軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

驚異の魔術師

「……え?」

ピーアが間の抜けた声を出し、ブレストやシーバスが目を瞬かせる。一瞬、室内に沈黙が広がったが、すぐに警護隊の方から困惑の声が聞こえてきた。

「……な、なんだ? 何が起きている?」

「に、人間じゃなくて、伝説に出てくる魔王か何かじゃないのか……」

誰かが失礼な感想を述べたので、一瞥して黙らせておく。

「ば、馬鹿な……こんな魔術、聞いたこともない……」

ブレストが小さくそう呟いたのだが、静かな室内ではよく響いた。それを見下ろして、グレンが浅く頷いて口を開く。

「……これが、フィディック学院の上級教員の実力じゃ。さて、本当にアオイ君が頭を下げて魔術を教えてくださいとお願いをする立場なのじゃろうか……むしろ、山の中から出てこず、他の国がどれだけ進歩しているかも知らずに過ごしているエルフ達こそ、アオイ君に頭を下げて魔術を教えてもらうべきなのではないかね?」

グレンはそう言って、仰々しく首を左右に振った。どうもピーア達が驚愕していることで調子に乗っているようだが、目的を間違えてはいけない。

今日は、エルフの自尊心を傷つける為に訪れたわけではないのだ。

「学長、そんな冗談を言っている状況ではありません。今日は、ブレスト君の生活態度や過度な選民思想についてお話をする為に家庭訪問をしているのですから」

そう言うと、グレンはハッとした顔になって身を小さくした。

「……面目ない限りじゃ。調子に乗ってしまった。ハーフエルフや人間を馬鹿にするからじゃぞ、バーカなどと思ってしもうた……わしは学長失格じゃ……」

エルフの国に来て情緒不安定になってしまったのか、グレンはぶつぶつ言いながら背を丸める。その様子を横目に見つつ、私はピーアの方に向き直った。

ビクリと、ピーアが身を固くする。

「これで、話は聞いてもらえますか? それとも、もう少し魔術を見せる必要がありますか?」

確認すると、ピーアは何か言おうと口を開くが、すぐに閉じた。やがて、悔しそうに視線を逸らしながら答える。

「……話だけでも聞いてあげましょう」

「ありがとうございます」

不承不承ながら了承してもらい、謝辞を述べる。本題に入る前にブレストの様子を確認すると、苛立ったような顔でこちらを睨んでいた。

「……それでは、学院で起きたことを簡単に説明します」

そう前置きして、私はソラレが受けた虐めと、それを主導した人物の一人がブレストであることを伝える。また、グレンが差別していたのではなく、ブレストがエルフ以外を下に見ていたが故に講義をまともに受けることなく、結果としてソラレに成績で負けてしまったのだとやんわり伝えた。

その話をピーアは黙って聞き、不満そうに口を開く。

「……話は分かりました。しかし、それはそちらのハーフエルフの意見でしょう? ブレストがそんなことをしたという証拠にはなりません」

はっきりと、ピーアがブレストを庇う。我が子を信じるというのは親として正しい感情だろう。愛情が深いことは良いことなのだが、時には過ちを認めて叱るということも必要になると思う。

「ピーアさん。目撃者は多いですし、多くの証言もあります。ブレスト君がハーフエルフやエルフの血が入っているといった趣旨で虐めを行ったことは間違いありません」

そう告げると、ピーアはムッとして口を開いた。

「エルフの血が薄いことは事実でしょう? 馬鹿にしたわけではなく、事実を指摘しただけでは?」

と、ピーアが開き直ってしまう。それに頷いてから、自分の意見を伝えてみることにした。

「エルフの血が薄いことは問題ではないですし、それを下に見ることもあってはならないと思います。逆に、人間がエルフを相手に差別をしたらどう思われますか? エルフよりも人間の血が入っているハーフエルフが優れていると扱った場合、エルフだからと苛めを受けることになるでしょう。ソラレ君が受けたように、ブレスト君が指を差して笑われて、石を投げられる。それが常識だと言われたら、従いますか?」

譬え話をしてソラレの立場を理解してもらおうとしたが、ピーアは顔を真っ赤にして怒り狂ってしまった。

「ふ、ふざけたことを言わないでちょうだい! なんで、エルフの方が劣っているなんて話に……」

「もし、魔術の知識や技術をもとに優劣をつけるというならば、その可能性は十分にあります。申し訳ありませんが、この部屋の中でグレン学長と私に魔術で勝てる人はあまりいないのではないでしょうか?」

反論すると、ピーアはすぐに言い返すことが出来ずに押し黙る。代わりに、ブレストが口を開いた。

「ち、父上ならばお前らなんか相手にならない! 大体、グレン学長は人間の世界で最高の魔術師なんて呼ばれているんだから、エルフの中で最高の魔術師が相手をするのが筋だろう!?」

ブレストが必死に言い返してきたが、それは私の望む展開である。エルフの国で最高の魔術師に会えるというならば、違う意味で本望なのだ。

「それは誰でしょう? 是非とも会ってみたいのですが」

前のめりになってそう告げると、ブレストはウッと息を呑んで後退った。

そこへ、シーバスが片手を挙げて口を挟む。

「……もし、最高の魔術師は誰かと問われたら、エルフの国では皆が王の名を答えるだろう。エルフの王、リベット・ファウンダーズ・トラヴェル陛下の名を」

「エルフの王……では、そのリベット陛下にお会いしてみましょう。流石にすぐに会えないでしょうから、後日謁見の約束を取り付けてから、となりますでしょうか」

シーバスにそう答えると、ピーア達も警護隊の面々も目を丸く見開いて固まった。気軽に王に会うという発言は、やはり常識外れだっただろうか。最近、様々な国の王族や重鎮に会っている為、感覚が麻痺してしまっている。

内心で反省していると、シーバスは肩を揺すって笑った。

「面白い人だ。私が会ったことのある人間は、もう少し気が弱かったと思うが……陛下は好奇心が強い方だから、予定が埋まってなければ比較的早く会うことが出来るだろう。恐らく、数日中に会えるようになると思う。近衛魔術師団に人間の国で最高の魔術師が来ており、陛下に挨拶をしたいとだけ伝えておこうか」

「助かります。ただ、明日は別の国に行かなくてはなりません。五日後にはまた戻ってきますから、その時にどうなったか聞かせてもらってもよろしいですか?」

そう告げると、シーバスは首を傾げる。

「……明日、別の国へ行く? コート・ハイランド連邦国の国境付近の町でも、片道一週間はかかるだろう。どうやって行くつもりだ?」

と、当然のように疑問を呈してくる。それに私が答える前に、グレンが鷹揚に頷いて答えた。

「それが当たり前の反応じゃな。しかし、驚くべきことに、アオイ君の飛翔魔術は世界屈指の速度と飛翔時間を誇っておる。わしも吃驚したのじゃが、ヴァーテッド王国からこの国まで一日も掛からんかった。なんなら半日かかっておらん。とんでもない話じゃぞ、これは」

グレンがそう答えると、今度こそ皆の時間が止まってしまったのだった。