作品タイトル不明
【別視点】グレンの困惑
【グレン】
なんとか屋敷の中へ入れてもらうことが出来て、ホッと胸を撫で下す。断られ続けたらアオイが怒りに任せてブレストを引きずり出す恐れがあると思い、内心では戦々恐々としていた。
だが、今のところは予想以上に平和的に話が進んでいる。何とか、このままブレストに過ちを認めさせて、素直に反省の態度が見られたら……。
「……絶対無理じゃな。もう終わりじゃ」
ブレストとアオイの性格を考えて、早々に諦めの境地に達した。
ただでさえエルフの国に来ると居心地が悪いというのに、元老院の議員と揉めることになりそうである。しかも、アオイの言い分である加害者の矯正はとても良いことだと思う為、無理に止めることも出来ない。
つくづく、学院の長としても、エルフとしても、自分は中途半端なのだと実感させられる。
きたる未来を想像して葛藤している内に、大きな広間に通された。三十人はゆっくり食事をすることが出来そうな部屋である。エルフの伝統的な織物が壁に掛けられており、家具も一つ一つが良い木を使っていそうだった。
その部屋で、ポットからそれぞれ席を勧められる。中心の席に私とアオイ。その対面にステイル家の奥方が座った。そして、部屋の端から順番に警護隊の面々が座っていく。
「ブレスト様をお連れします。少々お待ちください」
そう言ってポットが退室すると、それを合図にしたかのように二人のエルフが飲み物を持って入って来た。輪切りにしたフルーツを入れた水のようだ。
懐かしい。
そんなことを思いながら、飲み物を受け取った。エルフの国では一般的な飲み物である。乾燥させた果物を使ったお茶と合わせて良く飲まれる飲み物だ。
素朴ながら深い味わいを感じさせる果実水に満足していると、奥方とアオイが改めて挨拶をした。
「それでは、改めてご挨拶を……私はピーア・ステイルと申します。この度は、息子の為にわざわざ遠方よりありがとうございます」
「こちらこそ、急な訪問でも快く対応していただき、誠にありがとうございます」
お互いが微笑みを浮かべて挨拶をしている。空気が緩みそうなものなのだが、何故か既に緊張感が漂っている気がする。いや、気のせいの筈だ。そうに違いない。
自分の中に芽生える嫌な予感を押し殺しながら、二人の微笑みを順番に眺める。
そうこうしていると、ポットがエルフの少年を連れて戻って来た。見た目は十五、六歳に見えるエルフの少年、ブレストである。ブレストは私の顔を見て露骨に顔を顰めた。そして、アオイを見て眉根を寄せる。
「……学長? それと……」
ブレストは警戒心も露わに、部屋の中へ入って来た。ポットに着席を促されて、無言で座る。
「初めまして。私はフィディック学院の教員で、アオイ・コーノミナトと申します」
アオイが挨拶をすると、ブレストは鷹揚に頷いた。
「……今更、学院の教員がなんの用で?」
面倒臭そうに、ブレストが聞き返してくる。その様子を見て自分の方がハラハラしてしまう。何故、皆アオイを刺激するような態度を取るのだろうか。
せっかく懐かしい味を楽しんでいたのに、まったく落ち着かない。
アオイはブレストの態度を咎めることなく、ピーアに目を向けて口を開く。
「話の内容はブレスト君の学院での生活についてです。少し内容的に無関係な方に聞かせるものではないと思います。警護隊の方々に一時的に離席してもらえませんか?」
アオイがそう告げると、ブレストが首を左右に振った。
「……学長はエルフへ差別意識を持っている人なんで、警護隊は残ってください」
「え? わしが差別じゃと?」
ブレストの発言に、思わず驚いて声を出してしまう。何故、そんな話になっているのか。
疑問に思っていると、ブレストはこちらを見て、腹立たしそうに口を開いた。
「知らないとでも思っていたんですか。学長の力を使って、我々が魔術を学ぶことを邪魔していたでしょう?」
「な、何故、そんなことを……わしがそんなことをしてどうなるというのじゃ」
混乱しながらブレストに聞き返す。それに、ブレストは馬鹿にしたように鼻を鳴らして笑った。
「はは……皆知ってますよ。学長が自分の孫にだけ魔術を教えていることを。講義でも差をつけてたんでしょ? そうでもなければ、出来損ないのソラレに俺たちが負けるはずが無いんだから」
そう言ってブレストはこちらを睨んできた。
ブレストのその言葉を聞いて、まるで心臓を突き刺されたかのような衝撃を受ける。
まさか、わしがソラレに魔術を教えていたことが、イジメの原因となっていたのだろうか。ソラレが喜ぶと思って行っていたことが、他の生徒達からは差別と受け取られてしまっていたのだろうか。
ソラレの学院生活を暗いものとしてしまったのは、まさか……。
頭の中で、様々な過去の記憶が蘇る。どうして良いかもわからず、ぐるぐると考えがまとまらない状態で動けなくなっていると、ブレストが息を吐くように笑った。
「……ほらな。俺が正しいから、何も言えなくなったんだ」