軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】魔法陣の驚異

何が起きたのか。

間違いなく、広間にいた者の大半がそう思ったことだろう。

それもそのはずである。アオイが見知らぬ魔術を発動させると、床に使っていた木材が生き返ったかのように伸びていき、穴を塞いだのだ。

確かに、エルフの使う古代魔術にも似た方向性の魔術はある。エルフの魔術が精霊魔術という別名で呼ばれる通り、様々な物質ごとに魔術の在り方に差異がある。特に、樹の精霊魔術は顕著だろう。

動物と同じく、生命があるものに介入して変化を与える魔術だ。この魔術は扱いが難しく、樹木を成長させるといった効果を発揮することも可能である。その一点に着目した場合、この魔術はある意味で時間を操作して樹木を老いさせている、とも言えるのだ。魔術の常識として、時間を操ることは不可能である。それ故に、樹の精霊魔術は一部から魔術の深淵に最も近い魔術と考えられている。

その樹の魔術を用いたとしても、既に生命を失った樹木を相手には今のような効果を発揮することは出来ない。

このアオイという人間は、どうやって死んだ樹木を成長させたのか。

それまで「身の程知らずの人間が大言壮語を吐いている」程度の認識だったというのに、途端に薄気味悪くなってくる。まさかとは思うが、死者を生き返らせて使役する闇の魔術を研究しているのだろうか。

先ほどまでとは違う緊張感でアオイの動向をうかがっていると、当の本人は何食わぬ顔で床の様子を確認してから立ち上がり、顔を上げた。

「少し色が違いますが、時間が経てば馴染むと思います。これでよろしいでしょうか? もし、他の部分で傷みが生じてしまっていた場合は、その都度補修を行いますので……」

そんな間の抜けた回答を聞き、私は慎重に頷く。

「……もう床のことは気にしていません。ところで、今行った魔術は? 魔法陣はエルフの国でもいまだに使う者はおりますが、数百年生きた老人ばかりです。人間の貴女がどうやって習得したのでしょうか」

無意識に早口気味になってしまったが、アオイは質問の内容を吟味するように静かにうなずいて口を開いた。

「今の魔術は私のオリジナル魔術です。木材を構成する繊維を補強しながら薄く伸ばし、均等化することで以前よりも強くしながらも木材らしい見た目を残すように処置しています。ちなみに、この魔術は主に繊維を加工する為にあるので、金属では効果がありません。なので、金属の加工などは別の魔術を使っております……あ、魔法陣はある方に教えていただきました。魔法陣だけでなく、魔術具などもその方から教わっております」

丁寧な回答をして、アオイは無言に戻る。恐らく、アオイの説明を聞いた誰もが完全に理解をすることが出来なかったはずだ。しかし、アオイは当たり前のことを口にしたような態度で黙っている。

この人間の独特な間というか、空気感が苦手だ。エルフも貴族も関係ないとでもいうような態度で、自分の考えをはっきりと述べてくる。全て自分に対する自信からきているのかもしれないが、それでも悠然とし過ぎている。

自分でも気が付かないうちにアオイの雰囲気に吞まれているのかもしれない。そう思い、深く息を吐いて気持ちを落ち着ける。

「……なるほど。よく分かりました。それで、まさかとは思いますが貴女の得意なその魔術が、我々エルフの魔術よりも優れた魔術、ですか?」

そう告げると、アオイは首を僅かに傾げた。

「……? いえ、別に魔法陣がエルフの魔術よりも優れているとか、そういったことを言いたいわけではありません。私が言いたかったのは、エルフが最も優れているとか、獣人やドワーフが劣っているとかいう考え方を止めてもらいたいと……」

アオイにそう言われて、自分が本来の話から外れた思考になっていたことに気が付く。

「ああ、そうでしたね。そういう意味では、そこの獣人の少女の魔術は確かに中々見応えがあったように思います。まぁ、制御できない魔術に意味があるかは不明ですが」

一言、足りない部分を指摘しておく。獣人の少女は羞恥に耐える様に俯き、奥の人間の男がこちらを睨んできた。間違ったことは言っていないのだから、睨まれる筋合いはない。

「それで、次はそこのドワーフですか?」

確認の為に尋ねると、アオイはドワーフの少女を見た。

「エライザさん、どうしますか?」

そう尋ねると、エライザと呼ばれたドワーフの少女は不安そうな顔で顎を引くが、すぐに決意を固めて顔を上げる。

「は、はい……! 私も、ドワーフだって魔術を扱えるんだって見せつけてやります!」

鼻息も荒くそう宣言するエライザに、失笑を返す。

「ふっ……見せつける、ですか? ドワーフといえば低レベルな火の魔術。それも、鍛冶を行う為に行使する程度の魔術ばかりと聞いていますが?」

笑いながら尋ねると、エライザは眉根を寄せてこちらを見た。

「そ、それは偏見だと思います。ドワーフは火、土、水、風の魔術を主に使いますが、十分高い技術を持つ魔術師が何人もいます。私がそうであるとは言えませんが、それでも低レベルな火の魔術のみなんてことはありません」

そう言ってから、エライザは肩を怒らせてアオイの前に出てくる。

「私は、魔法陣を使ってゴーレムを作成したいと思います」

エライザがそう言って何か準備を始めようとするのを見て、グレンが慌てた様子で両手を上げた。

「お、おお! ちょっと待ってくれんか! そんな魔術なら外でやるべきじゃと思うんじゃが!?」

グレンの言葉に、アオイも深く頷いてこちらを見る。

「そうですね。エライザさんがゴーレムを作るなら、外で良いかと思います」

二人のセリフを聞き、私は我が耳を疑って口を開いた。

「……まさか、一からゴーレムを作成する気ですか? 石だろうと金属だろうと、ゴーレムつくりはそれなりに制作の期間が必要です。そこまで我々も暇ではないのですがね?」

常識外れなことを言い出すアオイ達にそう釘を刺すが、特に表情に変化はない。むしろ、当たり前だというように頷き返された。

「もちろんです。あまりお時間は取らせないようにしましょう」

アオイがそう答えると、エライザも同様に頷いたのだった。