軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アオイの魔術とフィディック学院

直視は出来ないが、ぼんやりと炎を見上げて口を開く。

「……まるで太陽のように巨大な炎です。しかし、太陽とは違います。太陽は核融合ですが、こちらは原理を考えると通常の燃焼反応でしょう。ならば、酸素を遮断するか、温度を下げるかというところですが……」

炎を分析して、魔術の選定をする。通常の炎程度ならば水や氷の魔術で十分だろう。しかし、千数百度を超えてしまうと、消火も簡単ではない。土や岩であっても溶けてしまう温度なのだ。

ならば、両方同時にしてしまえばどうだろうか。

「……ちょっと試したいことがあるので実験してみて良いですか?」

そう尋ねると、リベットはきょとんとした顔となった。

「む? 実験、だと? まぁ、それは構わんが……」

困惑気味に答えるリベットに会釈をして「それでは」と口を開く。顔を上げて、改めて炎の分析に移る。

「……魔力の流れを見る限り、中心に魔力の熱源があってそこから循環するようにして火球の中を熱波が巡っているようですね。ならば、中心の熱源から対処して……」

頭の中でシミュレーションしながら魔術の使い方を考える。数秒の間、幾つかのパターンを考えたが、ようやく最も効率的な方法を思いついた。

「よし……まずは、これにしましょう。 超水圧刃(トリトン) 」

魔術名を呟き、魔力を開放する。極限まで圧力を加えた水流は、巨大な質量を持つ刃と化して飛来する。とはいえ、あまりに高い超高温は水を熱源に辿り着くまでに蒸発させてしまうだろう。それを防ぐための一手が、超低温での対抗である。

「…… 絶対零度(コキュートス) 」

魔術を行使すると、水の刃は凍り付き、更に低温を維持したまま炎の中へと身を投じた。巨大な火球と水刃の衝突だ。本来なら、それで結果を待つのみとするだろう。しかし、この高熱の炎はそれだけでは消し去ることは出来ないだろう。

故に、さらなる追撃を加える。

「……これで最後です。 真空断絶(ホロウ) 」

続けざまに魔術を行使し、一気に炎の周りの空気を奪い去った。真空になった空間は一気に激しい負圧の状態となり、炎は凝縮するようにしてその身を縮める。

酸素を失い、更には熱源を氷の刃で斬られ、その上氷の魔術での低温化は続いている。その状況では、流石の神炎であっても急激に衰えていくしかなかった。

ものの十数秒で、炎は勢いを失ってその姿を消し去る。その様子を、エルフ達は言葉も発せずに見つめていた。

完全な沈黙が場に下りる。谷の間を吹く風の音がやけに大きく聞こえるほどの静寂の中、口を開いた。

「……完全に消えましたね。魔力の残滓も無し、と。どうでしたか?」

結果が問題ないか確認を行い、リベットを振り返る。

リベットは呆れたような表情で片方の眉を上げて私の顔を見ると、深い溜め息を吐いた。

「どうでしたかも何もない。余の魔術を無効化した者なぞ終ぞ現れなかったのだ。これだけの結果を出して認めることが出来ないなどと狭量なことが言えるものか……まったく、困ったものだ。まさか、候補者の魔術を見る前に余の魔術を無効化する者が現れるとは」

鼻を鳴らして、リベットが愚痴のような台詞を呟く。

それに、候補者の中の一人、アソールが「うっ」と呻き声をあげた。助けを求めるようにラングス達を見上げる。レンジィは目を瞬かせて私を見ていたが、リベットは違った。

敵意、ではないだろうが、とても真剣な目で私の顔を見ている。王の魔術を破られたと思って複雑な気持ちになっているのかもしれない。

そんなことを思って様子を窺っていると、後ろからストラス達が近づいてきた。

「凄いな、アオイ。なんなんだ、あの魔術は?」

「流石はアオイさん! 無詠唱の三連続!」

「ほ、本当に凄い魔術でした……まさか、エルフの王様の魔術を無効化するなんて……」

三人が口々に驚きと感嘆の声を上げてくれる。それに微笑んでいると、その向こうからグレンが目を血走らせて迫って来た。

「あ、アオイ君? な、なななな、なんじゃったんじゃ? 今の魔術はなんじゃったんじゃろうか? ちょ、ちょっと、もう一回やってみてくれんかの? 大丈夫じゃ。王国の方々も喜ぶじゃろうから、気にせずに……」

テンションが上がり切ったグレンが周りの目も気にせずに騒ぎ出す中、急に私の肩を掴む手が現れた。

「おい、アオイ」

その声に振り向くと、反対側からいつの間にかオーウェンが来ていたらしく、こちらも血走った目で迫ってくる。

「今の魔術は私も知らんぞ。どうやった? あの火に対抗するには逆位にある属性である水の魔術しかないと思っていた。それこそ、先ほどのヘドニズとやらが行使した水の魔術のような物量による消火だ。それ以外の方法をどうやって思いついた? いや、もちろん、氷の魔術も次点としては考慮していたが、せいぜいが水と氷の複合までだろう。それ以上の魔術がまさかあれほど有効であるとは……おい、聞いているのか」

