唐突な告白に、思わず生返事をしながら振り返る。すると、薄っすら涙目で唇をプルプルと震わせながら私を睨むラングスの姿があった。
物凄い目力である。今にも飛び掛かってきそうな雰囲気を全面に出しており、猛禽類を目の前にしているようで正直少し怖い。
「な、なにがでしょうか」
放っておくのも恐ろしいので、一応聞き返してみる。すると、ラングスは一歩前に出て、つまりこちらに近づいて、口を開いた。
「私は、これまで我が国王が世界で最も優れた魔術師であると信じていた。間違いないと、疑うこともなかったのだ。つまり、私にとっての確固たる事実だった。それが、今日という日を迎えて引っくり返らされてしまった……っ!」
そんなことを語りながら、ラングスは両手を広げた。まるで劇の中の登場人物のように芝居がかった動作だ。その動作を見せながら、ラングスは微笑みを浮かべて口を開く。
「まさに驚愕だ。僅か数十年程度しか生きていないであろう人間が、世界最高の魔術師とは!」
ラングスがそう言うと、リベットが不機嫌そうに唸った。
「……余は負けたとは思っておらんぞ」
怒りを滲ませるリベットの声に、元老院の面々が震え上がる。
しかし、ラングスには響かなかった。
「いや、残念ながらアオイ殿の方が上でしょう! なにせ、あれだけの魔術を全て無詠唱! いや、最後の神炎にそっくりな魔術は二セルほどの詠唱はしていたようだが、それでも信じられないことではないですか! 陛下、私は決めました!」
物凄い勢いで捲し立てるラングスに、リベットも怒りを忘れて小さく頷いた。
「な、なんだ……何を決めたというのだ」
そう問いかけると、ラングスは私に体ごと振り返り、手のひらで指し示すようにして片手を伸ばす。
「私は、アオイ殿を妃に迎え入れます!」
そんな宣言をするラングスに、エルフだけでなく全員の目が丸くなった気がした。