作品タイトル不明
コートハイランドにも顔を出そう
エルフの国で認められるには、エルフの王に魔術で認められる必要がある。ピーアの発言からそれが最も早いやり方だと判断した私は、そこまで話をしてエルフの国から出ることにした。
「それでは、また参ります。あ、五日後には戻って参りますので、次は是非ご両親揃った状態でお話をさせてもらえたらと思います。よろしいですね?」
そう尋ねると、ピーアとブレストは不満そうに頷く。
「……その時には、自分がどれだけ思い上がっていたか理解させられるでしょう」
「父上に会えば、陛下に会うなんてとんでもないことを言ったと思い知ることになるぞ」
ピーアとブレストは親子らしく似たようなことを言ってきた。それに微笑み、頷く。
「楽しみにしております」
二人に返事をしてから、シーバスに顔を向ける。
「本日はありがとうございました。本当なら一泊して移動しようかと思っていましたが、日が暮れきるまで少し時間がありますし、少し早いですが出発をいたします」
早く用事を済ませて、出来るだけエルフの国に長居をしたい。そう思っての行動である。急な計画変更だったが、グレンは「なんでも良いぞい」と承諾してくれた。
「……本当に飛翔魔術を使えるのか? どう考えても無謀な……」
「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です。飛翔魔術は良く使っているので……このように」
心配するシーバスに苦笑を返して、飛翔魔術を実際に使って見せる。ふわりと馬車が浮かび、グレンが窓から顔を出して周りを見る。
「うむ! 風が見事に馬車を包んでおるの! なるほど、なるほど……!」
私が教えた飛翔魔術の仕組みを思い出しながら、グレンが興奮気味に魔力の流れや風の動きを確認した。
「それでは、今度こそ失礼いたします。また、五日後にお会いしましょう」
そう言って空中で頭を下げると、ポットだけが唯一礼を返していた。他のエルフ達は皆茫然と私たちのことを見ている。
皆に軽く手を振って、高度を上げる。木々が高い為、かなり高度を上げる必要がありそうだ。
空は快晴。風も少なく、気持ちが良い。
次はコート・ハイランドに家庭訪問に行き、一旦フィディック学院に戻ってソラレと課外授業を行わなければならない。
まだまだ解決することは多く、どうなるか先々不安ではあるが、何とか解決の糸口は見えた。
「さぁ、行きますよ」
顔を上げて、私は自らを奮い立たせるようにそう言うと、一気に飛行速度を上げて大空を飛んでいく。
コート・ハイランド連邦国に寄ってみると、こちらは反対にフィディック学院からグレン学長が来訪したと大騒ぎになった。
エルフの国とは違い、素直に他国の重鎮がアポ無し訪問したという驚きで騒いでいるような状態だ。少し派手なマントと鎧の騎士に案内されて大きな建物に通された。そこで、瞬く間に大勢の人に囲まれてしまう。
「こ、これはグレン侯爵! お久しぶりです!」
「お、おお。これはこれは……久方ぶりですな。いや、この度は突然来てしまい申し訳ない。新任のアオイ先生が是非コート・ハイランドに行きたいと言うもので……」
髭を生やした太った中年の男と挨拶を交わすグレン。どうも相手の男性のことを忘れてそうだが、何とか話題を変えて誤魔化している。
だが、そのせいで男の目はこちらに向いてしまった。
「おお! 貴女が噂のアオイ殿でしたか! 噂通りとてもお若いようですが、グレン殿にも迫る実力を持つ魔術師であるとか……なんとも恐ろしいまでの才能ですな! もし良かったら、今晩は我が屋敷でお食事でもいかがでしょうか? ささやかながら晩餐会を準備いたしますぞ!」
男がそう言うと、すぐ後ろから背が高い中年の女が口を出してくる。
「ちょっと! なんで貴方の家でするのよ!? どさくさに紛れてセコいじゃない!」
「そうだ! 今回は準備もしていないのだから、貴賓室を使って歓迎すべきだろう!? それぞれ代表議員が中心となって……」
「いや、まずは方針を決める為に会議を行わねば……このままでは意見などまとまりようがないではないか!」
と、あっという間に場は討論会さながらといった様相になってしまった。それを驚いて眺めていると、グレンが苦笑しながら顔を寄せて口を開く。