「オーウェン! ちょっと待っておれ! わしが先に質問しとるじゃろ? 先に声を掛けた方が優先じゃ」

「何を言う。ジジィは学院でいつも一緒だろうが。順番など関係あるか」

「お、お前……っ! 本当に何も変わっておらんのう! 大体、わしがジジィならお前こそ精神年齢は同じなんじゃからジジィじゃろう! このジジィエルフめ!」

と、私の顔を挟んで二人で言い合いが始まってしまう。幼馴染だからこそのテンションなのか、いつものグレンとは違うキャラクターになってしまっている。いや、オーウェンも少し普段より童心に返っている気がする。

ただ、ここにはグレンとオーウェンよりも年上のエルフが大勢いるはずだが、高齢者に対する悪口を連呼して大丈夫なのだろうか。

どうでも良いことだが、私の顔を挟んで怒鳴り合うのは五月蠅いので止めてもらいたい。

半眼で二人に肩を揺すられるままになっていると、これまで大人しくしていたスパイアが肩を竦めて口を開いた。

「……皆さん、お忘れかもしれませんが、今回の元老院の会議は候補者の魔術を比較して次期国王を決める一助にするというものですよ」

スパイアがそう言うと、皆がハッとした顔になる。

「……忘れていた」

「もはや、今日はそういう気分になれない気がするぞ」

「私も、異常に疲れてしまいました」

そんな言葉が元老院の議員達から聞こえてくる。それには議題の主役である候補者達も困ってしまうだろう。

そう思って視線を向けたのだが、レンジィはまたぼんやりした表情に戻っているし、アソールは良く分かっていない様子でこちらを見ていた。そして、何故かラングスは先ほどと同様に真剣な表情でこちらを睨み据えている。

何か、怒るようなことをしてしまっただろうか。いや、次期国王を決定する大事な場を荒らしたと思われたら恨まれても仕方ないかもしれない。

ラングスの視線が少し気になるが、とりあえず自身の主張もきちんとしておこうと口を開く。

「すみません。候補者の方の魔術も気になっておりますが、私としてはエルフが一番優れた種族で、他種族は全て自分たちより下、というエルフの方々の常識を否定させていただきたいと思います。エルフが魔術師として優れた方が多いのは間違いありませんが、他の種族にも強い魔術師は大勢います。申し訳ありませんが、元老院の方々であっても獣人のラムゼイ侯爵に一対一で勝つことは困難でしょう。また、フィディック学院の教員や一部生徒であっても良い勝負をすると思います。恐らく、他国の宮廷魔術師の中にも素晴らしい魔術師はいるはずです。それを考えたら、エルフが絶対的に優れた種族であると断言するのは難しいでしょう」

そう言って、エルフ達を順番に眺める。すると、エドラがヘドニズを横目に見ながら口を開いた。

「……正直、今日、君たちに会うまではエルフこそが最も優れた種族であるという自信を持っていた。もちろん、他の種族を下に見ているというわけではないが、エルフに勝てる魔術師はいないと思っていたのは確かだ。しかし、アオイ殿はもちろん、そこの獣人の少女にすら我々では使えない魔術を見せつけられて、その自信も大いに揺らいでしまった」

そう述べてから、エドラはオーウェンに視線を移す。

「……そして、候補者の一人であるオーウェン殿の言葉だ。山奥に籠ったまま、自分たちが一番だと信じて疑わぬことの愚かさ、だったか? あの言葉を聞いて、胸に突き刺さるような気持ちになったぞ」

そう言って失笑すると、グレンに目を向けた。

「……フィディック魔術学院への印象も大きく変わった。人間達の国の中で最高峰だのなんだの言ったところで、エルフの国の魔術学院には勝てないだろうと思っていたが、現実は違うのだろうと思うほどに……」

エドラが懺悔のように自身の考えが変わったと告げていると、不意にリベットが片手を挙げて口を開いた。

「ちょっと待つが良い。そこの少女の魔術だ。余はその魔術を見ておらんぞ。今すぐに披露せよ」

と、空気を読まない王の発言に、シェンリーが驚きに肩を跳ねさせる。

「え!? わ、私ですか!?」

慌てふためくシェンリー。流石に突然こんなに大勢の前で披露させられるのも可哀想なので、私は挙手をして口を開いた。

「少々お待ちください。それなら、私が雷の魔術を披露します。シェンリーさんは緊張してしまうので、失敗すると危険ですから……」

そう告げると、リベットが眉根を寄せてこちらを見る。

「……そういえば、アオイも雷の魔術を使えるのか。もう失われた魔術などと呼べない代物となってしまったな。まさか、フィディック学院では雷の魔術が通常の講義で習う科目だなどと言うつもりはないだろうな?」

自嘲気味に笑いながら、リベットがそんな質問をしてくる。それに首を左右に振り、答えた。

「いえ、流石にそのようなことはありません。今のところ雷の魔術を使えるのは十人程度でしょうか? ここにいる全員が使えますので、来年には何十人か使える人が増えるとは思いますが……」

正直にそう答えると、リベットの表情が固まる。