軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アオイの力

ヘドニズは勝ち誇ったように腕を組んで口を開いた。

「この疑似水龍をどうにか出来る、と? ふ、はっはっは! それは楽しみだな!」

「期待に応えられるかは分かりませんが、頑張りましょう」

ヘドニズの問いかけに応えつつ、私はテラスの端に立ち、橋の上に立ってこちらを睨むヘドニズを見据えた。

ヘドニズの感情を表すように、疑似水龍は橋の上高くまで首を持ち上げ、生きているかのように頭上から私を見下ろす。その迫力は確かに恐ろしいまでであり、生身の人間が立ち向かえるとは到底思えない。

しかし、この世界での私には死を覚悟する、というほどではなかった。

「…… 銀氷(フロスト) 」

一言呟き、魔力を集中させながら片手を巨大な水柱に向ける。

空気中の水分が凍り付き、魔力の流れがダイヤモンドダストを発生させながら空中を飛来していく。山々の切れ目から差し込む陽光を細氷が不規則に反射し、幻想的な景色を生み出した。

そして、凍てつく魔力が水柱に触れた瞬間、表面から浸透していくように水柱が凍り付いていく。コップ一杯の水に白い液体を流し込んだように一気に水柱は全身を凍り付かせていき、すぐに動けなくなってしまった。

そうこうしている内に、巨大な水柱は足元まで凍ってしまい、疑似氷龍と呼ぶべき存在へとその姿を変える。

「な……」

ヘドニズが間の抜けた声を発している間に、全身凍り付いてしまった疑似氷龍は川の流れに負けて左側へと傾いて倒れていった。土の橋に触れない場所であったことが幸いだった。放心状態のヘドニズは目を丸くしたまま谷底へと消えていった疑似氷龍を見送る。

数秒遅れて、大量の氷が川へと落下した轟音が鳴り響いた。様々な音が反響して地響きが続く。一部は壁面にぶつかったのだろう。家よりも大きな巨大な氷が、底も見えないような谷底に落下したのだ。その質量と勢いは恐ろしいほどの破壊力を生むに違いない。

鳴りやまぬ轟音の中、ヘドニズが信じられないものを見るような目でこちらを見た。

「……な、なんだ、今のは……なにを、した……?」

ヘドニズが声を裏返らせながら呟く。

あまり聞こえなかったが、驚いている気配は伝わった。やはり、瞬間的に凍結する魔術はエルフの魔術の中にもなかったか。予測が当たったことが少し嬉しい。

熱とは、分子の動きだと理解している。成分によるが、液体から気体になれば体積が何百倍、何千倍という桁違いの大きさで増加していく。その分、密度は減少するが、それはその成分を構築している分子が範囲を広げて活発に動いている証拠である。

通常、液体が凍り付く際はその分子のエネルギーが失われていき、動きが鈍化していくことから固体へと変化していく。

しかし、魔力を用いて凍らせる場合はより効率的にその変化を行うことが出来る。本来なら表面から伝播するように動きを緩やかなものへとさせていくしかないのだが、魔力を行使した場合は全体に一斉に効果を発揮することが出来る。

そのうえ、成分が同じならば触れる場所はどこでも良い。真ん中が最も効率的なのは変わらないが、一秒と二秒の違い程度である。

凍てつく魔力は対象に触れた瞬間全体を取り囲むように広がり、急速に冷凍していく。単純な熱交換とは違い、分子の動きを止める為に特化した魔力は表面が凍るよりも早く内側に浸透して内部からも凍り付かせていった。

結果、ある意味最も効果を発揮しやすい対象である、全て同じ成分の水で出来た疑似水龍は瞬く間に凍り付くこととなったのだ。

だが、そんなことを細かく説明しても分からないだろう。

なので、今回は短めに答えることにする。

「……私のオリジナル魔術です。対象を瞬時に凍り付かせることが出来ます」

そう告げると、ヘドニズは茫然自失してしまった。

返答も無い。仕方ないので、次の魔術に移行してはどうかとエドラの方を振り返る。

しかし、元老院の面々も似たような表情で固まっていた。いつもなら困ったような顔をしているグレンが引き攣った顔で笑っていたが、ストラスとエライザ、シェンリーは苦笑である。

「……想定以上に力を見せつけていたが、まぁ良しとしよう」

オーウェンが呆れたような顔でそう呟いたのが聞こえた。

と、その時、唐突に手と手のひらを打ち合わせる音が聞こえてくる。リベットの拍手のようだ。

「見事! これは、予想外の実力だ。正直、どれだけ甘く見積もっても元老院の議員には勝てないだろうと思っていた。だが、ヘドニズの水の魔術は完膚なきまでに叩き潰された。それも、詠唱も気づけないほど一瞬でな……これはどういうことだ? なぁ、ヘドニズ?」

愉快痛快と笑っていたリベットが、不意に低い声でヘドニズに声を掛ける。それに反応して、ようやくヘドニズは表情を動かした。

「…………わ、分かりませぬ。情けないことながら、我々が知るどの氷の魔術であっても、あのような力は……」

掠れたような声だった。その声を聞き、リベットは相槌にも似た生返事をする。

「ふむ……確かに、我が魔術であっても全く同じことをするのは不可能だ。似たようなことならば可能だがな」

何でもないことのようにリベットが告げると、驚きの声が上がった。

「な、なんと……」

「それでは、陛下と同等の魔術を、人間が……?」

「馬鹿を言うな。なにか仕掛けをしてあるに違いない。あの女を見ろ、まだ何十年も生きていないのだぞ」

ざわざわと元老院の議員達がそんな会話を始める。見れば、オーウェンを除く候補者の面々も驚いたような顔をしていた。

「に、人間にあのような魔術師がいるとは……」

ラングスが驚愕とともに呟き、アソールが細かく頷いている。そして、レンジィはこれまでののんびりした表情ではなく、真剣なものへと変化させていた。

一気に騒然となったテラスの上で、冷静な声が投げかけられる。

「……騒ぐな。エドラよ、次の魔術を披露させよ」

リベットがそう口にすると、水を打ったように場は静けさを取り戻した。土の橋の上にいたヘドニズが無言で戻ってくる。一瞬、私のことを見たような気がして視線を向けたが、ヘドニズはこちらに顔を向けずに元老院の一団の端の方へと移動した。