作品タイトル不明
エルフの意識
そうこうしている内に、候補者の紹介が終わったエドラは我々の方に顔を向けた。
「それでは、今度は候補者達に皆の紹介をしよう。本来なら、重要な王国の未来を決定する議会に、他国の者が参列することは無い。それも、人間や獣人、ドワーフなどが参加することは前代未聞であろう」
エドラがそう口にすると、ラングスが深く頷いた。
「……エルフの血が混じっているのかと思いましたが、やはり人間と獣人、ドワーフ族でしたか。確かに、何故そのような他種族の者がいるのか気になりますね」
ラングスが同意の言葉を口にする。とはいえ、後は最年少のアソールが小刻みに頷いているだけで、他の候補者二名は一切興味を持っていそうな態度ではなかった。
それを横目に、エドラは片手の手のひらを天井に向けてこちらに差し出してくる。
「何故なら、他種族ということを無視しても参加してもらうべきだと思えるほどの者たちだからである。ハーフエルフのグレン殿はもちろん、人間のアオイ殿やストラス殿。そしてドワーフ族のエライザ殿と獣人のシェンリー殿……この者たちは、我々であっても感嘆するほどの魔術を行使することが出来る者たちということだ」
エドラがそう告げると、ラングスとアソールだけでなくレンジィやオーウェンも振り向いた。ラングスたちは単純に驚きを持って、そして、オーウェンは含みのある笑みを浮かべて私の方を見ている。
「……人間はともかく獣人やドワーフ族もそのような魔術を? にわかには信じられませんが」
少しきついブラックジョークを聞いたとでもいうような表情でラングスがそう呟いた。レンジィとアソールは興味深そうに私たちの顔を順番に見ている。
ラングスの言葉を受けて、エドラがスパイアに顔を向けた。
スパイアはその視線の意味を察して苦笑すると、肩を竦めて口を開く。
「……少々言い難いことですが、切っ掛けは我がステイル家の問題からです。息子がフィディック学院に短い期間入学していたことはご存じの方もいるでしょうが、その際に多少問題を起こしていたようで……こちらのフィディック学院の長であるグレン殿。後は教員であるアオイ殿、ストラス殿、エライザ殿。そして生徒を代表してシェンリー殿がこの国まで来られました」
「……フィディック学院の学長と教員、生徒? わざわざこの王国まで来て話をするとは、それはいったいどんな問題だったというのか」
スパイアの言葉に、オーウェンが低い声で問いかけた。すると、スパイアは困ったような表情で深い溜め息を吐く。
「あまり言いたくはないのですが、どちらにせよ後でそういった話が出そうですからね。先に自分の口から言わせてもらいましょう」
そんな前置きをして、スパイアは私とグレンを見た。
「……私の息子、ブレストがフィディック学院に入学した際、グレン殿の令孫のソラレ君と学ぶ機会があったようですが、その時にちょっと揉めてしまいまして……いや、暈すような言い方は止めておきましょう。お恥ずかしい話ですが、我がステイル家ではエルフが最も優れた種族であると教えておりました。それを盲信したブレストは、ハーフエルフであるグレン殿のソラレ君を侮辱し、魔術による攻撃を行いました。それにより、ソラレ君は学院に姿を見せることが出来なくなってしまった、とのことでした」
スパイアがそう告げると、元老院の一人二人が怪訝な顔をする。
「エルフの方が優れているという教えには問題がないだろう」
「ただ、ハーフエルフとはいえ学院の長の孫を侮辱するという行為が問題なのだ」
そんなズレた言葉に、何人かが小さく頷くのが見えた。恐るべきは、エルフが最も優れているという考えが染みついていることだろう。ラングス達も特に反応を示していない当たり、違和感を持っていないのかもしれない。
エルフの魔術を学びたい欲求は確かにあるが、それよりも教師としての信念が優先された。
「ちょっと待ってください」
思わず、口を挟む。それを予期していたのか、スパイアは素直に口を噤んだ。先ほどエルフが最も優れているといった元老院の一人が鋭い視線をこちらに向け、遅れて他の議員の目が集まった。
「……何か、言いたいことでもあるのか」
鋭い視線の男がそう聞いてきたので、頷いて答える。
「まず、一番の問題はエルフが最も優れているという勘違いです。どの種族が優れている、どの種族が劣っているという考え方は大きな間違いだと思います」
はっきりとそう答えると、何人かの目に敵意が宿った。
「勘違い、だと? 何故、そう言える? いや、どうしてそう思う? 人間という種族にとって、数が多い方が優れているというのならばそちらの感覚と違うのだと理解は出来るが、種族的に考えるならば間違いなくエルフの方が優れているだろう。それは、無知な人間以外には共通の認識だと思っていたが……」
怒気を隠しもせずに指摘をしてくるが、内容は極めて独りよがりなものである。到底納得できるようなものではない為、すぐに否定をさせてもらう。
「いえ、人口などの話ではありません。そうですね。エルフの方が剣で戦ったら、獣人の方に勝てますか?」
質問すると、男は眉間に深い皺を刻んだ。
「……剣で勝つことが種族として優れている証拠になるのか? やはり人間は野蛮な種族だな」
鼻を鳴らして答えをはぐらかす。それに苦笑すると、軽く頷いた。
「それでは、まず肉体的能力ではエルフは他種族より優れた種族ではない、ということですね」
「……っ! 誰もそんなことは言っていない!」
確認すると、男が激昂して立ち上がる。それを片手で制してから、再度口を開いた。
「そのように気が短い性格は、エルフの優れた点でしょうか? 人間や獣人、ドワーフ族からすると、冷静に頭を働かせることが出来る方が良いと考えておりますが、直情的かつ怒鳴り散らすことがエルフとしては優れている種族の証である、と……」
「違うと言っている! 貴様、我々を馬鹿にしているのか!?」
男は否定しながらも、更に怒りを露わにして怒鳴った。それにはエドラ達他の元老院の議員達の方が頭を抱えるような動作をして困ってしまう。
「……ヘドニズ、少し黙っておれ。お前のせいでエルフの品位を疑われてしまう」
エドラが厳しい言い方をすると、ヘドニズと呼ばれたエルフはグッと険しい顔をして押し黙った。納得はしていないが、エドラの言いたいことは理解したのだろう。
ヘドニズが黙ったのを確認してから、エドラがこちらにふり向いた。
「……同胞が感情的になってしまい申し訳ない。まぁ、先ほどのヘドニズの言葉を補足するなら、エルフにとって魔術は特別なものであり、他国から古代魔術と呼ばれているように、全ての魔術はエルフの魔術を基にして発展していると考えられている。そして、概ねそれは正しいはずだ。何しろ、以前各国の魔術を調査した時、特級と呼ばれる魔術は全てエルフの国の魔術の下位に近いものだった。我が国とは魔術的な格差があると言わざるを得ないのだ」
と、エドラが説明をする。それに元老院の議員やラングス達が頷くのが見えた。
それならばと、私は立ち上がって口を開く。
「それでは、エルフの魔術を見せてください。それが本当に各国の魔術よりも優れているのならば、魔術という一点においてエルフは他種族よりも優れていると認めましょう」
私がそう告げると、エルフ達は目を丸くして言葉を失くした。
ただ一人、オーウェンだけは両手を叩いて笑っていた。それに対して、グレンは頭を抱えて何か呟いていたのだった。