軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

元老院

光を受けて、不規則に反射して輝くクリスタル。透明なクリスタルだが、反射された光は様々な色が混じり合い、幻想的な雰囲気を醸し出している。人の身の丈ほどもある大きなクリスタルが広間のいたる所に置いてあり、真っ白なはずの壁面や天井、床を美しく彩っていた。

エルフの国で最も大きな建造物である王城の中心にある広間だ。この広間の天井には一際巨大なクリスタルが吊るされており、自ら光を放つように明るくなっていた。

広間の中心には大きな円状の白い石のテーブルが置かれ、周囲を取り囲むように十人のエルフが椅子に座っている。皆が揃えたように白いローブを着ており、歳の頃も見た目では同じようである。

静かな広間の中で、一番奥のエルフが口を開く。

「……それでは、本日の議会を開催する。議題は先日と同様に次期国王についてだが、今回は少し趣が違う」

二十代後半ほどの見た目にそぐわない低い声でエルフがそう告げると、周りのエルフが興味を持ったように顔を上げた。

「ほう?」

「まぁ、ようやく候補者が出揃ったからな」

「いや、もしかしたら、新たな候補者が発見された、という話かもしれんぞ」

エルフ達は口々に会議の内容を気にした発言をする。それもそうだろう。古い慣習から七日に一度を除いて毎日顔を突き合わせて話し合いを続けているのだ。それも候補者が揃ってなかった間は延々と国王の素養、在り方、各能力や知識の水準や血筋といった前提条件について話し合うばかりだったからだ。

そんな会議ばかりだと、段々とうんざりしてくるというものだろう。故に、会議が前進する材料を皆が渇望していたのだ。

興味深く言葉を待つ仲間達を見回して、一番奥に座るエルフが口を開いた。

「……元々、候補者達の魔術や魔術にまつわる知識を比べ、評価する予定だった。その為に行った会議では、エルフ古来の魔術はもとより他国の魔術であっても評価の対象とすると決め、項目として火、水、風、土を主とすると定めた」

そんなことを言われて、エルフ達は怪訝そうに眉根を寄せて首を傾げる。

「……その通りだが、それがどうしたというのだ」

「それに関しては満場一致で可決となった筈だが……」

口々に疑問の声が上がる。

それらをゆっくりと吟味するように聞いた後、最奥に座るエルフは反対側に座るエルフを見た。

「……スパイアよ。君が見て感じたことを他の議員達にも聞かせてもらいたい」

そう言われて、スパイアが顔を上げる。それを合図にしたようにテーブルを囲むエルフ達の目がスパイアへと向いた。

スパイアは浅く息を吸って口を開く。

「先達の皆さまには及びませんが、私はそれなりに魔術が使える方だと思っております。恐れながら、得意な魔術であればこの元老院の中にあっても優れていると自負しているほどです……しかし、その自信が大きく揺らぐことがありました」

スパイアがそう告げると、エルフ達の目に興味の色が浮かび上がる。

「ほう? かのステイル家の当主がか」

「スパイア殿は十分優れた魔術師ではあるが、まだ若い。それを考慮すれば仕方のないことかもしれんな」

「いや、待て。そもそも何を見て自信が損なわれたのかが重要だ。スパイア殿。まさか、新たな候補者が現れたか?」

魔術に関することだからなのか。広間の熱気が明らかに上昇した。その様子に苦笑しつつ、スパイアは肩を竦める。

「……新たな候補者であったならどれだけ良かったことでしょう。私は、誤解を恐れずに言うならば、エルフ至上主義者です。魔術を扱うという一点だけに限っては、はっきり言って他の種族など相手にならないほどエルフは優れているという意識を持っていました」

スパイアがそう口にすると、何人かのエルフが大きく頷いた。一方、眉根を寄せるエルフも少数ながらいるようであった。

その内の一人が、慎重に口を開く。

「……持っていた、という言い方をするということは、今は違うのか?」

そんな質問を受け、スパイアは細い目を更に細めて深く息を吐く。

「……そうですね。これまではエルフの魔術が最も優れていると盲信していたので、他国の魔術など興味すらありませんでした。しかし、今回のことで他国の魔術に興味が出てきたのは確かです。魔術師として優れているのか、それとも他国で研究される魔術が優れているのか……どちらにせよ、私にとってはこれまでの常識を打ち崩すほどの衝撃でした」

スパイアが感慨深そうにそう呟くと、何人かのエルフはせっかちそうに上半身をテーブルに乗り出し、焦れた表情で口を開く。

「分かったから、早く何があったか言いたまえ。そんな恐ろしい魔術を見たのか?」

「もったいぶるな」

そんな言葉に、スパイアは苦笑した後、頷いてみせた。

「勿体ぶっているわけではありません。しかし、どういう状況でどういう事が起こり、どのように感じたのかを伝えよと言われておりますので」

スパイアはそう前置きすると、皆の顔を一度ゆっくりと眺めながら、口を開いた。

「……皆さまは、ドワーフや獣人の魔術師についてどう思われますか?」

スパイアがそう問いかけると、何人かが顔を見合わせた。

「どう、と言われてもな」

「ドワーフは火の魔術ばかりであり、技術的にも他の種族よりも劣る。獣人は妙な魔術の偏りはないものの、高位の魔術を学ぼうとせず、初歩的な魔術ばかりを多用する……そんなところだろうか」

エルフの一人がそう告げると、スパイアは苦笑して頷く。

「そうですね。私もそう思っていました。いえ、もっと否定的な見方をしていたと思います。それも全て、外の世界を知らない故ではないかと思います」

「……外の世界?」

一人のエルフが聞いた言葉を反芻するようにして聞き返した。スパイアはその言葉に強く頷き、答える。

「そうです。我々はエルフの魔術こそが世界で最も優れていると信じ、他国の魔術を研究する機会を逸してしまいました……皆さんは、獣人の少女がどのような魔術を行使したと思いますか?」

「……身体強化の魔術ではないか? ブッシュミルズ皇国にもそのような魔術師がいると聞いている。それこそ、何十、何百という敵を相手にすることも出来るほど強靭である、と」

スパイアの言葉に誰かが答え、それに何人かが頷いて同意する。それにスパイアはあえて反論せずに同意してみせた。

「そうですね。私もそう思っていました。しかし、実際は違ったのです。驚くべきことに、その獣人の少女はエルフでも失われてしまったといわれる古代の魔術、雷の魔術を使ってみせたのです」

スパイアがそう告げた瞬間、驚きの声が多く上がった。

「な、なんだと!?」

「そんな馬鹿な……」

「雷の魔術なぞ、千年近く扱える者がいないというのに……」

驚愕する面々を横目に見て、スパイアは更に驚くべき事実を述べる。

「……その獣人の少女は、僅か十四歳だと言います。それも、メイプルリーフ聖皇国の出身だそうです」