作品タイトル不明
ソラレの味方
「……ソラレ君、ですか?」
挨拶をしてすぐにソラレについて尋ねると、女性は警戒したような表情でこちらを見た。しかし、私の後方にグレンがいることを発見して、表情を和らげる。
「……噂はかねがね聞き及んでおります。アオイ先生。グレン学長に頼まれたのですか?」
「いえ、私がグレン学長にお願いしてソラレ君に会わせてほしいと頼み込みました」
まっすぐに女性の目を見てそう答えると、笑い声が返ってきた。
「ふふ……聞いていた通り、真っすぐな先生ですね。私もこのままではいけないと思っていましたから、協力させていただきます。何か聞きたいことがあるのでしょう?」
「はい。あと、お恥ずかしながら、お料理もいただけたら……」
「あっははは! 分かりました。すぐにお持ちしますよ」
そんなやり取りをして、女性は注文を聞いてから厨房へと戻っていった。
暫くして、グレンとシェンリーと共に席を同じくしていると、女性が配膳台を押しながら帰ってきた。
「はい、こちらですね」
料理を並べていく女性に、皆で頭を下げる。
「ありがとうございます」
「すまんの」
「あ、私まで……ありがとうございます」
三人の前に料理を並べると、女性は空いている席へと腰かけた。出来立ての美味しそうな料理が並び、空腹もあって自然と手が伸びる。スープは優しい味付けで、ホッとするような感覚になった。
「美味しいですね」
シェンリーもスープと飲み物だけ頼んでいた為、私と一緒にスープを飲んで顔を綻ばせている。
その様子をニコニコと微笑みながら眺めて、女性はこちらに顔を向けた。
「それで、ソラレ君についてですよね?」
そう尋ねられて、すぐに同意する。
「はい。ソラレ君とはどんな会話をされていますか?」
質問すると、女性は考えるような素振りを見せた。
「……大体は料理についてですね。好みの味を尋ねたり、何が食べたいか聞いてみたり……ただ、脂の多いお肉と特定の果物以外は何でも食べる子なので、いつも残さず食べて美味しかったと言ってくれていますよ」
と、笑顔で報告を受ける。どうやら良好な関係を築けているようだ。それだけでも、ソラレにとっては貴重な味方と言える存在である。
「……ソラレ君が講義を受けない理由は分かりますか?」
「それは、聞いたことがないんです。もしかしたら、ソラレ君が傷ついてしまうかもしれないと思って……」
不安そうにそう言われて、思わず自分の行動を反省する。やはり、あまりにも直接的に言い過ぎただろうか。
「ソラレ君とは毎日会話していますか?」
「挨拶くらいの時もありますが、よく会話はしていますよ」
「今日の夕方は何時ごろに部屋へ?」
「夕食は午後五時くらいですね」
そんなやり取りをして、女性とは一旦別れた。私たちの会話を静かに聞いていたグレンは、感慨深そうに深く頷く。
「……彼女の働きは素晴らしいものがあったのじゃな。いつも料理を届けてくれてありがとうとしか伝えていなかったが、今後はまた別のことでも話をさせていただこう」
感動したようにそう口にしたグレンに頷き、シェンリーを見る。
「そうですね。やはり、誰を信用して良いか分からない時に、心許せる人がいるのは有難いことだと思います。そういった味方になれる生徒の友達が出来たら、講義にも参加できるのではないでしょうか」
そう口にすると、シェンリーが小さく何度も頷いた。
「そうですね。私も友達が増えると学院生活が楽しくなりました。それまでは、どこに居たら良いのかも分からないぐらい学院に居場所が無いと感じていましたし……」
不安で仕方が無かったと語るシェンリーに、グレンは悲しそうに眼を細める。
「悲しいことじゃ……フィディック学院は地位や人種の差別がない学院にしたいと思ってきたのじゃが、中々それらを排除することは出来なかった。わしの意思が弱いことが一番の原因じゃが、教員や生徒達の意識を変えることも困難じゃった……」
悔恨の声で嘆くグレンと、沈んだ様子をみせるシェンリー。
「……悔やんでも仕方ありません。まずは、その貴族や血筋といった選民思想の被害者であるソラレ君の救済をしなくてはなりません。先ほどの話であった通り、ソラレ君に我々が味方であると認識してもらい、その味方を増やしていくことが大切だと思います」
気持ちを切り替えるべく自分の考えを述べると、二人は深く頷いてくれた。
「私も、出来るだけ力になりたいです!」
シェンリーが力強く協力を申し出て、グレンは感動したように目を潤ませる。
「ありがとう、シェンリー君」
二人のそんな会話を聞きつつ、どうやってソラレの味方を増やすか頭を働かせる。
やはり、私の講義に出てもらうのが一番なのだが、その話を中々聞いてもらえそうにない。そこをどうにかしなくてはならないだろう。