作品タイトル不明
エルフの国でさっそく
城門が開き、すぐに城壁の下に戻り、きちんと城門をくぐる形での入国を果たす。
「わぁ……!」
シェンリーが目を輝かせて、エルフの国の街並みを見回した。フィディック学院のあるウィンターバレーも綺麗な街だが、この街はまた雰囲気が違う美しさがあった。
自然と街が同居したような作りと、統一感のある白い壁の建物。そして、街の奥にある美しい真っ白な城。城の造形も尖塔やアーチが並び、複雑かつ繊細な作りとなっている。
最初来た時はゆっくり眺める時間もなかったので気がつかなかったが、シェンリーが感動するだけあり、独特ながら長い年月で積み重ねられた洗練さが感じられた。
街並みを改めて眺めていると、城壁の上から階段を使って降りてきたシーバスが我々の前に現れた。生真面目な表情、というより厳めしい顔、といった方が正しいだろうか。
シーバスは眉間に皺を寄せてシェンリーやストラス、エライザの顔を確認していく。
「……人数が増えれば増えるほど不安になるのは何故だろうか。ん? そこの者はドワーフではないか?」
シーバスがエライザを見てそう口にすると、エライザの顔に緊張が走る。
「は、はい。エライザ・ウッドフォードと申します……」
エライザが丁寧に頭を下げて自己紹介すると、シーバスは不思議そうな表情をしながらも頷いて答える。
「……警護隊隊長のシーバスだ。いや、ドワーフを初めて見たものでな。失礼した」
シーバスがそう告げると、エライザは苦笑しつつ首を少し傾けた。
「……エルフの人達の方が珍しいと思っていたけど、この国では確かにドワーフの方が珍しいですよね」
馴れない扱いにエライザが困っていると、シーバスは納得するように浅く頷き、次にシェンリーに視線を移す。
「そこの少女は獣人のようだが、彼女も魔術を使えるのか?」
「はい、まだ十四歳ですが、上級以上の魔術を使うことができます」
シェンリーの代わりに私が胸を張って答えた。シーバスは何か言いたそうな表情をしたが、すぐに考え直すように小さく首を振り、グレンへと目を向ける。
「……個性的な面子だな。それでは、グレン殿。今日のところは宿に案内しようか」
「おお、宿があるのかの? エルフの国は外界との接触を断っておるから、宿も無いかと思っておったぞい」
シーバスの言葉にグレンが小さく驚く。
「この国にも定期的に来る行商人がいる。極めて例外だが、人間の国で暮らすエルフの仲間が行商人をしているからな。その者たちのために、集会所の一つを宿の代わりにしているのだ。十人程度なら問題なく宿泊することが出来るだろう」
「なるほどのう。エルフの商人ならフィディック学院にも来たことがあるぞい。もしかしたら同じ人物かもしれんの」
二人はそんな話をしながら、連れ立って歩き出した。しかし、私は誤魔化されない。
少しわざとらしく咳払いをしてから、二人の背中に声を掛ける。
「申し訳ありませんが、最初はステイル家に向かいましょう」
そう告げると、二人はぴたりと動きを止めて仲良く振り返った。
「……着いてすぐにか」
「そうじゃよなぁ……アオイ君じゃものなぁ」
揃って肩を落とす二人を見て、ストラスとエライザが疑惑の眼差しをこちらに向ける。
「……何をした?」
ストラスが短い言葉で私の余罪を自白させようとした。いや、私は悪いことはしていないので大丈夫だろう。
そう思ったが、つい先ほどシーバスが私とグレンのせいで大変だったと言っていたことを思い出した。
「……何かをしたつもりはありませんが、どうやら貴族の方々を騒がせてしまったようです」
そう答えると、ストラスとエライザが深く頷く。
「やっぱり」
「そうだと思いました」
二人は同時にそう呟いた。シェンリーも苦笑しつつ何も言わないのが歯痒い。
まるで、私が故意に騒ぎを起こしたと思われていそうだ。しかし、前回はステイル家の母子が原因のはずである。そう思ってグレンとシーバスを見たが、二人とも目が合ったのに何も言わずに前方に顔を向けた。
「さぁ、行くならさっさと行こう」
「そうじゃのう」
そう言って歩き出す二人に、ストラス達も遅れて歩を進める。
「さぁ、行こうか」
「アオイさん、行きましょう」
「わ、私はアオイ先生の味方ですから」
三人はそう声を掛けながら先に歩いていく。何故か疎外感を感じつつ、私も後に続いて歩き出したのだった。
目的地に着くと、シーバスが連れてきた警護隊の隊員達が私達の周りに立った。今回は五人いるからか、周りの隊員達の人数も多い。
「……それにしても、人数が多いような」
と、私は改めて周りを確認する。周囲には壁のように二十人以上の警護隊の隊員が立っていた。
私の左右に五人ずつ、前方に三人。残りは後方だ。
気になって一人一人の顔を確認していると、シーバスが険しい顔でこちらを見た。
「……不審な動きはしないように。他国の上級貴族であるグレン殿と、フィディック学院の教員達として案内しているのだ。安心して、何もせずに同行してもらいたい」
「何もしてません。ただ、今日は我々の人数が多いから大勢の警護隊の皆さんが付いてきているのだと思って……」
そう答えると、シーバスは不満そうに私達を見る。
「……それも前回のアオイの行動のお陰だ。私も同席していながら、争いを諌めることが出来なかったと責められた。ゆえに、今回は武力で制圧できる人数を揃えるように言われている」
シーバスが理由を説明すると、またもストラス達の目がこちらに向いた。
「……アオイ……」
「アオイさん……」
「アオイ先生……」
三人が咎人を見るような目で私を見ている。
「いえ、私は自己防衛のために行動したまでです。自分から魔術を発動したわけではありません。そうですよね?」
助けを求めるようにグレンに確認をとるが、グレンは話を聞いてもおらず、シーバスに話しかけていた。
「……この警護隊の皆さんはどれくらいの魔術を使えるのじゃろう?」
「古代魔術……人間の魔術で言うところの特級相当の魔術を皆が使いこなせる。それも五セル以内……そちらの感覚ならば二小節の詠唱で発動が可能だ」
シーバスがそう告げると、エライザが目を丸くして驚く。
「す、凄いですね……特級となると、私も二小節では扱えません」
エライザが素直に驚嘆しながら感想を述べる。それに、他の警護隊のエルフたちが思わず振り向いた。
「……特級魔術を扱えるのか?」
「こんな子供が?」
「まだ三十年も生きていないのではないか……」
今度はエルフ達が驚嘆し、呟く。シーバスはそんな警護隊の面々を一瞥すると、こちらを見て口を開いた。
「……恐るべきはフィディック学院ということか。いや、我が国の常識が今や時代遅れなのかもしれないな。なにせ、この国ではドワーフは魔術師としての才能に劣ると信じられているのだから」
自嘲気味に笑って、シーバスはそう口にした。
「あ、いや、ドワーフ族は確かに魔術は……」
エライザが慌てて訂正しようとしたが、それをストラスが片手を挙げて止める。
「何も言うな」
ストラスがそう告げると、エライザは困惑しながらも口を自らの手で塞いで噤んだ。その様子に首を傾げつつ、シーバスは再び前を向く。
「さぁ、もう目的地に着くぞ」
シーバスはそう言って、前方を指差した。自然と皆の視線が街の奥に向かい、目的の建物が目に入る。