軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法陣によるゴーレム作成

「かなり練習しましたが、やっぱり不安ですね」

ステイル家の中庭に出て早々、エライザはそんなことを言いながら苦笑をみせた。だが、慣れた様子で手早く地面に魔法陣を描いていく姿は頼もしく映る。

ステイル家の三人と執事のポット、ブレスト達警護隊の面々は不審な者を見るような目で屋敷の方から見ているが、ストラスとシェンリーも若干不安そうな表情でエライザを見守っている。

文化祭などがあった為、それぞれがどんな魔術の研究をしてきたか知らないからだろう。

しかし、実はエライザは毎日欠かさず魔法陣の勉強を行っていた。私も週に一度程度だが、エライザの学習に協力している為、どれだけ頑張っているか知っている。

何度も何度も描いてきた魔法陣を描いていき、エライザはこちらを確認するように見た。

「大丈夫だと思います。よく出来てますよ」

そう答えると、エライザはホッと胸をなで下ろし、出来たばかりの魔法陣の傍で姿勢を低くして手を伸ばす。

魔力を込めると、魔法陣が薄っすらと青い光を放った。

そして、徐々に魔法陣の中心の円の中で土が盛り上がり始め、小さな山のようになっていく。土山は徐々に大きくなり、やがて人の身長ほどの高さになった。

魔術を行使している人にしか分からないことだが、ここからが難しい。集めた土を成形し、固め、更には動けるように関節部分に曲げ伸ばしが出来る細工をする。そして、頭から魔力による神経を張り巡らせて、指令を聞いて適切な動きが出来るように判断する頭脳を作り上げなければならない。

それが出来なければ、ただの人形でしかないのだ。

そういった難度の高さから、ゴーレムは極めて簡単なものしか作られていない。動きも蝸牛のように緩慢で、歩いて移動するだけでかなりの時間を要するほどである。更に、素材も限定的であり、一部の国ではもう研究すら取りやめられているような代物だ。

エルフの国ではまだゴーレム作りは継続しているのか、ゴーレムを作ること自体に驚きはなかったが、それでもあまり良い反応ではない。

オーウェン曰く、古代のゴーレムは人間と同程度とまでは言わないが、それなりの早さで動け、多少複雑な指令にも対応できたらしい。

オーウェンの教えだけでなく、フィディック学院の蔵書を読んでゴーレムの仕組みや可能性について検討を重ねた結果、私は一つのアイディアに行き着いた。

頭脳をプログラムのようにして作る、ということだ。これまでの文献では、ゴーレムの指令に対する行動は曖昧な部分が多かった。それ故に、行動が遅くなったり、複雑な動きが出来なかったりしたのだ。

魔力を流し込んである程度の期間保存できる魔力貯蔵庫と、プログラムの要領でそれぞれの命令に対応する動きを定めた魔力回路。この二つのおかげで、エライザのゴーレムは大きく進化したと思う。もちろん、それ以外でも人体の構造を用いた体作りや、魔力の伝達を行う為の神経用素材の研究も行っている。

こうした研究成果をきちんと反映できるように、魔法陣は何度も更新された。エライザはその度に魔法陣の形や魔力の流す量を一から憶え直してきた。

こうした影の努力もあり、エライザのゴーレムは十分な能力を備えながらも、わずか十数分で完成したのだった。

成型の段階で背は縮み、エライザと同等程度にはなったが、立方体と円柱を組み合わせたような無骨なゴーレムが完成した。

エライザは満足そうにゴーレムの姿を上から下まで確認して、スパイア達に向き直る。

「完成しました!」

エライザが宣言すると、呆気にとられたような面々が出来たばかりのゴーレムを眺める。代表するようにスパイアが前に出てきて、エライザのゴーレムを見下ろした。

「……確かに、恐るべき速度でゴーレムが出来上がりましたね。しかし、これは形だけでしょう? それならば、特にゴーレム作りを学んだことの無い私でも作成可能ですが」

馬鹿にするように笑いながらスパイアが感想を口にして、ピーアとブレストも噴き出すように笑う。

それに、エライザは自信満々といった笑みを浮かべて首を左右に振った。

「いいえ、これはちゃんとしたゴーレムです。それも、高い能力を持ったゴーレムです」

エライザが答えると、ブレストが顎をしゃくってゴーレムを指さす。

「なら動かしてみせろ」

挑発的なその言い方に、エライザは薄い胸を張って頷く。

「はい、もちろんです。『前進』」

エライザが一言指令を伝えると、ゴーレムは上体を僅かに上げて右足を前に出した。地面に右足が着くと同時に自身の後方へと送り出して重心を移動しながら、同時に左足を出す。スムーズな動きだ。

人間の動きほどではないが十分に滑らかな動きで歩くゴーレムに、皆が唖然とした表情を作る。

「『右に方向転換』」

エライザが次の指令を出すと、ゴーレムは即座に体の向きを変えた。指令寸前に踏み出してしまった足の分は仕方がないが、次の足を出す前に上半身を右に向けて、次につま先の向きを変えながら腰を回す。

こちらも中々良い動きだ。頑張って考えた甲斐があった。

そんなことを思いながらゴーレムを眺めていると、エライザが不敵な笑みを浮かべて口を開いた。なんとなく、嫌な予感がした。

「……ゴーレムさん! 『飛んで』『下を向いて』……『右手を突き出す』!」

矢継ぎ早に決められた指令を告げるエライザ。すると、ゴーレムは即座に指示された内容を処理しようと動き出す。

ゴーレムが地面を蹴って真上に飛び上がり、上半身を折り曲げるようにして下を向く。

そして、地面へ落下しながら右手を突き出した。

直後、ゴーレムの岩のような右手が真っすぐに地面に突き刺さる。地面が揺れるような衝撃と腹に響く低音が鳴り響き、地面が直径五十センチほどのクレーター型に凹んだ。

ゴーレムの拳部分が丸みのない立方体だった為、地面に綺麗に刺さらずに衝撃が広がったのだろう。貫通力という意味では皆無だが、自重と重力、さらに腕を突き出すという動作が綺麗に組み合わさった破壊力は中々のものだ。

それが分かったのか、ゴーレムの力を見たエルフ達の何人かが息を呑んだ音が聞こえてくる。

「……『停止』」

エライザが最後の指令を出すと、ゴーレムは動きを止めた。一拍の間をあけて、エライザが口を開く。

「どうでしたでしょうか?」

その言葉に、すぐに返事を出来る者はいなかった。目を瞬かせるスパイア達を横目に、ストラスがホッとしたように口を開く。

「昔見た時よりゴーレムの動きが段違いに良くなったな」

「はい! やはり、新しい構造にしたのが良かったんだと思います。全部、アオイさんの発案ですけど」

ストラスの感想に苦笑しつつそんな返事をするエライザ。

「いえ、エライザさんの努力の賜物ですよ」

そう言うと、エライザは笑いながら頷いた。

その様子を確認してから、スパイア達に向き直る。

「……さて、獣人のシェンリーさん。そしてドワーフのエライザさんが魔術を披露しましたので、次は私でしょうか」

微笑みを浮かべてそう告げると、スパイアの後ろでピーアとブレストがビクリと身を震わせた。