軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

グレンの記憶

グレンはまるで探偵に証拠を突きつけられた犯人のように肩を落とし、暗い表情で口を開いた。てっきりプライベートな部分に踏み込んだことを怒られるかと思ったのだが、よほどソラレのことが心配なようだ。意気消沈した様子ながら、訥々とソラレと自分の過去について語り出した。

「ソラレについてよりも先に、まずはわしの過去を教えよう……あれは、わしがまだ五歳の頃じゃったか……」

「あ、申し訳ありませんが、学長の過去は少し短めにお願いいたします」

「Oh……」

エルフの昔話は長くなる。オーウェンで学んだことをきちんと活かさなければならない。

「……では、かいつまんで話をさせていただこう」

「ありがとうございます」

そんなやり取りをして、グレンは改めて過去を語りだした。

「エルフの国。一応、エルフの王国、アクア・ヴィーテという名を名乗っておるが、小国として数えることもないほどの小さな国じゃ。そこには殆ど純血のエルフしか住んでおらん。そこに、わしはエルフと人間のハーフエルフとして生まれた」

アクア・ヴィーテ。その名前はオーウェンに聞いたことがあった。あまり良い思い出がないのか、オーウェンは多くは語らなかったが、グレンにとってもそうであるようだ。

「エルフは血が弱く、他の種族のものと交わる度にエルフの血は極端に薄くなる。しかし、エルフは己の血を尊いものとし、純血であることを誇りにしているような種族じゃ。そんな中に、ハーフエルフであることを隠してわしは住んでおった。その時にはすでに人間の父は亡くなっておったからな。少しだけ耳の短いエルフと言えば何とか隠せたのじゃ」

そう呟いて、グレンは自分の耳を気にする素振りを見せた。確かに、言われてみれば気付かない程度だが、耳がエルフにしては短い。

「それがバレてしまったのですか?」

尋ねると、グレンは浅く息を吐いて背中を丸めた。

「……母は、エルフとして高貴な生まれじゃったが、人間への偏見はなかった。いや、最初はあったようだが、父と出会ってそれが無くなったのかの。常々、わしに父との思い出を語っていたよ。最高の男性であり、素晴らしい人格者だった、と……誰にも話すなと言われていたが、幼いわしにとって会ったことのない父は誇るべき存在じゃった」

懐かしそうにそう口にして、目を細める。

「だから、周りのエルフの子らが人間を悪し様に言うことに耐えられなかったんじゃ」

グレンはそれだけ口にして、表情を歪めた。

「人間にも素晴らしい者がおると口にしてしまった。それが切っ掛けで口論になり、気が付けば自分の父が人間であることを話してしまっていた……」

その一件で、グレンは母が自分の家の者たちによって半ば幽閉のような状況に追いやられ、自身も国を追い出されたことを語った。

「エルフの貴族の子女が、人間と子を成した……それが隠さなければならないほどの恥だったんじゃろうな。わしは殺されるかどうかという状況になり、母が過ちを認めて大人しく幽閉されることを条件に追放という温情を得た」

「温情、ですか」

グレンの言葉に納得できずに呟く。それに肩を竦めて、グレンは話を続ける。

「僅かな旅費を持って、わしは最も近くの人間の街に辿り着いた。じゃが、当時はまだエルフの国しか知らない十歳ほどの子供じゃからな。すぐに騙されて奴隷として売られそうになった。そこを助けてくれたのが、オーウェンじゃ」

「オーウェンが?」

突然、師の名前が出て驚く。

「うむ。オーウェンもわしと同じような年齢じゃったが、家族と共にその街に住んでおった。わしよりも遥かに人間の世界に詳しかったんじゃよ。あれの父親も変わり者でな。世界中を見て回りたいとか言って若い頃に冒険者になって旅をしていたようじゃ」

初めて聞くオーウェンの幼い頃の話に、別の興味が湧く。色々と聞いてみたいことが増えたが、それはまたの機会にしなくてはいけない。姿勢を正してグレンの目を見ると、苦笑しながらグレンが頷いた。

「それから数年はその街で過ごした。オーウェンとも仲良くなり、わしが受けた扱いに憤慨してくれたんじゃ。その頃から魔術に熱中しておったオーウェンは、わしに魔術を教えようと言ってくれた。オーウェンは長年の冒険で培った父の魔術をしっかりと受け継いでおり、卓越した魔術師となっていたからの。エルフの国で伝統的な魔術を習っていただけのわしとは知識も技術も違ったわい」

それがグレンの魔術師としての一歩になったのか。そう思って聞いていると、グレンが眉根を寄せる。

「お互いが二十歳になった頃か。オーウェンはエルフの国の魔術を研究してくると言い出した。わしが反対しても一度決めたことは必ず実行する男じゃからな。全く聞く耳を持たんかった。仕方なく、わしも自分の道を探して旅に出ることにしたんじゃ。そこから色々と諸国を回り、最終的に仕官を募集していたヴァーテッド王国に落ち着いたのじゃ」

「仕官ですか? 教員ではなく?」

「そうじゃよ。最初は自分が誰かに教えるなんて考えもしなかったからの。なにせ、エルフの恥と追放された身じゃ。そんな存在が、誰かにものを教えるなどとてもじゃないが考えられん」

自嘲気味に笑いながら、グレンはそう言った。

「それから魔術師団の見習いから宮廷魔術師に推挙されて、陛下の目に留まることになったのじゃが、何故か顧問魔術師をやれと言われての。人間の国に雇われるエルフは珍しかったからか、陛下はヴァーテッド王国の魔術について色々と意見を尋ねてきたわい。ああ、当時はミドルトン陛下ではなく、先代の国王じゃぞ?」

「なるほど。それにしても、波乱万丈の人生ですね」

「落ち着くまでは色々とあったものじゃ。とはいえ、ヴァーテッド王国に来たおかげでこうして立派な居を構えることが出来て、魔術師としての地位や名誉も得ることが出来たんじゃ。エルフの恥と言われたわしが、今や世界最高峰の魔術学院の学長じゃからな。すごいじゃろう」

「はい」

胸を張って自慢する様子に微笑みつつ、首肯する。だが、グレンの空元気もそこまでだった。

「……フィディック学院を作るという話が出た頃、わしは宮廷魔術師だった妻と婚姻し、子が生まれた。その子はエルフの血も殆ど受け継がなかったが、魔術は得意じゃった。楽しそうに魔術を勉強する我が子に、わしは各国の魔術を教えた。そうすると、大人になる頃には他の国のことも気になるようになっていったのじゃ」

グレンの言葉に深く頷いて同意を示す。詠唱の文言にしてもそうだが、それぞれの国ごとに魔術の形態が変化している。エルフの魔術は遥か昔から変わっていないのかもしれないが、人間の国ではそれぞれ年月を経るごとに変化していっているのだろう。

そうなってくると、魔術の起源はなにか気になるのが魔術師というものだろう。少なくとも、今の話を聞いただけで私は太古の魔術や原始の魔術というものがどういったものか、気になってしまう。

「……それでは、お子さんは冒険者になったのですか?」

尋ねると、グレンは残念そうに頷いた。

「そうじゃ。わしも考えが浅かったのじゃが、自分やオーウェンの家族が無事に世界各国を旅したことから、安易に許可を出してしまった……それで、我が子が命を落としてしまうとは思わずに、のぉ」