軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】グレン学長の苦悩

【グレン】

今年の文化祭は素晴らしいの一言だった。準備期間が少なかったにも関わらず、教員達の発表も中々考えられていた。なにより、生徒達の発表が上級教員の発表を超えるほどの出来だった。フィディック学院だけでなく、どの国の魔術学院でもあれほどの発表をした生徒達はいないだろう。

それらは全てアオイのお陰である。普通の魔術師であれば、オリジナル魔術は何年もかけて開発するものであり、安易に誰かに教えるようなことはない。場合によってはその魔術一つで宮廷魔術師になれることもあるのだから当たり前だろう。人よりも優れていることを証明する方法として、己しか使えない魔術があるということも手段の一つである。

だからこそ、自分で開発したオリジナル魔術を生徒達に教える教員は非常に珍しい。何故、そんなことを出来るのかといえば、アオイに功名心が無いことが一番の理由だろう。そして、純粋に生徒達に魔術を教えようとしていることも一つの要因だ。

教員としても素晴らしい精神を持っており、更に実力も他の追随を許さないほどのものである。

それはアオイの発表を見た人々全員が感じたことだろう。なにせ、この学院の長である自分自身ですら、あの美しい魔術を見て感動し、言葉を失ってしまった。

魔術には、あんなことが出来たのか。あんな使い方があったのか。恥ずかしいことに、この年齢になってそんなことに気付かされてしまったのだ。

だから、発表が終わって皆に囲まれているアオイの下に行き、感動したことを直接伝えたかった。

だが、何故か聞こえてきたのは孫であるソラレの名だった。近くには各国から訪れた重鎮達がいる。恐らく、彼らの誰かが生徒達の発表を見てソラレの事を思い出したのだろう。

何故かは分からないが、ソラレのことをアオイに知られたくなかった。恥ずかしいというわけではなく、後ろめたい気持ちに近い感情である。

だから、すぐにその場を立ち去ったのだ。一人で考える時間が欲しい。そう思った。

文化祭が終わってから、二日三日ほどでウィンターバレーも静かになる。学院も同様だ。文化祭の為に集まった人々も、それぞれの生活に戻っていく。

学長室の窓から、陽が落ちてもまだまだ賑やかなウィンターバレーの街並みを眺めた。夜空には雲一つなく、星々が夜空を彩っている。それに対抗するかのように、ウィンターバレーの夜もいたるところで灯りが揺れており、美しい夜の街の姿を作り上げていた。

文化祭の最終日の夜に相応しい祭りの景色である。

僅かに冷えた風が肌に触れるが、あの灯りの中で騒いでいる者たちにとっては、心地よい程度にしか感じられないだろう。

しかし、今の自分には冷た過ぎた。

窓を閉めて、カーテンで夜のウィンターバレーの景色を遮る。長年愛用しているソファーに腰を下ろして、深く息を吐いた。軽く右手の人差し指を振り、火の魔術を発動する。

ふわりと小さな火の粉が部屋の中を漂い流れ、暖炉に火を点ける。続けて簡単な風の魔術を使えば、暖炉はすぐに部屋の中を暖めはじめた。

一小節の詠唱と、魔術名による魔術の発現。

これは、通常ならば最小限の魔術の行使となる。これを上級魔術以上で出来る者は、どの国に行っても宮廷魔術師相当の待遇で迎えられるだろう。魔術学院であれば上級教員である。

だが、アオイはその一小節の詠唱すら省略し、様々な魔術を瞬く間に発動していく。それも、全ての属性でオリジナル魔術を開発しているのだ。

そんな人物はエルフの国であっても存在しないだろうと思う。

そこまで考えて、不意にエルフの王国での記憶が呼び起されてしまい、陰鬱な気持ちとなる。遠く離れた地に移り住んでも、どれだけ魔術師として実力をつけて自信という名の壁を築き上げたとしても、ハーフエルフであるという事実からは逃れられない。

ソラレが姿を隠してしまったことの原因の一つがそれであることが、とても悲しく悔しい。

そして、ハーフエルフであるという負い目を振り払えない自分自身が腹立たしい。

ぱちぱちと音を立てて揺れる暖炉の火を眺めて、目を細めた。

「……オーウェン。わしはまだまだ何も変わっておらんようだ。いまだ、弱いハーフエルフの小僧の頃から成長しておらん」

そう呟き、瞼を閉じた。