軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

元老院の驚き

スパイアの言葉に、場は大きくざわめいた。

「冗談ではないのか」

「まさか、雷の魔術も使えるというのに、癒しの魔術も聖女クラスだなどと言うつもりではないだろうな?」

あちこちから驚きと疑いの声が上がった。それにスパイアは肩を竦めて身振りで否定してみせる。

「勿論、そのようなことを言うつもりはありません。しかし、恐るべきことではありませんか? 我々が知らぬ内に、エルフの国の外では失われた雷の魔術を使う者が現れ、更には国家秘匿の技術ではなく、魔術学院で生徒が教わっているのです」

スパイアがそう告げると、唸るような声が重なるように幾つも響く。スパイアの言っていることが分かったのだろう。

「……まさか、我々よりも他国の方が魔術の研究が進んでいる、と言いたいのか?」

「そんな馬鹿なことがあるか。ほんの百数十年前に他国を旅した者が大きく遅れているという評価をしているぞ」

「確かに、それは良く覚えている」

ざわざわと否定的な言葉が聞こえてくる中、最奥に座るエルフが片手を左右に振ってから口を開いた。

「……落ち着け、皆の者。新たな魔術というものは常に開発されている。単純に、今回開発されたのがエルフの国では失われた魔術だっただけかもしれないだろう」

そんな言葉に、幾分広間のざわめきが収まった。その様子を確認してから、再度そのエルフは口を開く。

「……とはいえ、無視できる内容ではない。一度、各国の魔術の研究状況を調査した方が良いかと思うが、どうだろうか」

問いかけるようにそう言われて、円卓を囲むエルフ達も顔を見合わせて口を開く。

「確かメイプルリーフ聖皇国の癒しの魔術を調査しにいったのが最後だったか?」

「うむ。ラムゼイ侯爵の噂を行商人から聞いた際は議題に上ったが、結果調査するほどではないという結論に至ったな。身体能力の強化などは、元々が身体的に優れている獣人だからこそ高い効果を得られる。我らには不要という話になったはずだ」

そんな会話をしながら、エルフ達は外の世界へ興味を持ち始める。それを観察するように眺めてから、スパイアが顔を上げて口を開いた。

「……丁度良いことに、先ほど話した少女たちを呼んでおります。もし良ければ、話を聞いてみませんか?」

スパイアがそう告げると、何人かが訝しげに眉根を寄せた。

「……少女たち?」

「この場に連れてきたのか? ここは元老院だぞ」

「それも次期国王を決める場であるというのに……」

批判する声が聞こえてくる。それにスパイアは真剣な顔でその場にいるエルフ達を順番に見た。

「……だからこそだと、私は思っております。次期国王を決める場に相応しくないとするならば、まずはこの場にいる者たちだけで他国の魔術を評価してみませんか? 重要な会議ではなく、単純に他国ではどのような魔術が研究されているのか、話を聞くだけでも良いと思うのですが」

「……なるほど」

今度は、スパイアの言葉に反対する意見などは出なかった。空気が僅かに緩むのを感じて、スパイアが笑みを浮かべた。

「恐らく、皆さんも驚くと思いますよ。先ほども言いましたが、エルフが最も優れていると信じていた私がこんなことを言いだしているのですからね」

そう口にしてから、スパイアは視線を横に向けた。

「どうぞ」

誰もいない扉に向けて、スパイアがそう声をかけると、扉が外側から開かれた。真っ白い壁に同化するような美しい銀色の扉がゆっくりと開かれていき、奥から黒い髪の女が姿を見せた。

小柄だが、美しい女だった。髪の間から見える耳は短く、その女がエルフではないと知れた。他国でいうところの上級貴族が集まる議会のような場だ。通常であれば、萎縮してしまう者が殆どだろう。だが、その女はまるで獲物を見つけた猛獣のように目を輝かせて広間へと入って来た。

そして、その後にエルフにしては歳をとり過ぎている老人と、若い人間らしき男。更にドワーフと獣人の少女が二人、姿を現した。ただ、堂々と入場してきたのは最初の若い女一人であり、残りの四人は所在なさげな態度で静かに歩いて来る。

まるでわざと集めたような組み合わせである。これには長い年月を生きてきた元老院のエルフ達も驚いたように眉根を寄せた。

「……あの獣人の少女が、雷の魔術を?」

「違うんじゃないか? 自信に溢れた顔をしている前の女だろう。特徴は少ないが、恐らくあれも獣人に違いない」

「そう言われたら、確かに目が鋭過ぎる気がするな」

アオイ達の登場に、皆がそんな感想を口にしたのだった。