軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アオイの考え方

私の一言に、場の空気が変わる。グレンたちは血の気が引いたようになって息を呑み、スパイアは勝ち誇ったように笑みを深める。

私の言葉をどう受け取ったのかは明白だ。

しかし、言葉を続けるとその表情はまた変わる。

「今回の件は、私の拘りによるものです。一度でもフィディック学院に在籍した生徒なら、直接関わっていなくても同じ生徒だと思ってます。なので、グレン学長の意思ではなく、私が自分の判断で家庭訪問をしようと決めました」

そう告げると、スパイアの顔から表情が失われた。どうやら思惑通りとは言えない展開となったようだ。スパイアは細い目を更に細めて首を僅かに傾げる。

「……魔術師としての知識と技術はあるのかもしれませんが、政治的な部分は疎いようですね。まぁ、良いでしょう。それで、アオイ先生はフィディック学院に迷惑をかけるかもしれないと考えもせずに、独断でエルフの国にまで訪ねてきた、ということですね。その行動が正しいかどうかは置いておいて、アオイ先生の考え方はよく分かりました。それで、先ほどの話の続きとなりますが、学院でのブレストの起こした問題について聞かせてください」

スパイアが余裕を感じさせる態度でそう口にした為、グレンに視線を向けた。すると、グレンは一度溜め息を吐き、とても言い辛そうな表情で口を開く。

「……ブレスト君は、どうやらハーフエルフや人間を見下しておったようでの。過度な暴言や差別的な発言も多かったようじゃ。また、同じ講義を受けることは無かったようじゃが、学院内での暴力、魔術による危険な行動なども見られたと記憶しておる」

グレンがそう言って悲しそうに目を伏せると、スパイアはしばらく静かに黙っていたが、やがて眉をひそめて口を開いた。

「……ん? それで、他には何があったのでしょうか。まさか、それだけではありませんよね?」

スパイアが驚いたような表情でそう言うと、グレンが眉間に皺を寄せて頷く。

「それだけ、とは……魔術を使って衣服を切り裂いたこともある。石や氷を飛ばして怪我をさせたこともあるようじゃ。喧嘩、というには明らかにやり過ぎとも言える行為じゃろう」

補足するように説明をする。それに、スパイアは面白くなさそうに首を傾げた。

「ふむ……それで、お孫さんは癒しの魔術でも治療できないほどの怪我を負ってしまった、ということですね。ならば、我が国で治療をしましょう。よくメイプルリーフ聖皇国の癒しの魔術の噂を聞きますが、エルフの古代魔術にも優れた癒しの魔術があります。フィディック学院で治療が出来ずとも、我が国なら治療することが出来るでしょう」

スパイアはそう言って、話は終わりだと言わんばかりの態度をとった。その様子に、グレンは短く息を吐く。

「……幸いにも、そのような大きな怪我はしとらん。しかし、本人はひどく傷ついてしまっておるのじゃ。ブレスト君には、今後そのようなことをしないように気を付けてもらえたらと思っているのじゃよ」

グレンが諭すようにそう告げると、スパイアは呆れたような表情になって固まる。そして、その後ろではピーアとブレストが失笑しつつグレンの顔を眺めている。

その態度に、少し腹が立った。グレンが何か言おうとしていたようだが、我慢できずに横から口を挟んでしまう。

「……スパイアさん。イジメというのは大きな問題です。場合によっては、ブレスト君の行為によって虐められた子は未来を台無しにされてしまうことだってあるのです。もし、これが逆であったならどうでしょうか? 例えば、そこにいるシェンリーさんがブレスト君を虐めて、ブレスト君がもう家から出ることが出来なくってしまったとしたら……」

話の途中で、ブレストが噴き出すように笑いだした。

「ふっ! はっはっは! いくらなんでも、獣人なぞに魔術で負けるなどあり得ない話じゃないか!」

ブレストが腹を抱えて笑うと、ピーアまでもが楽しそうに笑った。急に話題の中心となってしまったシェンリーは、謂れも無い羞恥に俯いて身を固くしてしまう。

失態だ。私が余計なことを言ったせいで、シェンリーを傷つけてしまった。罪悪感を感じて何とかフォローしようとブレスト達を見る。

「いえ、エルフや人間だけでなく、獣人、ドワーフも大きな違いはありません。どの種族であろうと一流の魔術師になる素質を持っています。ただ、適切かつ効率的な魔術の学習が出来ていないだけです」

そう告げると、スパイアが鼻を鳴らして口の端を上げた。

「……なるほど。人間基準での一流の魔術師という部分は理解できました。しかし、大きな違いが無い、というのは無理がありますね」

そう口にして、スパイアは肩を竦めつつグレンを横目に見る。

「私の記憶が確かなら、グレン侯爵は幼少時にこの国を出て行ったと聞いたことがあります。つまり、グレン侯爵はエルフの魔術の多くを習得することなく外の世界へ出てしまった、ということです。そんな状況でありながら、人間の国で世界最高峰といわれるフィディック魔術学院の長となることができたのはエルフの血が大きな要因と言えるでしょう。たとえ、半分しか流れていなかったとしても、ね」

スパイアがそう口にすると、グレンは何も言えずに口を噤んだ。ストラスの顔にはっきりと怒りの感情が浮かんでいたが、我慢しているらしく口を開こうとはしない。ちなみに、一番魔術的な面で劣る種族といわれるドワーフ族のエライザは恥じるように俯いている。

だが、私はそのスパイアの口にする常識に異を唱える。

「それはあまりにも世間知らずではありませんか? スパイアさんはまだエルフの国を出たことが無いのかもしれませんが、外には多くの優れた魔術師がいて、その全てがエルフというわけではありません」

はっきりとそう告げると、スパイアは強い苛立ちを顔に浮かべて、前のめりになるような恰好で上体をこちらに出した。

「……ここまで無礼な物言いをされると、いっそ清々しいほどと言えますね。私の言葉に反論する人が君以外にいなかったことを考えると、どちらが常識的な考えだったのか自ずと分かりそうなものですが」

「スパイアさんは世界各国を旅されたことがある、ということですか? たとえば、どちらの国に行かれたことが? まさか、他の国々に行ってもいないのに魔術はエルフが一番だと口にしているわけではありませんよね」

確認するようにそう尋ねると、スパイアは何も言えずに閉口し、私を睨む。元々冷え込んでいた広間の空気が更に一段階気温を下げてしまったような気になる。

思わず感情的になって揚げ足を取ってしまった。

胸の内で反省しつつ、冷静になろうと居住まいを正してスパイアに向き直る。

「すみません。エルフの方々は基本的に国を出ないことを知っていて指摘してしまいました」

一言謝罪の言葉を口にすると、ほんの僅かだが空気が和らいだ気がした。しかし、まだまだ話は終わっていない。それどころか、本題にすらはいれてない。

気持ちを切り替えて、スパイアがどうすれば納得して他の種族を見下さないようになるか。また、本題であるブレストへの教育的指導においても考えなくてはならない。

さぁ、ここからが正念場である。