作品タイトル不明
文化祭9 初日の夜
夕方、グレンに頼まれて各国の代表者たちとの懇親会に呼ばれてしまった。昼間、グランツが何か言おうとしたのを遮ってしまった手前、なかなか断れなかった。
上級教員の発表を見に中央広場に行くと、丁度グレンたちが揃っていた。本当に一日中文化祭を案内していたのだろうか。
「おお、アオイ君」
グレンが両手を上げて私を呼んだ。傍に立つミドルトン達も私を見る。
「もうすぐ発表ですね」
そう言って輪の中に入ると、ミドルトンが頷いて口を開いた。
「ああ。初日の最後を飾るのはフォア殿だったか。楽しみだな」
「火の魔術の上級教員でしたかな」
「おお、そうだった。メイプルリーフ聖皇国の伯爵でもあった筈だな」
と、王族と上級貴族の会話が始まる。その様子を横目に、レアが私の隣に来た。
「アオイ先生。ロックスも発表をすると聞いているのだけれど」
小さな声でそっと聞いてきたレアに、軽く頷いて答える。
「ロックス君はシェンリーさん達と一緒に最終日の午後、北の広場で発表をしますよ」
「最終日ね。楽しみにしているわ」
レアとそんな会話をしていると、学院の校舎から本日最後の鐘の音が鳴った。皆の視線が自然と広場の中央に向けられる。
静まり返った会場で、フォアがゆっくりと広場に出てきた。いつもの衣装、いつもの表情である。
フォアは軽く皆を見回すと、口を開いた。
「上級教員のフォア・ペルノ・ローゼズです。それでは、火の魔術の発表を行います」
いつもよりは丁寧な口調と仕草でそう説明すると、フォアは両手の手のひらを上にして胸の前に出した。テレビドラマなどで見る外科医の所作に似ている。
そういえば、フォアがどんな発表をするとかは聞いていなかった。ほとんど研究室に篭っていたが、何かオリジナルの魔術を披露するのだろうか。
そんなことを考えていると、フォアが見透かしたように口を開いた。
「……今回発表するのは、つい最近開発したばかりの魔術となります。それでは、始めます」
そう告げて、フォアは詠唱を始める。
「ほう! オリジナル魔術か!」
「流石は上級教員だ」
フォアの発言に会場からは驚きの声や感嘆の声が聞こえてきた。やはり、オリジナル魔術は中々見ることができないのだろうか。
単純に、皆がオリジナル魔術の発表を控えているだけだと思うのだが。
と、色々と考えている内に、フォアが 土(・) の(・) 魔(・) 術(・) を使った。
「 土の防壁(サンドウォール) 」
発動したのは土の魔術である。何が起きるのか皆が見つめる中、厚さ一メートル以上ありそうな壁が広場の中央に出来上がる。
それに対しても小さく驚く声が聞こえてきたが、フォアは無言で土の壁を手で触って確認し、広場に集まる観衆を見回した。
「一般的に、火の魔術は厚みのある土や岩の壁に阻まれると、進行方向を変えてしまいます。また、火の魔術の特性として、範囲を集約して効果が及ぶ範囲を狭くすると、必然的に距離や温度も下がってしまう傾向にあります。逆に範囲を広く、温度を高くすれば炎は活性化し、より高い効果をもたらすことが出来ます」
フォアがそう説明をすると、近くで何人かが頷く気配がした。どうやら、それが火の魔術の常識らしい。皆の反応を確認するように視線を巡らせると、フォアは再度口を開く。
「しかし、その常識は間違っていました。それを、今から私の魔術が証明します」
そう豪語し、観衆が大きく騒めきの声を上げた。
そして、フォアは今度こそ火の魔術の詠唱を始める。その詠唱内容を聞いていると、どうやら私が教えたものを参考にしているように思えた。
メイプルリーフから戻ってフォアとグレノラに癒しの魔術について確認をしたのだが、その際にフォアから他の魔術について質問を受けた。その時に火の魔術で謁見の間の階段を切断した話をしたのだが、その概要だけで中身を把握したようだ。
一ヶ月でそれを発表にまでこぎつけたのは凄いことだと思う。フォアの努力を想像し、感心しながら見学していると、ついに詠唱が完了した。
両手を前に出したフォアの前に、ぼうっと赤い炎が生まれ、徐々に小さな丸へと集約していく。火の魔術は派手なイメージが強いが、その静かな始まりに会場は静まり返った。
その赤い小さな炎の球を、フォアは壁に向ける。
「…… 炎熱線(フレイムレイズ) 」
静かに魔術名を口にした直後、フォアの手の中から細く赤い光が伸びた。光は壁を貫通し、右から左へと進んでいく。
そして、壁の端から端まで抜けた瞬間、分厚い土の壁が綺麗に真っ二つとなり、上半分が地面へと落下した。地響きを立てて地面に転がる壁の残骸を見て、観衆は驚愕の声を上げる。
「なんと……!」
「あの魔術の前には、通常の城壁など瞬く間に切り崩されてしまうではないか!」
「どんな鎧でも防げないに違いない」
いたるところからそんな声が聞こえてきた。私の側でフォアの発表を見ている各国の代表達も驚きに目を見張り、何も言葉に出来ないでいる。ただ、ディアジオだけは何か含みのある視線を私に向けていたが。
とはいえ、フォアの魔術は手元から二メートルほどの距離に集中させていたし、扱い方も片方の手で炎を発現させ、もう片方の手で風を集めて炎の威力と形状を調整するといったもののようなので、私の魔術とは似て非なるものである。
そう思って気にしていなかったのだが、フォアは魔術が完了してから皆を見回し、最後に挨拶をした。
「この魔術は、アオイという上級教員よりヒントを受けて完成に至りました。最終日、アオイは学長に代わって中央広場にて発表を行います。私も楽しみにしていますので、皆さまもどうぞ、ご見学ください」
そう言って、フォアは一礼する。
大喝采を浴びるフォアを眺めていると、ディアジオからの視線が横顔に刺さるのを感じた。