作品タイトル不明
エルフの国の状況
スパイアの言葉に、グレンが一番に驚きの声を上げた。
「……まさか、王が……?」
グレンが不安そうにそう呟くと、スパイアは表情を僅かに引き締めて首を左右に振る。
「いえ、もちろんまだまだ壮健でいらっしゃいます。しかし、王ももう高齢となってしまいました。後数十年以内には王座を譲る日が来てしまうでしょう。その為、陛下は後継者候補を集めて元老院の前で誰を次の王とするか、決めようとしておられます」
その説明に、グレンが成程と頷いて視線を下方に向ける。なにやら考え込むような素振りを見せた後、こちらをちらりと見た。
「……? どうかしましたか?」
そう尋ねると、グレンは一瞬何かを言いかけたが、すぐに首を左右に振って目を伏せた。
「……いや、なんでもないぞい」
グレンの様子に、ストラス達も怪訝な表情を浮かべている。だが、スパイアは一瞥しただけでさして気にした様子も見せずに口を開いた。
「……それで、その新たな王を決める為の会議はおよそ一年から二年かけて行われます。その過程で判断材料の一つとして比較されるのが、魔術師としての力量です」
そう言って、スパイアは小さく一言呟いた。聞き取れなかったが、どうやらエルフの言葉で詠唱をしたらしい。
そして、自らの胸の前で手のひらを上に向け、小さな青い炎を生み出す。揺らめく炎はその小ささにもかかわらず、かなりの高温であると思われた。その炎はエルフにとって何かしらの意味があるのか、ブレストが驚いたような顔になっている。
皆の視線が集まっているのを自覚してか、スパイアは目を薄く開いて炎から視線を上げた。
「これは、エルフの火と呼ばれる魔術です。この国の全ての者が最初に覚える魔術でもあります。我が国は森の奥深くに住み、森の恵みを受けて暮らしています。なので、最初に火の魔術の扱いを学び、樹木や草花を燃やしてしまわないようにしている、と言われていますね」
そう呟いてから、スパイアは炎をかき消した。
「このエルフの火は、魔術の理を知れば知るほど色が青白くなっていきます。そして、扱いが巧みなればなるほど火は小さくすることが出来るのです。私の火は青かったと思いますが、王の火は更に小さく、白い火です。つまり、エルフの国でも上位に位置する魔術師である私であっても、王の魔術の足元にも及ばないということです」
その言葉に、エルフの人々が深く頷いた。どうやら、エルフの王国に住む民にとってそれだけ国王の魔術の力は偉大なものなのだろう。
スパイアはこちらが理解したと判断したのか、真剣な目で順番に私たちを見て再度話を続ける。
「だからこそ、次の王を決めるというのは慎重にならざるを得ません。なにせ、王は我が国の象徴。アクア・ヴィーテの太陽となる大切な存在です。そして、先日次代を担う王の候補者が全員王城に集まりましたが、国外に出ていた候補者が二人もいたので開始が遅くなってしまい、候補者達はまだ魔術についても誰も披露すらしておりません」
そう言うと、スパイアは肩を竦めて見せた。それに、グレンが難しい顔で唸る。
「……とはいえ、そんな場に我々が立ち入っても良いのかの? それに、そこでアオイ君が魔術を披露して元老院に認めてもらうなど、出来そうもないと思うのじゃが……」
懸念していたことをグレンが替わりに質問してくれた。スパイアは僅かに逡巡するような素振りを見せると、やがて口を開いて答える。
「……まぁ、皆さんが望む形ではないと思いますが、元老院の議員や議員が推薦する者を交えて魔術についての意見交換を行う場があります。これは、魔術があまりにも多岐に渡ることと、ここ数十年で国外へ出るエルフが増えたことに起因します。単純に同じ魔術で比較することが出来ない為、あらゆる立場の者の知識や経験をもって魔術の評価を行いたいからです」
その台詞を聞き、ようやく話を理解することが出来た。
「なるほど。それは好都合ですね。それに、フィディック学院学長と教員。さらに、人間や獣人、ドワーフの見識も加わるのですから……これは、何かしらの縁があったとしか思えません。是非とも、我々もその場に参加させてください」
興奮気味にそう頼み込む。
なんということだろうか。エルフの王国の上級貴族相当の魔術師による魔術を学べたら有難いと思っていたのに、国王や王の候補者たちの魔術まで見ることが出来そうだ。更に、技量の高い魔術師達と意見交換会まで出来るとは、考えうる最高の環境ではないだろうか。
そう思って皆を振り返ったのだが、ストラスやエライザの表情はまるで通夜のような雰囲気だった。
「……どうかしましたか?」
そう尋ねるが、二人は目から光を消し去って遠くを見るような目をする。
「……絶対に危険だ」
「……外交問題になりそうな気がします」
二人は何かぶつぶつと呟いていた。そして、グレンは冷や汗を流しながらこちらを見た。
「も、もちろん、争いの場ではないからの? 分かっておるな、アオイ君?」
「もちろんです。正々堂々と魔術の技術を競い合いたいと思います」
「分かっておらん気がするのう」
私が即答すると、グレンもストラス達と同じような表情で視線をどこか遠くの方へ向けてしまった。なにか気になることでもあるのか。
そんなことを思っていると、何故かシーバスが真剣な顔つきでこちらを見た。
「……王がいる場に、アオイが? いや、大丈夫か。まさか、流石に王や候補者達がいるならば無茶なことも……」
と、シーバスがぶつぶつと何か呟いている。シーバスの前でそんなに変な行動はしていないはずだが、何故こうも警戒されているのだろうか。
こちらからすると、ステイル家で巻き起こったことは全てステイル家が悪い。いや、確かに柔軟な対応とは言えないかもしれないが、全て正当防衛のはずである。
若干不安になった私はシェンリーを振り返り、フォローを求めて声を掛けた。
「……この国で私はそんなに変なことをしていないつもりですが」
「は、はい。そうですね……多分、そうだと思います」
優しいシェンリーは望んだ通りフォローをしてくれたのだが、自信無さげなのが気になるところだった。