作品タイトル不明
文化祭後半3 生徒達の発表
これまでかなり練習をしてきたのだろう。大して修正すべきところも無い。一度見て、軽くアドバイスをした程度である。
これなら、発表もとても良いものになるだろう。私は安心して、一人頷いた。
「それでは、時間もあまりないですし、私は先に会場へ向かいますね。皆さんも最後の確認をして会場へ向かってください」
そう告げると、コートが微笑みを浮かべて口を開く。
「はい。フィディック学院の文化祭で発表出来る機会など、中々ありませんからね。良い思い出になるように、力を出し切りたいと思います」
コートは余裕のある表情でそう言った。程よい緊張感が感じられて頼もしく感じる。エライザよりも余程度胸があるようだ。
苦笑しつつ相槌を返していると、ロックスが口をへの字にして一歩前に出てきた。
「……教え子の晴れ舞台だ。しっかり見ていてくれよ」
「勿論です。応援していますよ」
意外と素直な申し出をしてくるロックスに、思わず笑いながら返事をした。高校生くらいになると親や兄弟に恥ずかしいから学校に来るなと言う生徒も多かったが、この世界ではそういった感覚は一般的ではないのだろうか。
少しほっこりしながら、私は一足先に会場へと向かうのだった。
到着して早々、冷や汗が額から流れる。これは予想外の事態だ。魔術がいくら上手かろうと、解決など出来る気がしない問題である。
私は茫然自失としたまま会場を見回した。会場には、本当に数えるほどしか人がいなかったのである。
「……なぜ、こんな時に限って人がいないのでしょう?」
発表まで残り三十分程度か。普通なら、我先にと観覧する場所を取り合うような状況になっている筈だ。上級教員の発表ならば、そうなっていた。
やはり、生徒の発表だからということか。
「……困りました。みんな凄く張り切っていたのに……」
人を集めるにはどうしたら良いのか。声を掛けて回ってももう遅いだろう。かといって、派手な魔術を先に披露して人を集めるのもおかしい。もしかしたら、ほかの会場で何かやっているのかもしれない。
「どうすれば……」
このままでは生徒達が悲しむ。そう思って焦っていると、視界の端に見知った人影を発見した。野性的な雰囲気のある長身の女性。ネヴィス一家のボス、カリラだ。カリラは若い男を四人ほど引き連れて、屋台の様子や歩く人々の顔などを見ている。
「カリラさん!」
藁にも縋る思いで、カリラの名を呼んだ。するとカリラはかなり離れているのにも関わらず、ビクリと肩を震わせて勢いよく振り返った。驚きに満ちた顔で、私を見て口を開く。
「な、なな、なんだ、いきなり……何か用か?」
一歩後退りながらカリラが聞き返してきたので、私は一瞬で距離を潰して目の前に移動した。
「うわっ!?」
驚愕するカリラの肩を掴み、至近距離で必死に頼みごとをする。
「カリラさん! 人を集めてください! おそらく、生徒達の発表だからとあまり期待されていないんだと思います……なにか、この会場で面白い発表があるとか噂でもしてもらえたら……」
「わ、分かった! ちょっと落ち着け! 俺が何とかする!」
「本当ですか?」
「ほ、本当だ。すぐに行動する。だから、その手を放せ」
カリラは何故か必死に私の手から逃れようともがく。
「すみません。痛かったですか?」
「……肩が千切れるかと思った」
責めるような目でこちらを見てそう呟くと、カリラは軽く肩を回して周りに立つ男たちを振り返る。
「お前ら、手の空いてる奴らを総動員してこの会場の噂話を流してこい。単純に、すげぇ発表があるらしいって話をするだけで良いぞ」
カリラがそう告げると、男たちは元気よく返事をして散り散りに走っていった。別にどこに行けとかも口にしていないのに、まるであらかじめ決められた道順でもあるかのように迷いなく動き出している。
不思議に思っていると、カリラはこちらを見て片方の眉を上げた。器用なことだ。
「……気になるか? 他の会場で何がやっているか調べても良いが」
そう聞かれて、思わず驚く。今思っていたことは別のことだったのだが、つい先ほど同じようなことを思っていたので、あえてカリラの提案に頷いておいた。
「はい、お願いします。確かに気になっていました。普通なら、この時間帯の発表で会場に人がいないなんてことはありませんから」
そう告げると、カリラはニヤリと笑みを浮かべた。
「任せな。ああ、俺が直接調べるわけじゃないぞ? ガイヤに頼むからな」
「ガイヤさんですか? でも、情報屋さんとのことですから、費用が掛かるでしょう?」
「大した額じゃない。特に今のネヴィス一家ならね」
不敵に笑ってカリラはそう言った。だが、すぐに表情を変えてばつが悪そうに後頭部を片手で掻いた。
「……まぁ、あんたのお陰だがね」