軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

懐かしい顔

そんなことを思っていると、他のエルフ達が自分たちの座るものと同じ椅子を運んできてくれた。急に同等の扱いになって驚いていると、グレンが嬉しそうに腰を下ろした。

「おお、助かるぞい。やはり長時間立っているのは辛かったからのう」

グレンが率先して座ると、ストラス達も順番に座っていく。最後に私とシェンリーが座ると、エドラ達もそれぞれの席に腰を下ろした。

そこへ、扉を開けて先ほどの二人のエルフが帰って来る。後ろには何人か他のエルフ達を引き連れて来ていた。どうやら、そのエルフ達が次期国王候補の人達らしい。人数は四名だ。

先頭は背の高い男のエルフ。次が髪の長い女のエルフと、明らかに子供の姿のエルフ。そして、何処かで見たことがある目つきの鋭いエルフだ。

「……オーウェン?」

思わず名前を呼んでしまった。

すると、目つきの鋭いエルフが顔を上げて周りを見回し、私を発見して片手を挙げる。

「む? アオイか? 久しぶりだな」

親戚の集まりで遠方の叔父にあったかのような反応が返ってきた。

あまりにも普通な態度で挨拶をされて、自分がエルフの国にいるという事実を忘れそうになる。一年ぶりに里帰りしたような気分だ。

しかし、今いるのはエルフの王国アクア・ヴィーテであり、通常なら他国の者は入れない王城内での元老院の会議である。それも次期国王を決めるという極めて重要な場だ。二人だけで世間話を始めるわけにもいかないだろう。

そう思って様子を窺っていたのだが、オーウェンは目を細めて再度広間にいるメンバーを見回し、一点を凝視する形で動きを止めた。

「……まさか、グレンか?」

オーウェンが眉間に皺を寄せてグレンを指差す。そういえば、二人は幼い頃に一緒に生活していた時期があると聞いたことがある。オーウェンはともかく、グレンは見た目が随分変わってしまった為、一瞬誰か分からなかったといったところだろう。

グレンはその反応に苦笑しながら、軽く片手を挙げた。

「うむ、久方ぶりじゃな」

グレンがそんな返事をすると、オーウェンは目を瞬かせる。

「……お前、老けたな。いや、それにしても老け過ぎだろう。ジジィじゃないか」

オーウェンがデリカシーに欠ける言葉を口にすると、グレンが肩を落として深い深い溜め息を吐く。

「ジジィって言うんじゃないぞい。年齢で言うなら同じじゃろうが……というか、本当に見た目も性格も変わっておらんのう」

そう呟いてから、グレンは懐かしいものを見るような目で苦笑を浮かべる。

「まぁ、この歳になると友人が変わらない姿を見せてくれると嬉しいもんじゃ。元気そうで安心したわい」

グレンがそう言って笑うと、オーウェンは腕を組んで唸る。

「エルフは百年程度ではそこまで変わらないだろう」

「そういう意味じゃないわい」

オーウェンがズレた回答をして、グレンが苦笑交じりに突っ込む。適当な会話に見えて、何処か親しみを感じる。お互い懐かしがっているのだろう。

ただ、オーウェンの感情の変化は私とグレンくらいにしか分からないかもしれないが。

そんな二人の会話が途切れたタイミングを見計らって、エドラが口を開いた。

「……どうやら、知り合いだったようだな。だが、知らない者もいるだろう。改めて、候補者の紹介をさせてもらうが、構わないか?」

エドラがそう告げると、疎らながら候補者達は鷹揚に頷く。王候補というだけあり、エドラも少し気を遣っているような素振りをみせている。

エドラは全員の了承を得たと判断し、こちらに振り返った。

「それでは、一人ずつ紹介させてもらう。まずは、現国王の嫡男、ラングス・リカール・トラヴェル王子。年齢は百二十歳。候補者に相応しいだけのエルフの王族としての知識や魔術の技能を有しておる」

エドラが紹介すると、ラングスと呼ばれたエルフの青年は胸を張って一堂に会釈をして口を開いた。

「ラングス・リカール・トラヴェルと申します。父王の期待に応え、誰よりも優れた国王を目指しています。よろしくお願いします」

ラングスは力強い瞳で全員の顔を順番に見ながらそんな挨拶をした。まるでやる気に満ち溢れた新入社員の挨拶みたいだなどと思いながら、軽く拍手をして頷いておく。

「もっと怖い人かと思ってました」

「そうだよね、私も」

小さな声でシェンリーとエライザがそんな会話をしているのを背中越しに聞く。エルフというだけあって四人の候補者は全員が若々しく美しい見た目をしているのだが、表情や仕草といった部分でやはりそれぞれ異なった雰囲気となっている。

もっとも力強く、王族らしい雰囲気を持つのがラングスなのは間違いないだろう。ちなみに、オーウェンはやる気というものが一切感じられない。むしろ、本人が「何故自分はここにいるのか」と言いたそうな表情をしている。

