作品タイトル不明
アオイの我慢
目の前で、ブレストがグレンを責め始めた。それは突然のことであり、室内の全員が口を挟めずに二人のやり取りを耳にしていた。
問題児への家庭訪問となってしまう為、出来るだけ関係者のみで話を切り出そうと思っていたのだが、どうもそれどころではなくなってきた。
どうやら、自ら退学していったブレスト達はグレンに不満を持って辞めていったらしい。イジメの原因は、馬鹿にしていたソラレが自分たちよりも優れていることかと思っていたのだが、そうではなかったのか。
「……わ、わしは、そんなつもりでは……」
「どこが? 学長自ら一人だけ教えておいて、贔屓じゃないとでも?」
ブレストがそう告げると、ついにグレンは肩を落としたまま動かなくなった。恐らく、グレンにそんなつもりはなかったのだろうが、確かに他の生徒がどう思うかはそれぞれの受け取り方次第である。
とはいえ、それが理由だったとしてもソラレを虐めて良いわけではない。そう思って、私は口を開いた。
「ブレスト君。学長の件は別として、今回来たのは別の理由です」
「いや、こっちの話が終わってないのに、なんで違う話をするんですか」
と、ブレストは話題の変更を認めなかった。仕方が無い。納得するまで話をするしかないようだ。
「それでは先に学長の件について話をさせていただきます。グレン学長は、ソラレ君が魔術を教えて欲しいと言ったから、魔術を教えていただけです。そうですよね?」
「う、うむ。ソラレは魔術を学びたいという欲求が強かったからの。講義を受けるだけでは足りなかったようじゃ」
確認すると、グレンが頷いて同意した。それにブレストは鼻を鳴らす。
「それが贔屓でしょう。堂々と自分の孫以外を差別していたと言っているだけですよね」
その言葉に、グレンは見る影もなく落ち込む。その姿を見て、少し腹立たしい気持ちになった。
「ちょっとお待ちください。どの教員もそうですが、魔術を教えてほしいと言えば皆平等に魔術を教えます。貴方は、グレン学長に魔術を教えてほしいとお願いしましたか?」
そう確認すると、ブレストは不機嫌そうに溜め息を吐く。
「俺がハーフエルフなんかに魔術を習ったりするものか。むしろ、わざわざエルフの俺が学院にいるんだから、どんな魔術を教えているか披露するのが筋じゃないか」
ブレストがそう言い放ち、盗み聞きしていたであろう警護隊の何名かが騒めいた。流石に、とんでもない意見だったのだろう。しかし、母親であるピーアは当たり前のように頷く。
「当然です。実家に多大な迷惑を掛けて国まで捨てておいて、アクア・ヴィーテの貴族の子を冷遇するなど言語道断。半分とはいえ、その身に流れるエルフの血に恥ずかしいとは思いませんか」
と、無茶苦茶な理論を振りかざす。それには流石にグレンも閉口してしまった。
「……お母さん。もし、貴女がハーフエルフに生まれていたとしたら、そのように言われたらどう思うでしょうか。生まれる場所も種族も選ぶことは出来ないのだから、そのことを理由に見下したりしてはダメだと思います。それこそ、ブレスト君とピーアさんがグレン学長を差別していると受け取られることでしょう」
諭すようにそう告げたのだが、二人は目を吊り上げてこちらを睨んできた。
「……随分と品の無い方ですね。きちんとした教養を身につけていれば、エルフの貴族とハーフエルフの身分の違いを考慮して状況を把握できるというものでしょう? 生まれが何たらと意味の分からないことを言っても、私はエルフでグレンさんはハーフエルフ。貴女にいたってはただの人間でしょう? 差別ではなく、区別と思うのだけれど?」
勝ち誇ったようにピーアがそう告げると、ブレストが声を出して笑う。
「はっはっは! 母上の言う通りだ! 俺の父上はエルフの国でも有数の魔術師だぞ? お前らなんか相手にもならないからな。むしろ、頭を下げて魔術を習うべきじゃないか?」
ブレストは高笑いをしながらそんなことを言った。その台詞から、どうもエルフが特別な存在であるという感覚が強いように思う。確かに、美しく長寿であり、魔術師としての素養に優れる人が多い。
だが、それでも他の種族を馬鹿にしてよいわけではない。
そう思って、私は二人を順番に見る。
「エルフよりも優れた人間やドワーフ、獣人もいるはずです。何故、エルフが最も優れていると決めつけるのですか?」
そう尋ねると、二人は呆気にとられたような顔になり、すぐに笑いだした。
「人間は初めて見ましたが、これほど愚かなのですか」
「お前じゃそこの警護隊の人達にも勝てないぞ」
そう言って、大きな声で笑う。
「……警護隊の皆さんも、同じ考えでしょうか?」
気になってそう尋ねたが、警護隊の面々は顔を見合わせて困ったような表情をしている。答えはしないが、ブレスト達がエルフの一般常識というわけではなさそうだ。
「……それでは、僭越ながら私が人間の魔術師もそれなりの知識を持っているということをお教えいたしましょう」