軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

対決

先ほどのエルフの隣に、別のエルフが現れてこちらに顔を向けていた。少し髪が短めのエルフの女である。女は切れ長の目を更に細めながら、軽く皆を見回して口を開く。

「それでは、次は木の魔術を披露しましょう。せっかくなので、今出来たばかりの土の橋を補強して、橋の寿命を延ばしてみようと思います」

女はそう前置きすると、出来たばかりの土の橋を振り返り、詠唱を開始した。

やはり、何処か似た詠唱である。響きが似ているのは勿論だが、テンポや一小節での長さも同様に似ている気がした。そして、今回も五小節、エルフで言うところの五セルで詠唱は完了し、魔術名らしき単語が聞こえてきた。

直後、先ほどと似たような地鳴りと振動が足を揺らす。とはいえ、先ほどよりも音は小さいものだ。また地面から木が生えてくるのだろうか。

魔術の効果がどう表れるのか。私は興味深く魔術の効果を確認する。

ざわざわと、音が聞こえた気がした。

顔を上げると、建物の後方、山の壁面から木の根や枝、蔓が絡み合うようにしながら空中を伸びていくところだった。

「木、木の枝が伸びていく……」

シェンリーが驚きに目を見開き、そんな声を上げた。

四か所から伸びた木の根、枝、蔓の合わさった紐が伸びていき、テラスの先に出来た土の橋にまで到達する。良く見れば、既に地中を通って根が土の橋の下部を支えるように伸びているようだった。瞬く間に土の橋は木の根や枝によって表面以外の部分を覆われてしまう。

魔術が完了したのか、女は肩の力を抜いて橋の様子を軽く確認して、こちらを振り向いた。

「……さて、この魔術はこの国では珍しくないものですが、一応解説をしましょう。これは樹木の成長を促進させる魔術の応用です。木の枝や根の部分を成長させて土の橋を支えるように伸ばしています。やがて土の中に伸びた根からは更に細かな根が広がって土を固め、枝の部分からは葉や花が芽吹いて美しく彩るでしょう」

それだけ言うと、女は丁寧に一礼してこちらへ戻って来た。その説明に想像力を働かせたのか、シェンリーが目を輝かせて木の根が支える土の橋を見る。

「あっという間にあんなに大きな橋が出来上がるなんてすごいです。この魔術があったらどの国も凄く助かると思います」

シェンリーが素直に魔術の称賛をすると、エドラが頷いてから視線を動かした。

「ふむ。この魔術は関心を得たようだな。雷の魔術を使う少女にそう言ってもらえたなら一安心だ。それでは、次の魔術を披露するとしよう。誰が担当する?」

エドラがそう口にすると、元老院のメンバーから一人のエルフが挙手をした。

「私がやろう」

ヘドニズである。

「ふむ、水の魔術か。それでは、ヘドニズに頼むとしよう」

エドラが同意して下がると、代わりにヘドニズが前に出ていき、出来たばかりの土の橋の上へと移動した。その際、こちらを明確な敵意を持って睨んで通り過ぎて行った。私にエルフの優秀さを見せつけてやるという想いからだろう。