そこまで考えて、私は今更ながら重要なことに気が付いた。

「……オーウェンが候補者になっているということは、オーウェンは王族なんですか?」

グレンにそう尋ねると、キョトンとした顔がこちらに向いた。

「そうじゃぞい。傍流じゃが、現国王の縁者の子、ということになるかのう。実は、あまり詳しいことは知らないんじゃよ。オーウェンも話したがらないもんでな」

ひそひそとグレンがオーウェンの血筋について教えてくれる。親戚のようなもの、ということだろうか。従弟の子といった少し離れた親戚だと候補にならなそうだが、かといって国王の兄弟の子であればそう言う筈である。それならば他国でも公爵家の嫡男相当になりそうだが、貴族社会に詳しくないので何とも判断が出来ない。

分からないことを考えても仕方ないので、次の候補者の自己紹介を聞くことに集中しよう。

そんなことを思っていると、ラングスが一歩下がって、次に髪の長い女性が前に出た。ふんわりと僅かにウェーブのかかった金髪を腰まで伸ばした美しい女のエルフだ。透明感のある真っ白な肌も相まってまるで妖精かと見まがうような神聖さを感じる。メイプルリーフの聖女がまったくをもって聖女っぽくなかったので、こちらの方が聖女と言われたら納得してしまう自信があった。

エドラはその様子を確認して、口を開いた。

「二人目は、現国王の第一王女、レンジィ・モエ・トラヴェル王女。年齢は百五歳。帝王学、戦いの知識などはラングス殿に劣るが、魔術は陛下に迫るほどだと評価されている」

エドラがそう紹介すると、レンジィと呼ばれた女は顔を上げた。誰を見ているのか分からないような、ぼんやりとした表情で口を開く。

「……レンジィ・モエ・トラヴェル。国王……私がなった場合は、女王。この国の歴史で、女王はたった二人しかいなかった。なれたら、少し嬉しい」

レンジィはまるで幼子のようにぽつぽつと挨拶をした。その様子はとても国の代表になれるような雰囲気ではなく、芸術家か何かを目指しているといった方がしっくりくるものだった。

「ど、独特な方ですね……」

「私、友達になれそうです」

エライザが呟くと、シェンリーが何故か嬉しそうにそんなことを言った。まぁ、確かにシェンリーと気が合いそうではある。

私としてはラングスよりも魔術面で優れているという部分が興味深く感じているくらいである。王族独自で継承している秘蔵の魔術などもあるかもしれない。期待は高まる。

そう思っていると、今度は子供のエルフが前に出てきた。エルフらしくない、短髪の子供っぽい雰囲気のエルフだ。ただ、あまりにも整った顔立ちでほっそりした体型の為、性別については判断が出来ない。男の子でも女の子でも納得できる雰囲気だ。

緊張した様子の子供を横目に、エドラが口を開く。

「三人目は現国王の弟であるプルトニー・オード・ブレアー殿の嫡男、アソール・ティーニック・ブレアー殿。若冠四十歳ながら、学問や魔術において極めて優秀な才能を発揮している。その素質としては十分国王になれる器だと評価されている。ただ、やはりあまりにも若過ぎる為、今のところはラングス王子、レンジィ王女に次ぐ位置として判断されている状態だ」

エドラが紹介すると、アソールは背筋を伸ばして口を開いた。

「アソール・ティーニック・ブレアーです……その、精一杯、が、頑張りますので、よろしくお願いします!」

緊張感で声が上ずった挨拶である。それにはエライザもシェンリーもほっこりして笑顔になった。

「か、可愛いです」

「本当ですねぇ」

シェンリーが我慢できずに悶えるような声を出し、エライザも同意の言葉を発した。この紹介だけ別種の空気感があったが、そこについて言及する人物はいないようだ。

だが、私はそれよりも気になることがあり、グレンに目を向けた。

「あの方は現国王の実子ではないみたいですが……」

「オーウェンもそうだと思うぞい」

小さな声でそんな会話をしていると、エドラが振り向いた。

「エルフの王国での王位継承者とは、国王の子だけではないのだ。国王とその兄弟姉妹、また、前国王の兄弟姉妹の子や孫、またはその子なども対象となる。そこに性別などは関係なく、条件は健康であることと年齢が百五十歳未満であることだけである」

我々の会話が聞こえていたのだろう。エドラがエルフの王国内での王位継承権について解説をしてくれた。やはり、エルフという種族が子供を授かり難いという理由からだろうか。もしかしたら、それらが原因で純血のエルフという部分に拘っているのかもしれない。

「……それでは、最後の一人を紹介しよう。現国王の妹であるアルタ・カートゥ・ミラーズ殿の嫡男、オーウェン・アラン・ミラーズ殿。年齢は百三十歳と今回の候補者の中で最年長である。しかし、ほとんどの期間をエルフの王国の外で過ごしており、エルフの王国で学ぶ知識、魔術などに関しては他の候補者より劣るものと評価している。期待するのは諸国を旅した知識であり、それが今後の王国にとって重要なものとなるならば次期国王となる可能性も高いと判断されている」

と、他の候補者とは少し毛色の違う紹介のされ方をされたオーウェンは面白くなさそうにそっぽを向いていた。いや、そもそも国王という立場に興味がないはずだ。オーウェンの性格なら、そんな時間があれば新たな魔術の研究をしているだろう。

では、何故そのオーウェンがわざわざエルフの王国に帰ってきてまで国王の候補者として次期国王の座を争っているのか。

面白くなさそうなオーウェンの横顔を見て、そんなことを考える。