軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

文化祭8 親子の会話

文化祭に来た各国の王侯貴族との挨拶を済ませて、私はシェンリーを探そうと首を巡らせる。そこへ、グランサンズ王であるグランツがにこやかに声を掛けてくる。

「それで、アオイ殿はどうしてここへ? 同僚である上級教員の発表を見にきたのかと思ったが、もうそれも終わっておるのでな」

「ああ、いえ、シェンリーさんという生徒がお父さんと一緒に回っているということで様子を見に行こうかと」

そう答えると、グランツが柔和に笑いながら頷く。

「なるほど。生徒想いで素晴らしいことだ。ところで、それなら用件は急ぎではないということで間違いないだろうか」

と、グランツが妙な確認をしてきた。何か含みのある言い方に首を傾げつつ、すぐに否定の言葉を口にする。

「申し訳ありません。シェンリーさんとお父さんの様子が気になるので、個人的に急いでおります」

そう告げると、グランツは面食らったように目を丸くした。グレンが後方で引き攣った笑みを浮かべているが、とりあえず自分の用事が優先である。

「では、皆さま。文化祭をお楽しみください。それでは、私はこれで」

軽く一礼して挨拶をし、踵を返した。

偉い人の相手は学長であるグレンに任せておこう。

そんなことを思いながら、今度は中央広場から東側へと移動してみる。きょろきょろと周りを見ながら歩くが、あまりにも人が多くて簡単には見つけられそうにない。学院内も広大な為仕方がないことだろうが……。

やきもきしながら歩き回っていると、校舎の壁に寄り添うように立つ人影を発見する。

情報屋のガイヤだ。何故か、ガイヤは飲み物を片手にジッとその場に立ち尽くしていた。

「ガイヤさん」

声を掛けると、ガイヤは顔を上げてこちらを見る。

「ん? ああ、学院の魔女様か」

「その呼び方は止めてください」

ガイヤに注意すると、フッと鼻を鳴らして苦笑された。

「何か用事か?」

「いえ、別に用事は……」

用事は無いと言いかけて、そういえばガイヤは情報屋なのだから良い探し方など教えてくれるかもしれないと思い、改めて言い直す。

「シェンリーさんとローゼンスティール子爵を探しています。どうやって探せばよいでしょう?」

尋ねると、ガイヤは腕を組んで唸る。

「子爵……それなら、特徴さえ分かれば単純にネヴィス一家とかに伝達して、見つけたら連絡をもらうようにしたら良い。結局、こういう雑多な場所だと人海戦術が最も効率が良いんだ」

「そうですか。では、ネヴィス一家の方を探しましょう。確か、お店をやっていましたね」

ガイヤの助言に成程と頷き、手伝いをお願いしようかと周りを見てネヴィス一家の人を探す。すると、ガイヤが隣に歩いてきて口を開いた。

「そういえば、色々と文化祭の裏で思惑が交錯しているという話を聞いた」

「……思惑?」

振り向いて聞き返すと、ガイヤは面白そうに笑い、私の目を見る。

「そうだ。そして、その渦中にはアンタがいる」

「私、ですか?」

ガイヤの言葉に首を傾げる。それに噴き出すように笑い、ガイヤは肩を竦めた。

「アオイは普通のことだと思っていることが、他の人からすれば異常なのさ。俺が調べた情報だけでも、アンタは普通じゃなかった。今一番気になっているのは、そのアンタの師匠らしいオーウェン・ミラーズってエルフはどれだけ凄いのかってことだ」

「オーウェンのことまで調べたのですか? グレン学長から?」

ガイヤの情報収集力に驚いて質問するが、笑ってはぐらかされてしまう。

「情報屋のネタだ。それを話したら廃業しちまうよ」

そう口にして、ガイヤは校舎の方向を指さす。

「ほら、探しものが歩いてくるぞ」

「え?」

言われてガイヤの指さす方向を見ると、そこには確かにシェンリーの姿があった。そして、隣には父親であるオルド・ローゼンスティール子爵の姿もある。

それを確認して、ふとあることに思い至る。

「ガイヤさん。貴方さきほどは二人を知らないようなことを言ってませんでしたか?」

言いながら振り向くと、ガイヤは既に背中を向けて他の広場の方向へと向かって歩いていた。食えない男である。

とはいえ、今はシェンリー達の様子を確認する方を優先すべきだろう。

「シェンリーさんは……」

再度、シェンリー達の様子を確認する。二人はあまり自然な雰囲気ではないが、シェンリーが頑張って周りを見て何か見つける度にオルドに声を掛け、オルドも僅かながら反応して返事をしているようだ。

オルドが何を考えて文化祭に出席したのかは分からないが、シェンリーとの会話をする気はあるようだ。それならば、シェンリーにとって悪いことにはならないだろう。

「こんにちは」

私は二人の方に向かい、声を掛けた。

「あ、アオイ先生!」

「……む、君か」

シェンリーが嬉しそうに顔を上げ、オルドも私を見て少し驚いたようにしているが、敵意はなさそうである。

「どうも、お久しぶりです。オルド子爵」

挨拶をすると、オルドは貴族を相手にするようにきちんと一礼を返してきた。

「メイプルリーフでは失礼をした。アオイ先生、シェンリーをよろしく頼む」

オルドに畏まられて、少し戸惑いながらも頷く。

「……オルド子爵。何か様子が変わりましたね」

「先日のことで、色々と自己の考えや思想を見直す切っ掛けを得た。今後は癒しの魔術だけでなく、他の魔術に関しても見識を広めておこうと考えている。そして、それを踏まえた上で、シェンリーがどれだけの魔術を習得しているか見るつもりだ」

オルドの言葉に、少し嬉しくなる。

「そうですか。ちょうど最終日、シェンリーさんも発表を行います。是非見学していってください」

そう答えると、オルドは驚いた顔でシェンリーを見た。

「発表?」

どうやら知らされていなかったらしい。シェンリーは慌ててオルドと私を交互に見て口を開く。

「わ、私だけじゃなくて、アオイ先生の講義を受けている人みんなでする発表なので……」

シェンリーが言い訳のように話した。それを聞いて、オルドは真剣な表情で私を見た。

「……承知した。必ず見に行こう」

まるで戦争にでも行くような険しい顔でそう言われて、思わず苦笑しながら首肯を返す。

「シェンリーさんの今の魔術師としての実力が少しは分かると思います。楽しみにしていてください」

そう告げると、何故かシェンリーがムンクの叫びのような表情で顔を青くしていたのだった。