軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ソラレの過去2

「結局、それからソラレの姿は見ていない。その一件で本当に人間嫌いになったのかもしれないな」

肩を竦めて、フェルターはそう呟いた。

「……なるほど。苛めっ子の有無ではなく、すでに人間不信になっているということですね。それに対して、グレン学長は何かしたのでしょうか?」

「それは知らん。ソラレの口からも学長の名前が出たことはない」

「そうですか」

返事を返して黙ると、室内に静かな時間が流れた。

「失礼します」

そこへ、ノックと共に食事が運ばれてきた。合間合間で料理はきていたが、もうそろそろ最後の料理だろうか。美味しそうなフルーツの盛り合わせが出てきた。何となく、コース料理ならデザートは最後のイメージだ。

そう思って自分の前に置かれたフルーツを眺めていると、フィオールが困ったように笑った。

「あら、まだ果物ですね。もうお腹がいっぱいで……」

「ふん。まだまだ足りんから丁度良い」

フィオールの言葉を聞いて、私は目を丸くして顔を上げる。

「まだ料理が来るんですか?」

驚いて尋ねると、フィオールが笑いながら頷いた。

「コート・ハイランドのフルコース料理といえば、十五種類が一般的です。コースの真ん中で果物が出てくるのも特徴ですね」

「うむ。この後、魚料理が出て野菜、肉料理と続いていくのが普通だ。最後に揚げたパンを使った料理が出るのもコート・ハイランドの特徴だな」

「……かなり胃に重い内容ですね」

フィオールとラムゼイの解説を聞き、自らの眉間に皺が寄るのを感じた。

料理は一つ一つがとても美味しいのだが、やはり庶民の私にはグレノラの手料理や、いつもストラスやエライザと食べに行く飲食店の方が性に合っているようだ。

いや、別にグレノラの手料理が庶民的という話ではないが。

と、心の中でグレノラに弁明していると、ラムゼイが腕を組んで顔を上げた。

「さて、腹もそこそこ膨れてきたところだ。込み入った話をするとしよう」

「そこそこ……?」

どうしても気になった言葉がでてきて思わず反芻する。しかし、ラムゼイは気にせずに話を続けた。

「こちらも伝え聞いた話でしかないが、ソラレが苛めを受けた原因の中に、グレン殿の存在があると聞いたことがある」

「グレン学長が?」

ラムゼイの言葉に驚いて顔を上げる。これにはフェルターも興味深そうに視線を送っていた。ラムゼイは皆の視線を受け止めながら、軽く酒で喉を潤わす。

「……ふぅ。グレン殿はハーフエルフで、純血のエルフの王国で生まれ育った。そこら辺の話はミドルトンに聞いたか?」

「はい、それは聞いています」

「そうか……エルフ達にとって、ハーフエルフは自分たちより劣った存在であるという認識がある。いや、そういう意識を持つエルフが一部にいる、というべきか。まぁ、基本的に自分の生まれ育った場所から出ない引き籠りばかりだからな。エルフ達には独特な常識が備わっていると思った方が良い」

そう前置きしてから、ラムゼイは目を細めた。

「だが、そんなエルフの中にも、たまに変わり者がいるものだ。二十歳を超えて、人間の国に興味を持つエルフがな。エルフは魔術の扱いに長けた奴らが多い。だからか、フィディック学院にも何人かエルフの学生がいたのだ」

「え? エルフの学生ですか?」

目を瞬かせて、ラムゼイの顔を見る。すると、ラムゼイは鼻を鳴らして片手を挙げた。

「まぁ、待て……そういったエルフの学生が何人かいたことがある、という話だ。その時は魔術に自信のあるエルフの学生が、人間の国で最も有名な魔術学院だったフィディック学院に入学していたようだ。そうして、自分の実力を試している中、自分たちが馬鹿にしていたハーフエルフの孫が在籍していることが分かった。それがソラレだ」

その説明に、私は成程と頷く。

「先ほどのフェルター君のお話と繋がりますね。つまり、その方々がソラレ君を虐めていたという……」

そう答えると、フェルターが口を開いた。

「……エルフの話は聞いていない。学院を辞めたのは、その当時有名だった高等部クラスの奴らだったが、エルフではなかったはずだ」

「そうなのですか?」

伝え聞いた話と、本人から直接聞いた話。どちらを信じるのかと問われれば本人が口にした話だろう。しかし、上級貴族のラムゼイが耳にした噂との齟齬も気になる。

何か、理由があってフェルターには話せなかったのかもしれない。

「……それについて、グレン学長に尋ねても大丈夫でしょうか?」

一応、そう聞いてみると、ラムゼイとフィオールが目を丸くした。

「……中々聞き難いところだとは思うがな」

「どうでしょう……」

二人が言葉を濁す中、フェルターは腕を組んで首を左右に振る。

「自分の孫の為に動こうとしているのだから、協力するだろう」

フェルターがそう口にすると、フィオールが困ったような顔になった。

「フェルター……そう簡単には考えられないこともあるのですよ?」

フィオールはそう口にしたが、フェルターは肩を竦める。

「学長なら問題ないと思うがな」

その言葉を聞き、私も頷く。

「そうですよね。グレン学長なら多分大丈夫だと思います」

二人でそんなやり取りをしていると、ラムゼイとフィオールが顔を見合わせた。フィオールは心配そうにこちらを振り返り、ラムゼイは吹き出すように笑う。

「……まぁ、やってみたら良いだろう。もし、フィディック学院に居辛くなったらブッシュミルズに来るが良い。必ず宮廷魔術師長クラスで歓迎しよう。それこそ、ケアン侯爵家の総力をもってアオイ魔術学院を作っても良いぞ」

「……その名称はご遠慮願いたいのですが」

ラムゼイの提案に、私は何とも気恥ずかしい気持ちで訂正を願いでたのだった。