軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

古代魔術

エルフの魔術が古代魔術と呼ばれる理由の一つに、エルフ独自の言語による複雑な魔術の数々がある。古来から形を変えないエルフの言語。他国で研究されている魔術は、せいぜい千年前程度に人間の魔術師がどの種族でも扱えるように簡易的に作りあげたものに過ぎないのだ。

エルフ達から見れば、エルフ独自の言語を理解できず、古代から伝わる最も優れた魔術を習得出来なかった愚か者たちである。そんな人間や他の種族たちが必死に研究したところで、エルフの古代魔術と同等のものになるかは疑問が残る。

それが、エルフの魔術師にとっての他国の魔術への評価だった。

「……三百年ほど前だったか。人間の国の一つに史上最高の魔術師と呼ばれた男が現れた。その魔術は世界を変えるとまで言われ、大国の動向にまで影響を与えた。それを聞いて、我がエルフの王国は何度目かの他国の調査へと赴いた。だが、その時に見たのはせいぜいが元老院の議員と同等の魔術師であり、エルフの魔術と比べても新しい発見すらなかった」

エドラはそう呟くと、グレンに視線を向ける。

「悪いが、ハーフエルフの魔術師であってもその男を超える魔術師はこれまで現れなかった。そういった過去もあり、エルフにとって魔導の深淵に辿りつく可能性があるのは純粋なエルフだけだという結論を出したのだ。それからは時折各国の調査をしてはいたが、基本的にはエルフの王国で失われてしまった魔術を何処かの国で再現出来ていないかの確認でしかない」

エドラの言葉に、グレンは難しい表情で唸った。

「……失われた古代魔術、か。わしは幼い頃にこの国を出てしまった為、エルフの魔術に対しての知識が足りなくてのう。アオイ君の雷の魔術が失われた魔術の再現であることは理解したのじゃが、他にはどんな魔術が失われてしまったんじゃろうか?」

グレンがそう尋ねると、他のエルフが鼻を鳴らして振り返る。

「魔術学院の学長を名乗るなら、それくらいは勉強しておかねばなるまい」

「いくらハーフエルフといえど、な」

同調するように別のエルフが頷いた。それにグレンは苦笑しつつ返事をする。

「そうじゃな……自分でも分かっておるが、わしはどれもこれも中途半端でのう。ハーフエルフではあるが、エルフの魔術は使うことができず、かといって人間の魔術でも何かで一番になる、ということが出来なかったんじゃ。そういったこともあり、わしはこの国に戻ることが出来なかったんじゃよ。もう少し自分に自信を持てたなら、この国に来て改めてエルフの魔術を学ぶ道もあったのじゃろうが……」

そう答えたグレンをエルフ達が下らないものを見るような目で見たが、私は首を左右に振って口を開く。

「そもそも、この国のハーフエルフに対する差別意識が問題だと思います。それが無ければそもそもグレン学長はこの国を出ることも無かったかもしれません。それこそ、この元老院の一人になっていてもおかしくは……」

フォローするようにそう言うと、何人かのエルフが声を出して笑った。

「馬鹿な。これまで、ハーフエルフが元老院に入ったことは無い。それは血筋などではなく、魔術師としての才能に恵まれなかった故のことだ」

そんな言葉に、思わず目を鋭くしてしまう。

「グレン学長は十二分に優れた魔術師だと思っています。どちらが優れているなどということを競う気はありませんが、元老院の皆さま方と比べても引けをとらない腕でしょう」

少し声のトーンを落としてそう告げると、エドラが眉間に皺を寄せてこちらを見た。しかし、実際にエルフ達では再現出来なかった魔術を行使したと認められたのか、特に反論してくることはなかった。他のエルフ達も顔を見合わせて囁き合うような者はいたが、直接文句を言ってくる者は見当たらない。

僅かな沈黙を受けて、私はエドラを見据えて口を開く。

「……それでは、先ほどのグレン学長の質問にお答えください。失われたと言われる魔術には、他にどのようなものがあるのでしょうか」

そう告げると、エドラは観念したように深く息を吐き、答えた。

「……ミスリルをも溶かす炎の閃光、巨大な船を空に浮かせる飛翔の魔術。急流の川をも凍らせてしまう氷の魔術。さらには一瞬でゴーレムを作り上げる土の魔術や、見えない光の壁といった魔術といったものか。後は、遥か遠くの者と会話をする魔術や、見えるはずの無い距離にある景色を見る魔術などもあるようだな」

