軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二回目の訪問

配膳台を運ぶ女性の後に続き、私とグレン、シェンリーの三人が通路を歩く。

「不思議と誰にも会いませんね」

「三時から五時は上級教員の講義がよくありますし、終業の前にこんなに学院の奥まで来る生徒もあまりいませんから」

「なるほど。確かに皆さん講義が終わったら学院の外か寮へ向かいますよね」

そんな会話をしつつ、我々は再度ソラレの居る部屋の前に立った。女性は自然な動作で扉をノックして、口を開く。

「こんばんは。夕食を持ってきましたよ」

そう声を掛けると、暫くして扉が内側から開かれる。

「あ、ありがとう……っ!?」

扉の隙間からソラレが顔を出して、俯きがちにお礼を述べた。そして、すぐに私のことに気が付き目を丸くする。

「ソラレさん、もう一度お話をさせてもらいにきました」

そう告げると、ソラレは素早く扉を閉める。

「こ、こら、ソラレ」

グレンが戸惑いながら扉の向こうにいるソラレに注意するが、返答はない。仕方なく、私は魔術を使うことにした。

「 解錠(オープン) 」

魔術を行使するとともに、片手で扉を開く。ソラレが扉の向こうで抵抗しているようだが、密かに身体強化をした私には無抵抗と同様である。

扉はあっさりと開放された。

「ひ……っ!?」

扉にしがみつく恰好で息を呑むソラレを眺めて、柔らかく微笑む。

「もう一度、お話をしましょう」

お願いをするようにそう提案すると、ソラレは涙目になりながら肩を震わせた。

「な、なんで……?」

怯えた様子を見せるソラレ。何故怯えているのかは分からないが、安心させるべく一歩前に出て頷く。

「安心してください。学院生活が楽しくなるように頑張ります。信じてください」

簡単には信じられないかもしれないが、精一杯気持ちが伝わるように真剣な表情でそう告げた。視線も全く逸らしていない。

しかし、ソラレは再び息を呑んで部屋の奥へ後退りするように引き下がってしまった。

「……こ、怖い……」

どうやら怖がられてしまったようである。やはり、部屋の外へ出ることを極端に嫌がっているのだろう。講義を受けろという相手は敵だと感じてしまうのかもしれない。

だが、そこで退いていてはいつまで経ってもソラレは部屋を出ることが出来ない。

ここは心を鬼にして、ソラレを表に出すことに全力を注がなければならないだろう。

「怖がらなくても大丈夫です。我々は味方ですから。さぁ、お食事のついでで構いません。少しでも我々の話を聞いてもらえたらと思っています。部屋に入れていただけますか?」

そう言って再度確認を行う。すると、ソラレも観念したのか、部屋の隅で小さくなったまま顎を引いた。

「ありがとうございます」

お礼を述べて、部屋に入る。まずはスタートラインに立ったというべきか。ホッと一安心というものである。

そんなことを考えていると、部屋の外からひそひそと話す声が聞こえてきた。

「……アオイ先生はいつもあんなに真っすぐぶつかる性格なんですか?」

「……いつも一直線の真っ向勝負じゃ」

「……そうですね」

三人の会話を背中で聞きながら、ソラレを見つめる。

「あの人たちの言葉は聞かなくて大丈夫です。些か誤解をされているようなので……」

ソラレはテーブルに置かれた料理と私の顔を何度か見比べて、食事をしない方を選んだ。どうしてだろうか。ちなみに料理を運んでくれた女性はもう部屋から出ている。

「冷めてしまってはいけません。さぁ、お食事をどうぞ」

「は、はい……」

声を掛けると、ソラレは慌ててスプーンを手に取り、スープの入った皿をもう片方の手で押さえるように支える。そっと周りに座る面々を見てから、食事を始めた。

「……皆に見られながらは食べ難いですよね」

シェンリーがそう言って苦笑する。それに首肯して、ソラレが食べている間は我々だけで話をしようと思った。ちょうどソラレに聞かせたい話もある。

「シェンリーさん。もし良かったら、この学院で苦労した時の話を聞いてもよいですか?」

そう口にすると、シェンリーは目を細めて、口を閉じた。悲しそうな表情だが、何処か以前にはなかった生命力のようなものを感じる。

シェンリーは、既に過去を乗り越えている筈だ。あの頃のシェンリーとは違う。

「……分かりました。その、あまり誰かの悪口みたいな感じにはとらないでもらいたいのですが……」

そう前置きして、シェンリーが過去の出来事を語った。

飛び級して、学院生活が変わったこと。傲慢な王族や上級貴族の子らによる地位を笠に着た差別。地位も実力も上の先輩たちの魔術による攻撃。

持ち物を捨てられたり、傷付けられたりなんてことは毎日のようにあった。

そんな過去をシェンリーが涙ぐみながら語る内に、ソラレの視線が上がっていく。どうやら、同じ苦しみを味わった歳下の少女が気になってきたようだ。

同じ苦しみを味わった人になら心を許せる筈である。

辛い過去を思い出させてしまったことを思い、シェンリーに申し訳なさを感じつつ、隣りを見た。

「……改めて聞くととんでもない話じゃ……ちょっと陛下に文句を……」

何故か、グレンがシェンリーの受けたイジメを思い出して怒りに震えていた。

「いえ、その当時に王族や貴族に遠慮して動けなかったグレン学長に文句を言う資格はありません」

そう指摘すると、グレンはシュンと項垂れてしまう。

「……そうじゃな。わしが悪かったのじゃ……本当に申し訳なかった……」

自己嫌悪に身を小さくするグレン。それを見て、ソラレの目が細められた。

「やっぱり……」

ソラレは小さく何か呟き、再び口を噤んだのだった。