作品タイトル不明
ソラレの抵抗
話してみると、思ったよりも社交的な子だった。おどおどした様子は見せているが、それでも自分の意見を口に出来ているのだから全く問題ない。
本当に何も喋れないというのなら長い時間が必要だっただろうが、これだけしっかり会話が出来るならすぐにでも講義を受講することが出来る。
私は安心してソラレに微笑みを向けた。
「魔術の講義なら、是非私の講義を受講してください。そうすれば、直接魔術を教えることもできます。私の講義を受講している生徒は皆良い子達ですよ」
そう告げると、ソラレの表情が凍り付いてしまった。明らかに空気が重くなり、グレンの表情も変わる。
「……あ、アオイ先生。そ、その……僕は、講義は、受けません……」
身を固くして、はっきりと拒絶の意思を示すソラレ。その固い表情と声には断固たる意志が窺えた。
「もし、気になる生徒、苦手な人がいたら教えてください。不安なら、講義の前に私が迎えに来ます。私の講義でしたら、常に目を配ることが出来ます。安心して講義を受けることが出来るはずです」
自信をもってそう告げたのだが、ソラレは何も言わず俯いてしまう。
「……何が、そんなに嫌なのでしょう」
そう尋ねるが、ソラレは答えない。無言のままベッドに腰かけて動きを止めたままだ。すっかり心を閉ざしてしまった様子のソラレに、どう声をかければと頭を働かせる。
「……ソラレ君。一度だけでも良いのです。講義を受けてみてください。私が必ず守ってみせます」
再び説得を試みるが、ソラレは視線を合わせようとはしない。
「ソラレ、アオイ先生はとても良い先生だから、話だけでも聞いてみてくれ」
グレンが横から口を出すが、ソラレは小さく首を左右に振る。まるで警戒するハリネズミのようだ。触れないでくれと態度に出している。
どうにか、糸口だけでも見つけられないかと思い、その後も魔術や科学的知識について話をしてみたが、全く反応が無かった。
「……今日のところは帰ります。もし、学院が嫌なのでしたら、お食事に街の方へ出てみましょう。検討してみてください」
仕方なく、そう言って立ち上がる。グレンも困ったように頭に手を当てながら腰を上げた。項垂れたような格好のソラレを横目に部屋を出る。
「今日は会ってくれてありがとうございました」
そう言って、扉を閉める。グレンは何も言わず廊下で肩を落としていた。
「……珍しく饒舌に話しておったのだが、講義に出ろというのはまだ早かったのじゃろうか」
心配そうなグレンの様子を見て、口を開く。
「ソラレ君はこの部屋から一切出ないんですか? お食事は?」
尋ねると、グレンは顎に手を当てて唸った。
「……食事は食堂で働いてくれておる料理人の一人が運んでくれておる。ソラレのことを知っている数少ない一人じゃよ」
「では、その人に話を聞きに行きましょう」
「……まさか、今からかの?」
食堂に着くと、ほとんどの生徒が食事を終えており、人も疎らな状態だった。その中に、シェンリーの姿もあった。
「あ、アオイ先生!」
「シェンリーさん」
シェンリーは嬉しそうにこちらへ走ってくる。すぐ近くに来て、シェンリーはグレンに気が付く。
「あれ? グレン学長も……食堂でお食事ですか?」
可愛らしく首を傾げるシェンリー。その姿にほっこりしつつも、頷いて答える。
「そうですね。食事もしていませんでした」
「……わしはスープとパン一個で良いかの」
どうやらグレンはあまり食欲が無いようだ。シェンリーは不思議そうに私とグレンの顔を見比べていた。
その表情を眺めて、ふとシェンリーが過去に虐めを受けていたことを思い出す。彼女もかなり酷い虐めを受け、学院を去るという選択肢まで選びかけた生徒の一人だ。
「シェンリーさん、少しお時間はありますか?」
「大丈夫ですが、何かあったんですか?」
理由も言わずに時間をくれと告げたのだが、シェンリーは即答で了承してくれた。
「ちょっと、困っていて……グレン学長、宜しいですか?」
一応、グレンにも確認をとる。グレンはシェンリーの顔を一瞥して、すぐに頷いた。
「シェンリー君ならば大丈夫じゃろう」
「ありがとうございます。では、お食事を作って下さる方は……」
「……お、いたぞい。あの女性じゃ」
問いかけると、グレンは食堂の奥を見回して、すぐに小柄な女性を見つけて指さした。その指示した先には割烹着に似たエプロンを着た長髪の女性がおり、テーブルの上を拭いたりと片付けを行っている。
年齢は四十代ほどだろうか。
「それでは、あの方に料理をお願いしましょう」
そう言って、私は女性の元へ向かったのだった。