作品タイトル不明
【別視点】威風堂々
【グレン】
気が付けば、カーテンの隙間から陽が差し込み始めていた。どうやら、もう朝になっていたらしい。
自身の未熟さに失望しつつ、ソファーから腰を上げて立ち上がった。
顔を洗って頭を働かせよう。
そう思った矢先、外から扉をノックする音が響く。
「おはようございます。アオイです」
その声を聞いて、思わず顔を顰めてしまったことを自覚した。情けないことだが、今一番会いたくない人物である。
「……困ったぞ。どんな顔をして会ったものじゃろうな」
溜め息を吐きながら、頭を片手で掻く。そういえば、昨晩は湯を浴びることもなかった。
そんなことを考えながら上着だけでもと、慌てて着替える。
「入りますよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれぃ!」
アオイの言葉に思わず待ったをかける。アオイの場合、返事をしないと本当に無理やり開けてしまいそうだ。最悪の事態を回避するために、急いで扉の前へ移動した。
「な、なんの用かの?」
恐る恐る扉越しに尋ねると、アオイは躊躇うことなく答えた。
「学長のお孫さんについて、聞きたいことがあります。言い難いこともあるかもしれませんが……」
「……帰ってくれんか」
我慢が出来なかった。アオイのことだから、安易にソラレについて踏み込んできたわけではないだろう。しかし、そう思ったとしても、到底話せそうにない。
それほど、ソラレのことは繊細な……。
「帰ることはできませんので、こちらから開けさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「なんでじゃ!?」
帰ることは出来るじゃろ。
驚愕のあまり返事をしてしまった。帰ってくれと言っておるのに、なぜ引き下がらないのか。
困惑していると、アオイが再度扉をノックしてきた。
「本当に申し訳ありませんが、開けていただきたいのです」
「い、いや、せめて明日にしてもらいたいのじゃが……」
「善は急げといいます。まずは行動あるのみです」
「善……これは善い行いなのだろうか……」
全く引く様子を見せないアオイに恐怖すら感じる。これはどうしようもない。アオイの力強さに屈してしまい、扉を開放する。
開けると、目の前にはこちらを真っすぐ見上げるアオイの姿があった。一切の曇りもない眼を見下ろして、深く溜め息を吐く。
「……入って良いぞい」
「ありがとうございます」
渋々入室許可を出したのだが、アオイはさっさと礼を言って中に入って来た。
「そこに座ってくれ」
「はい。失礼します」
丁寧な返事なのに、どうしてか圧力を感じる。まるで威圧をされているかのような気持ちになりながら、対面する形でソファーに腰掛けた。アオイは背筋を伸ばし、自らの膝に両手を置いてこちらを見ている。
「……せめて、紅茶でも淹れようかの」
「ありがとうございます」
座ったまま深々と頭を下げて礼を言うアオイに苦笑を返しつつ、水と火の魔術で簡単に紅茶を淹れた。
ふわりと紅茶の良い香りが室内に広がる。心が落ち着く良い香りだ。だが、何故だろうか。正面に座るアオイのカップに紅茶を注ぐ間、まるで死刑執行を待つ囚人のような気持ちになってしまった。
重苦しい気持ちをそのままに、座り馴れたソファーへ腰を下ろす。
「……お気に入りの銘柄での。口に合うと良いが」
「いただきます」
そう言って、アオイはカップを手に取って淹れたての紅茶を口に含む。人が飲んでいるのを見ているだけなのに、飲みなれた紅茶の味が口の中で広がった気がした。
さっそく自分の分も飲んでみよう。そう思って、目の前にあるカップを手にして口に運んだ。紅茶を口に流し込むと、熱さと同時に少し甘い香りが鼻を抜ける。うむ、ホッとする。
「……最後の晩餐、かの」
「これは晩餐ではなくティータイムでは?」
「……うむ、そうじゃの」
若干不安になるような会話をしつつ、二人で紅茶を楽しんだ。すると、アオイも少し表情を緩めてくれたように思う。
「……確かに、美味しいです。フルーツティーに近い味ですね。香りはアッサムティーに似ています」
「ほう、気に入ってくれたかね」
アオイの反応を見て、胸を撫で下しながらそう答える。それに頷きつつ、アオイは目を細めた。
「……それでは、本題に入らせていただきます」
「やはり、本題はあるのか」
溜め息混じりにそう聞き返すと、アオイは深く頷いた。
「あまり触れ辛い話ですが、お孫さんについてお聞かせください」
「……触れ辛いというわりに堂々と聞いてくるのう」
いつものアオイである。その威風堂々たる態度に苦笑しつつ、肩を落とした。
「……それで、ソラレについて聞いて、どうするつもりなのかね?」