作品タイトル不明
文化祭後半4 生徒達の発表前に
「おうおう! 聞いたか!?」
「なんだ、兄弟!?」
「あの学院の魔女の愛弟子が発表するらしいぜ!」
「マジかよ!? そりゃ見るしかねぇな!」
そんなわざとらしいにも程がある叫び声が、いたるところで聞こえてきた。
「さっき、次の発表の準備が見えたんだけどよ。ありゃすげぇぞ」
「何を見たんだ?」
「そりゃあ言えないな。だが、発表を見て損はない。それだけは言えるぜ」
四方八方から聞こえてくる大袈裟な噂話と、それに驚いたり胡散臭そうにしたりしている人々を横目に見て、カリラを見る。
「……ちょっと、やり過ぎではありませんか?」
そう尋ねてみるが、カリラは鼻で笑って首を左右に振った。
「これくらいがちょうど良いのさ。結局、大衆ってのは分かりやすさが一番だからな。賭博でもそうだが、あの店は馬鹿みたいに金払いが良いって話が出れば博徒は勝手に集まってくる。あの食い物屋は肉をいくら食べても値段が一緒だと言えば腹減った奴は皆集まってくるもんだ。ならば、このフィディック学院で人を集めるには、なんと言えば良い?」
「……凄い魔術や、新しい魔術を見ることが出来るぞ、といったところでしょうか」
「その通り」
私の回答を聞いて、カリラは満足そうに首肯する。なるほど。そう思うと、商品や映画のキャッチコピーは大袈裟なものが多かったように思う。全米が泣いたという触れ込みの映画や、五十年に一度の出来というワインなどは誰もが見たり聞いたりしたことがあると思う。
非合法ながらもカリラはずっと客商売をやってきたから、そういった部分の機微にも長けているのだろうか。
「分かりました。カリラさんを信じて待ちましょう」
そう言うと、カリラは目を丸くして瞬かせた。
「……自分で言うのも悲しいが、あんたがそんな態度を私にとるなんてね」
「どういう意味でしょう?」
良く分からない呟きに、思わず聞き返す。しかし、カリラは肩を竦めて答えなかった。
そこへ、カリラの部下が一人こちらに向けて走ってくる。筋骨隆々の髭面の男だ。背が高いわけではないが、その分厚い身体と風貌が男を随分と大きく見せている。その男の後方には、細身の背の高い男が付いてきていた。
「姉御!」
「おう、見つけたか」
筋骨隆々の男が見た目通りのドスの利いた声でカリラを呼ぶと、片手を挙げてカリラが答える。そして、後ろに付いてきていた細身の男がこちらを見た。
「今、面白い情報を仕入れている最中だったんだがな……」
細身で背の高い男、ガイヤが不満そうにそう口にすると、カリラは大きな声で笑う。
「ははっ! そりゃ悪かった。だが、こっちも急ぎの用事でな」
「……なんの用事だ?」
カリラの言葉に、ガイヤはすぐに気持ちを切り替える。話を聞く姿勢を作り、カリラと私の顔を順番に見た。カリラはそれを満足そうに見て、振り返らずに私を指し示す。
「依頼者はこっちだよ」
そう話を振られ、ガイヤに首肯をして口を開いた。
「はい。実は、午後最初の発表は一か所でしか行わない筈なのですが、全然人が来ていないのです。こんなことはこの二日間無かったことなので、どうしてなのかと気になりまして……生徒達の発表ですし、出来るだけ多くの人に見に来てもらいたいのですが……」
依頼というより、困ったことを相談するみたいな言い方になってしまった。しかし、ガイヤは気にした素振りもなく、顎に片手をあてて唸る。
「……なるほど。それならもう理由は分かるが、まだ裏側までは探れていないな。片方の側面からしか見られていない不確かな情報で良かったら提供するが……」
「それで充分です。分かる範囲で良いので教えてください」
微妙に乗り気じゃないガイヤに情報提供をお願いすると、軽く溜め息を吐いてこちらを見た。
「中途半端な情報を流すのは好みじゃないが、依頼者の頼みじゃ仕方が無い……どうやら、グランサンズ王国の王が、この国の王に頼んで会場の使用許可をもらったらしい。そこに金銭か単純な貸し借りが発生しているのかは分からないが、とりあえずグランサンズ王は会場が空いている間の使用許可を得た」
「ロックス君のお父さんが……どうして、そんな許可を出したのでしょう」
「お父さんって……いや、間違いじゃないけどよ」
私の呟きに何故かカリラが反応する。呆れたようにそう言われたが、間違ったことは言っていないはずだ。
「恐らく、ドワーフの武具などを条件に会場を貸し出したんだろう。とはいえ、グランサンズ王も随分と商売上手だな。その元を取ろうとでもしてるのか、集客から販売まできっちりやってるぞ」
「販売?」
聞き返すと、ガイヤが肩を竦めて鼻を鳴らした。
「派手にドワーフの武器や防具を売り出してるってことさ。普段、一般人はドワーフの武具なんて目にすることがないからな。魔術学院内であっても随分と人が集まってたぜ」