エドラが失われた魔術を一つずつ簡単に説明していく。それらを聞いていく内に、既視感を感じるものがあった。

「……グレン学長? ソラレ君がオリジナル魔術で遠くの物を見る魔術を……」

「ふむ……聞く限り似たような魔術じゃったな。たしか、神の 片目(プロヴィデンス) という名の魔術じゃよ」

二人でそんなやり取りをしていると、スパイアが驚いたように口を開いた。

「まさか、学院の生徒が、ですか? そんな馬鹿な……」

その言葉に同調するように他のエルフも頷く。

「エルフの王国で優秀な魔術師達が千年にわたって研究してきたというのに、学生ごときに開発出来るような魔術ではない」

「そうだな。恐らく、遠くの物を近くにあるように見ることが出来る望遠の魔術だろう」

と、余程信じられないのか、エルフ達は口々にそんなことを呟いた。しかし、ソラレの研究成果は確かなものだった。

そう思って、ソラレの開発した魔術について説明をする。

「ソラレ君の作った魔術は、窓もない室内から遠い場所の景色を自分の目で見るように見ることが出来る、というものです。それこそ、先ほど言っていた失われた古代魔術に通じるものでしょう」

そう告げると、エルフ達は渋い顔をしてこちらを見る。

「……その魔術というのは、この場にいる誰かで使える者はいるのか?」

エドラにそう言われてグレンを見るが、グレンは困ったように眉をハの字にして首を左右に振った。まぁ、ソラレ独自の研究の為、他の人は使えないだろう。

仕方ないので、自分のオリジナル魔術で代用することにした。

「同じ魔術は使えませんが、その魔術を使う場面は見せることができます。そちらのテーブルの上に映しますね」

そう言ってから、私は魔術を使う。

「 記憶上映(メモリースライド) 」

魔力を集中させて、記憶にある映像を再現すべく火と水の魔術を行使した。扉の外から差し込む光を使い、テーブルの上に出来た水の板に映像が映し出される。そこには魔術を使って疑似的な眼を作り出すソラレの姿があった。

「この少年がソラレ君です。ソラレ君の前に眼球が浮いているように見えると思いますが、この視界を共有するような形で遠くの景色を見ることが……」

映像の説明をしていると、エルフ達がわらわらと丸いテーブルの周りに群がった。目を見開いてテーブル上に浮かぶスクリーンを観察するエルフ達。食い入るように見ているエルフ達を横目に、スパイアが疲れたような表情でこちらを見た。

「……この魔術も、失われた魔術と同等の驚異的なものに見えますが、一応聞いておきます。この魔術は、何ですか?」

「これは、水と火の初級魔術を合わせたオリジナル魔術です。どうしても私の視点からしか映像を転写出来ないのですが、いずれは別の視点や他の人の見た景色も映せるようにしたいと思っています」

質問にそう答えると、グレンが遠い目をして何度か頷いた。

「……以前、同じやりとりをした記憶があるぞい。やはり、エルフの国でも驚くものじゃよな」

そんなグレンの呟きに「なるほど」と頷きつつ、魔術を終了させた。突然スクリーンが消え去り、テーブルに噛り付くようにして見ていたエルフの一人が頭から転倒してしまう。

「大丈夫ですか? お怪我をしてしまったなら、治療しますが」

「い、癒しの魔術も使えるのか……」

そんなやり取りをした後、エルフ達は何故か一塊に集まって何かしらの議論を始めた。そして、改めてテーブルの方へ移動する。

「……雷の魔術、そして今の記憶を映し出す魔術。どちらも信じられないものだった。そのことに敬意を表して、我が王国での貴人への対応をさせてもらう」

エドラはテーブルの前に立ち、そう言った。大して言葉遣いなども変化が無いような気がしたが、もうエルフじゃないからと差別はしないということだろうか。

そう思って頷くと、エドラが周りのエルフに声を掛けた。

「候補者達を呼んできなさい。彼らには同席してもらう」

エドラの言葉に、二人のエルフが頷いて広間から出て行く。

「候補者達を呼ぶということは、候補者の方々の魔術を見ることも出来るのでしょうか」

そう尋ねると、首肯が返って来る。

「うむ、その通りだ。候補者達の魔術を見て、評価をしてもらいたい」

「おお、本当に良いのかの」

エドラの言葉を聞き、グレンが驚いた。それだけ特別なことなのか。いや、エルフ以外が立ち会うという状況が特別に違いない。

それならば、きちんと役目を全うしなくてはならないだろう。そうすることで、エルフの国の次の王になるかもしれない人物達に、エルフ以外の種族も馬鹿に出来ないと知らしめることが出来るはずだ。