これは、最上級の水の魔術が見れる良い機会である。

そう思って意識をヘドニズに向けると、ヘドニズは精神集中をしているのか瞑想するように目を瞑った。

深呼吸を一、二度してから、薄っすらと目を開ける。

「……それでは、水の魔術を披露しよう。そして、エルフの魔術が最も優れていると知るが良い」

ヘドニズはこちらを見てそう呟くと、再び視線を谷底に戻して口を開いた。

詠唱が始まり、ヘドニズの両手が谷底に向けられる。

流麗な詠唱は他の魔術に比べて僅かに長い印象を受けた。そして、五小節目が終わり、六小節目へと移行する。

「……六小節?」

「この魔術だけ詠唱が一つ長いですね」

ストラスとエライザも気が付いたようだった。グレンは片手で髭を撫でながら目を細めてヘドニズの横顔を眺めている。

そして、元老院の面々はそれぞれ複雑な感情を見せた。驚き、焦り、中には怒りを見せる者もいる。そんな中、エドラは諦観を隠すことなく溜め息をもって口を開く。

「……馬鹿者め」

エドラがそう呟いた時、同時にヘドニズも詠唱を終えたようだった。魔術名らしき単語が、ヘドニズの口から呟かれる。

直後、谷底が鳴動するように蠢いた気がした。

ヘドニズは目を見開いて両手を広げ、顔を私の方へ向ける。

「……瞠目せよ、人間」

ヘドニズの言葉と同時に、巨大な何かが谷底より現れた。まるで巨大な蛇が鎌首をもたげるようにゆらりとそれは出現する。

「疑似水龍と呼ばれる最上級の水の魔術だ。この強大さ、恐ろしさが分かるか?」

ヘドニズは得意げにそう言いながら、巨大な水の龍を操った。

水龍と呼ぶだけはある、巨大な水柱だ。人も建物も呑みこみ、流しつくしてしまうだろう圧倒的な物量による水の暴力だ。この魔術がもし、大きな街に向けて行使されたなら、堅牢な城塞都市であっても半壊するのではないだろうか。

その巨大な水龍を、ヘドニズは自由自在に操って見せる。

「な、なんという……」

「……恐ろしい魔術じゃな」

驚愕するストラスと、畏怖の言葉を口にするグレン。それを耳にして、ヘドニズが笑みを深めて口を開いた。

「……どうだ、アオイとやら。この魔術に対抗できるか?」

そう尋ねられて、どうしたものかと考える。今はエルフの魔術を先に全て見せてもらう方がありがたいのだ。ここで魔術対決を始めてもメリットが無い。

そう思って答えあぐねていたのだが、これまで静かに見ていたオーウェンが苛立たしそうに口を開いた。

「アオイ。格の違いを見せるが良い」

その言葉に、皆がオーウェンを振り返る。オーウェンの隣に立っていた候補者の一人、ラングスが怪訝そうに眉根を寄せた。

「……人間が、あの魔術に対することが出来ると?」

ラングスが驚きを隠さずにそう告げると、オーウェンは鼻を鳴らして顎を引く。

「馬鹿馬鹿しい。この国はいつまで数千年前の栄光に浸っているというのか……エルフが魔術師として最も優れた種族であった時代はとうに終わっている。山奥に籠ったまま、その事実を知らずに自分たちが一番だなどとのたまうことの何と愚かなことよ。それを恥とも思わぬことに驚きを禁じ得ない」

と、オーウェンは恐ろしいまでにエルフの魔術への自信を嘲笑した。それに元老院のみならず他の候補者まで目を鋭くさせる。

歯に衣着せぬ言い方が当たり前のオーウェンを見慣れている私としては、ヘドニズの言葉によほど腹が立ったのだろうと思う程度だったが、場の空気は恐ろしく冷え込んでしまった。

「さ、流石はアオイさんの師匠……」

「アオイ先生よりも凄いです……」

エライザとシェンリーが戦々恐々とした表情でそんなことを口にする。

「失礼なことを言わないでください。私はちゃんと相手の気持ちを考えて発言しています。もちろん、同意できない意見は否定していますが、その時もきちんと理由を伝えているはずですよ」

そう告げるが、二人からは疑惑の視線が返って来た。

「……アオイさんもけっこうはっきり言うから」

「そうですよね……」

二人に同意してもらえず少し悲しい気持ちになっていると、静観していたある人物が口を開いた。国王、リベットである。

「面白い。その言が事実であるならば、名誉あるフィディック魔術学院の教員達も我が元老院の議員達と同等の魔術師であるはずだな? ならば、丁度良い試金石がそこにある。ヘドニズの水の魔術、無効化することは可能か?」

グレンやストラス、私を見てリベットはそんなことを言った。エライザとシェンリーを見ないのはドワーフと獣人だからということだろうか。

そうとは限らないが、何となくこれまでのエルフ達の言動を思いだし、差別からの反応ではないかと疑ってしまう。とはいえ、二人ではあの巨大な水柱をどうにかすることは難しいだろう。

仕方なく、軽く右手を挙げて口を開く。

「それでは、教員の私が」