作品タイトル不明
文化祭後半2 生徒の発表準備
三日目。文化祭はこの日が最終日である。私としては、皆の発表を見たいと思っていたのだが、なんと寝坊してしまった。
普段ならこんなことは無いのだが、昨晩は美味しい料理とお酒を楽しみ過ぎてしまったらしい。昼前までぐっすり寝てしまった。急ぎで水を被り、洗顔と寝癖直しを同時に行う。風の魔術で髪を乾かしながら、さっさと服を着替えた。
「おはようございます」
一階に降りて食堂に行こうとすると、食堂の入口からグレノラが顔を出した。
「……まさか、今起きてきたのかい?」
目を丸くしてそんなことを言ってくる。
「そのまさかです」
悲しい気持ちになって答えると、呆れたような顔をされてしまった。そして、私の背後を指さしてくる。
「その子たちは、アンタを待ってたんじゃないのかい?」
「え?」
言われて振り返ると、寮の出入り口の外から顔を覗かせる人影が四つあった。シェンリー、アイル、リズ、ベルの四人だ。教員の寮だから中に入れなかったのだろう。
「おはようございます」
朝の挨拶をして一礼すると、アイルが眉をハの字にして口を開いた。
「遅いですよ、アオイ先生! 早く裏庭に来てください!」
「え? 裏庭ですか?」
首を傾げると、アイルが両手を上に上げて猫が威嚇をするようなポーズをとる。
「初めての発表で皆不安なんですから、発表前まで練習手伝ってください!」
「もう残り一時間と少ししかありませんし、十分練習はしたと思いますよ。三十分前には会場に行きますので、食事をしてからではいけませんか?」
「ダメです!」
アイルから食事の許可が下りなかった。仕方ない。寝坊してしまった自分が悪いのだ。
「分かりました。発表が終わってから昼食をとることにします」
そう言ってグレノラに会釈をすると、腕を組んで苦笑するグレノラが顎をしゃくって早くいけと伝えてきた。厳しい世の中である。
裏庭に行くと、校舎の陰で魔術の練習をする皆の姿があった。
「詠唱の時間が違うんだ。一番遅い人に合わせろ」
「中々難しいですね。そちらに集中すると魔術自体失敗する恐れもありますから……」
ロックスが皆に指示を出すが、コートが難しい顔で唸っている。
「そ、その……反対に、発動が速い人が先に詠唱を始めて、順番に雷の魔術を披露したらどうでしょう?」
と、ディーンが口にした。普段は人の影に隠れて目立たない少年なのに、上級生同士の話し合いに自分の意見を発したのだ。それには、コートだけではなくロックスも驚いていた。
二人が自分に目を向けていることをどう受け取ったのか、ディーンは言葉を続けることを選んだ。
「一週間、皆で同時に雷の魔術を発動しようと頑張ってきましたが、いまだに完璧に揃うことはありません。それなら、これも演出だと思って順番に魔術を披露していくほうが良い気がします……」
恐る恐るだがディーンがきちんと自分で考えた意見を口にしている。まさにこの姿を、ティスに見せてやりたかった。ディーンの意外な一面を見て息子の成長を感じてくれることだろう。
感慨深く思いながら、アイル達と一緒に練習の場へ合流をする。
「お疲れ様です。準備はいかがですか?」
そう言いながら顔を出すと、皆がこちらを振り向いた。そして、ロックスが腕を組んで溜め息を吐く。
「だいぶ魔術の発動が揃ってきたのだが、今しがたやり方を変えれば良いと意見を貰ったところだ。今からでは間に合わないと思うが、どう思う?」
尋ねられ、自分の顎を指でなぞって考えてみる。生徒達が一列に並び、順番に雷の魔術を発動していく。仕掛け花火のようだ。
「……良いと思います。それなら多少のズレも気になりません。もう何度も練習をしているから、誰がどれくらいで詠唱を終えるか分かるでしょう。詠唱が速い順番で並んでください」
そう告げると、皆でガヤガヤと騒ぎながら列を作った。
「おい、誰が俺より速いって?」
ロックスが苛立ち混じりに口を開くと、コートが苦笑しながら頷いた。
「申し訳ないけど、僕の方が魔術の発動は速いと思う。遠慮したいところだけど、発表の為には嘘は吐けないからね」
と、珍しくコートがロックスに対抗意識を燃やして答える。それにはロックスも顔を赤くし、今にも怒り出しそうになっていた。しかし、教員である私がいるからか、何も言わずに黙って睨むのみだった。
ロックスは黙って腕を組み、コートの前に仁王立ちする。どうやら、魔術の詠唱が速いという部分は譲らないらしい。子供らしい強情さに苦笑しつつ、コートを見る。コートは肩を竦めて首を左右に振っていた。どうやら、これ以上争うつもりもないようだ。
二人の関係も面白く思っていると、先頭にディーンが立った。こと雷の魔術に関しては生徒達の中でディーンが一番上手なのである。それは皆も承知していることなのか、誰も何も言わない。
「……これは、ティスさんの反応が楽しみですね」