「……コート・ハイランドは小国が集まって出来た大国での。小さな国の王族や大貴族が議員となり、話し合いをして国を運営しておる。そんな体質だから、なんでも決断をするのが遅くなるのじゃ。商売は上手なんじゃがのう」
そう言われて、成程と頷く。
「王政を敷く国よりも動きが遅い……その代わり、暴君や暗君が生まれる可能性は低い、というところですね。各議員が競い合って商売をしているなら、経済的には今後も成長していきやすいでしょう」
グレンの言葉に自分なりの感想を述べた。すると、グレンは目を瞬かせて私の顔を注視するように見た。
そこへ、騒いでいた男女の一人が振り向く。最初に話しかけてきた髭の男だ。
「いや、お待たせして申し訳ない。それで、そういえばまだ来訪されたご用件を聞いておらなかったと思いまして……」
「ああ、それが……」
男の質問に、グレンが眉をハの字にして困ったような顔を作り、こちらをちらりと見た。苛めっ子を訪ねてきたとは言い辛いのだろう。仕方なく、私が答えることにした。
「この街に、ダーフ・タウンという方がいると聞いてきました。フィディック学院の卒業生なのですが」
そう告げると、男は目を瞬かせる。
「タウン家の嫡男ですか。それは、そこにその母親がおりますから……」
男がそう言って男女を振り返ると、先ほどの背の高い女が眉根を寄せて顔を上げた。
「……い、イジメ、ですか?」
タウン家の婦人、レイン・タウンは表情を引き攣らせて言葉を反芻した。
別室に移動して、グレンと私、レインの三人だけで話をさせてもらっているのだが、レインは周囲を見回すように確認して、もう一度口を開く。
「そ、その……何かの間違いではありませんか? まさか、グレン学長のお孫さんを……」
不安そうに聞き返すレインに、グレンは何とも言えない表情で顎を引いた。
レインの視線がこちらに向く。それを真っすぐに見返して、静かに口を開いた。
「私が見たわけではありません。しかし、ソラレ君本人の証言だけでなく、様々な生徒や教員の証言があります。間違いである可能性は低いでしょう」
そう告げると、レインは頭を抱えるようにして項垂れた。
「そんな……その、今はもうダーフは、当主候補として議員の見習いをしておりまして……と、当人には謝らせますから、出来ることなら……」
激しく狼狽した様子のレインが、テーブルに頭を押し付けるような恰好でそんなことを口にする。言い訳でも謝罪でもなく、息子の保身を願う内容だ。
しかし、それは母親としての気持ちとして当然なのかもしれない。そう思い、私はレインに頷いて答える。
「はい。なにも公にして罪を問おうなどとは思っておりません。グレン学長は此処に来るという選択肢も考えておりませんでした。ただ、私がこのままではいけないと思って独断で訪ねさせてもらったのです」
「ほ、本当ですか……? そ、それでしたらすぐにでもダーフを呼んで参りますので……」
レインは途端にホッとしたような表情を浮かべ、すぐに部屋を出ていった。それを見送り、自然とグレンの顔を見る。同じタイミングで、グレンもこちらに顔を向けた。
「……タウン家は名門でな。代表議員を輩出している家なだけに、醜聞は大きな問題となるじゃろう。それこそ、次の議員としての立場や発言力が弱まるほどに影響を受けるはずじゃ。ただ、他国でいうところの上級貴族の嫡男として育ったダーフ君は、子供ながらに少々増長し過ぎておった。その彼が、少しでも他者を思いやる心を育てておってくれたら、何も言うことはないのじゃが……」
グレンは複雑な表情でそう語る。しかし、内容は優しさに溢れているというよりも、甘過ぎると言った方が良いだろう。日本でも陰湿なイジメをしていた生徒は多くいた。そして、そういった生徒の親を呼んで面談をしたところで、上手く更生するかは半々といったところだった。中には進んで退学を申し出る生徒もいた。虐められる方が悪いと言う保護者もいたのだ。虐められた子供は、もしかしたら人生が変わってしまうかもしれないというのに。
「グレン学長。きちんと心から反省をするということが大切です。それがダーフ君の口から聞けたなら、それで良しとしましょう」
「……聞けなかったらどうなるんじゃろう」
「聞けなかったら……」
「い、いや、言わなくて良いぞい」
グレンとそんな会話をしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。