軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人間の魔術師

私の言葉に嘲笑うようにしてこちらを見るブレストとピーア。さて、どんな魔術を使えば、人間もやるものだと思ってもらえるのか。私の肩に、人間達の威信が掛かっている。

そんなことを考えていると、警護隊隊長のエルフがそっとこちらに歩み寄って来た。確か、名はシーバスといっていた気がする。

「アオイ殿……悪いことは言わん。発言を撤回せよ。エルフの貴族というのは伊達ではない。特に、エルフの祖に近い、長い歴史を持つ家は押並べて魔術の技術が高い傾向にある。ステイル家はその中でも特に古い一族だ。言いたいこともあるだろうが、逆らうことはしない方が良い」

と、シーバスは固い声で言った。どうやら、私やグレンのことを案じているらしい。こちらの常識にあった反応をするエルフを見ることが出来て、少し安心した。

しかし、その言葉に甘えて己の意思を曲げるわけにもいかない。ソラレに対して謝罪する気持ちだけでも持ってもらいたいからだ。

「ありがとうございます。しかし、教員として私も引くことが出来ません。まずは、エルフが特別であるという認識を変えてもらおうと思います」

そう告げると、シーバスは眉根を寄せた。エルフの自尊心を傷つけてしまっただろうか。いや、彼はそういうタイプではなさそうだ。

そんなことを思っていると、ピーアが溜め息を吐いて片手を挙げた。

「エルフの魔術は他の種族には扱えないと聞きますが、どうですか?」

ピーアは迫力のある笑みを浮かべてそう呟き、詠唱を始めた。精霊の力を借りるといった内容の詠唱で、何をしようとしているのか判断が難しい。詠唱というよりも、祈りに近いものなのかもしれない。

興味深く眺めていると、詠唱を終えたピーアが嘲るように口を開いた。

「己の身を守る魔術も使えないのですか? それとも、私が魔術を発動させるわけがないと思って余裕をみせている、と? どちらにしても、愚かな限りです」

そう言って、不思議な言語で魔術名を唱える。ピーアが魔術を発動させると同時に、室内にいた警護隊が私やグレンの前に水の壁を発動させた。薄い膜のような水の壁だが、性質が変化しているのか、少し不思議な水膜となっている。対して、ピーアの前には青い炎がふわりと浮かんでいた。

「奥方様。いくら何でも来客を突然攻撃するのは問題ではないでしょうか。寛大な態度こそ、ステイル家の名声をより高めてくれるものと思います」

シーバスが相手の自尊心を刺激しないように配慮しつつ、魔術の行使を止めるように促す。しかし、それに対してブレストが嗜虐的な笑みを浮かべた。

「いいや、無礼者を裁いてこそステイル家の面子が保てるというものだろうさ」

ブレストがそう告げると、ピーアは頷く。

「その通りです。さぁ、この魔術をどう受けるのか、見せてください」

勝ち誇ったようにそう言うと、ピーアは発動した魔術をこちらに向けて動かした。炎が近づくだけで、警護隊の発動させた魔術をじわじわと侵食してしまう。緩やかながら、確実に水の膜が削られていっているようだ。

それに、シーバスが焦ったように口を開く。

「今すぐ魔術を止めてください! これ以上は冗談では済まない!」

最終警告ともとれる言葉。さり気なく周囲を確認すると、警護隊の何人かがブレストとピーアに対して魔術を発動できるように準備していた。

これは流石にまずい。

「 凍れる刻(アイスタイム) 」

素早く魔術を発動して、青い炎も水の膜も凍りつかせて粉々に砕いた。

「……よし、これで問題ありませんね」

決定的な衝突となる前に防ぐことが出来た。そう思ってホッと一息吐く。すると、ピーアとブレスト、更に警護隊の面々が驚愕の目をこちらに向けた。

「い、今のは貴女が?」

「そんな馬鹿な!」

ピーアとブレストが驚きの声を発する。

「……まさか、無詠唱?」

「あれだけの魔術をいつの間に……」

シーバスを代表として警護隊の隊員も口々に茫然と呟いた。それを見て、グレンが顎髭を撫でながら口を開く。

「……申し訳ないが、アオイ君はフィディック学院でも最高クラスの上級教員じゃ。君らでは勝てんぞい」

何故か、グレンが得意げにそう告げた。

「……挑発している風になっていませんか?」

心配になって確認するが、グレンは聞いていない。ドヤ顔でピーアを見下ろしているところを見ると、黙って聞いているように感じたがやはり腹を立てていたのだろう。

気持ちは分かるが、ピーアとブレストが黙っている筈が無い。

「さては、氷を操るエルフの秘宝を持っているのですね? そうでなければ、人間があんな魔術を使えるはずがありません」

「そ、そういうことか! 流石は母上!」

ピーアの推測にブレストが三下のような態度で納得した。意外と面白い親子なのかもしれない。少しステイル家の評価を改めつつ、二人の会話に口を挟む。

「エルフの秘宝とは、魔道具のことですか? 私も研究して作っています。その魔術具を見せたら、魔術の知識があることが分かりますか?」

エルフに認めてもらう良い糸口になるかもしれない。そう思って提案したのだが、ピーアは顔を顰めてしまった。

「エルフの秘宝を、人間の魔術師が作る程度の魔術具と同じと思わないでいただきたいですね。それでは、氷の魔術で防ぐのが難しい土の魔術はいかがですか?」

不敵に笑い、ピーアが新たに詠唱を始める。それに気が付き、今度こそとシーバスが片手を前に出して口を開いた。

「奥方様! これ以上はお止めください! それこそ捕縛の対象となる可能性も……っ!」

頼むから、これ以上問題を起こさないでくれ。シーバスの声にそんな必死さが感じられた。やはり、同じ国の貴族ということでかなり気を遣っているのだろう。流石にシーバスが可哀想になってきた。

「大丈夫ですよ。我々は魔術を使われたことを問題にはしません。大事にはしないつもりですから、皆さんは安心して見ていてください」

そう言うと、シーバスは信じられないようなものを見る目でこちらを見る。

「も、問題にしないもなにも、室内であんな魔術を使えば必ず大事に……」

困惑するシーバスと、こちらの言葉は無視して魔術の詠唱を開始する警護隊の隊員達。警護隊はまともな対応をしているのだから、それを咎めることはない。

そうこうしている内に、ピーアが詠唱を終えて魔術を行使する。また特殊な言語で魔術名を口にした。

「後悔しても遅いですよ」

冷たい声で、ピーアがそう言った。直後、ピーアの周囲にボウリングの球ほどの大きさの丸い岩が現れる。空中に浮かぶ岩は分裂でもしたかのようにどんどん増えていき、最終的には二十個以上にもなった。

あれが音速で飛んでくるとかならば、かなりの脅威である。鉄球を飛ばすタイプの大砲と同等の威力となるだろう。

脅威と判断したからこそ、素早く対処する。

「…… 砂塵切削(サンドブラスト) 」

魔術名を口にした瞬間、高密度の砂嵐が壁となって私とピーアの間にあるすべての物を削りとった。ピーアが飛ばそうとした岩だけでなく、家具や壁と床の一部も削られて消失した。

その間、僅か一秒にも満たない。瞬きをしている間に、目の前に真っ黒な壁が現れ、壁があった場所は激しい轟音と共に消えてしまったのだ。

どんな魔術か知っている者にしか、何が起きたのかも分からないだろう。

その証拠に、ピーア達だけでなく、遠目から見ていた警護隊の面々も目を丸くして固まっていた。