軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

文化祭3 校外授業

私がはっきりと否定の言葉を発した途端、小太りの男が必死の形相でこちらに走って来た。すばやく私の肩に手を置き、顔を寄せてくる。

「き、き、君……! 悪いことは言わないから、今のは間違いだったと言いなさい! 私も一緒に謝るから……いや、納得できないなら頭だけ下げておいてくれ! 私が謝ろう!」

男は顔面蒼白でそう言うと、私の背中に手を当てて、金髪の男の方へと向き直った。そして、深く頭を下げる。

「も、申し訳ありませんでした! やはり、魔術師という存在は庶民の憧れでして……! いや、私も子供のころは魔術師に憧れて、詠唱の真似事など必死にしていたものです! しかし、如何せん卑しい血筋なもので、これが全く……! やはり、貴族の方のように高貴な血筋でないとですね……!」

何とか作り笑いを浮かべながら謝罪し、貴族の機嫌をとろうと捲し立てる。貴族の男の見立て通り商人なのだろう。話や雰囲気作りが上手く、貴族の男もピティも若干怒る気配が弱まった。

だが、同時に男の子の顔は陰ってしまう。通常ならば、これこそが貴族社会、階級社会といったところだろう。上の者の機嫌を損ねれば、下の者はどんな目に合うか分からない。不条理ながら、それが常識となってしまう。

しかし、私にはそれが納得出来なかった。

「いえ、ご配慮はありがたいのですが、その常識は間違っています。そちらの方が言っている常識がどこの国の常識なのかは知りませんが……」

「それ以上は言わない方が良い」

私が魔術の常識について教えようとしていると、言葉を遮って金髪の男が口を開いた。その目は凍てつくように冷たく、余裕も感じられない。ピティにいたっては顔を真っ赤にしている。

「申し遅れたが、私はカーヴァン王国で伯爵位を持つヴィック・ダフタウという。中部の魔導伯爵なんて呼ばれることもあるが、我が家は宮廷魔術師を何人も輩出していてね。魔術の使い手としてもそうだが、知識を収集するのも得意なんだよ。それこそ、フィディック学院の教員相手でも引けを取らないと自負している」

ヴィックと名乗る男は長々と自らの家について語った。魔術に詳しいという自己紹介は理解したが、それがどうしたというのか。

「それは凄いことだと思いますが、それだと尚更のこと間違った知識をひけらかすのは恥ずかしくありませんか? 特に、今は学院に各国の要人も来ております。まさに、恥を世界中に晒すことになりかねませんよ」

ヴィックの家の評判を心配して忠告をする。だが、それにヴィックはついにキレた。

「……無礼が過ぎるぞ、女! そこまで言うなら貴様の常識とやらを証明してくれるのだろうな!? 出来るというならば、今すぐそこのガキに魔術を使わせてみろ!」

「後悔しても遅いわよ、不細工」

と、貴族とは思えない品の無さで文句の言葉が噴出する。あまり自分の容姿に自信があるわけではないが、不細工と言われたら少しだけ腹が立ってしまった。

「それでは、少しだけ校外学習の時間を設けます。生徒は来年からフィディック魔術学院に通う予定の……お名前を聞いても良いですか?」

視線を向けると、男の子はびくりと肩を震わせて、すぐに頷いた。

「ま、マーチンです!」

「はい、ありがとうございます。では、こちらのマーチンさんに魔術の基礎を簡単に……」

そう答えて、私はマーチンに向き直る。

「まず、魔術師になれるかは才能の有無による、という言葉が出ておりましたが、それは間違いです。正確には魔力を感知出来るか、体内の魔力を実感出来るかが第一歩となります。なので、最も簡単なのが魔術具を使うことですね」

前置きをして、小さなペン状の魔術具を取り出す。

「これには消費魔力の少ない 灯(ライト) という魔術が発現するように魔法陣が刻まれています。マーチンさん。これを手に持って、 灯(ライト) と口にしてください」

そう言って渡すと、マーチンは迷う事なく魔術具を手に取り、魔術名を唱えた。

この魔術具は私が作ったもので、出来る範囲で最大級の効率化を行ったものだ。魔力消費はその辺りをウロウロしている兎でも十分なほど少なく、詠唱による灯よりも数倍は明るく光る。

だから、魔力操作の方法を知らないマーチンが魔術名を唱えるだけで、周囲を白く照らし出すほどの光が発現したのだった。

「な、なに、この光……!?」

「魔術だ! 本当に魔術を使えたぞ!」

辺りが急激に騒がしくなり、マーチンも驚いた顔で光を見つめていた。よく眩しく無いなと思っていると、光は徐々に落ち着いていく。

「魔力は感じられました?」

尋ねると、頷いて顔を上げる。

「はい!」

返事はよいが、視点が合っていない。やはり一時的に視力を失っているのだろう。

だが、当の本人はボヤけた目で小太りの男を探し、嬉しそうに口を開いた。

「お父さん! 僕、魔術学院に行けるよ!」

その言葉に、父親は驚きつつも嬉しそうに頷く。

「凄いな、マーチン。ジェイムス家から初めての魔術師だぞ」

「うん!」

二人のそんな会話に周囲に集まる人々は自然と微笑みを浮かべ、次にヴィック達を見た。

その視線を感じてか、ヴィックが怒りを露わに怒鳴り声をあげる。

「反則だ! 魔術具ならば誰でも魔術を使うことが出来るに決まっているだろう!? そのような下らないやり方で騙そうなどと……!」

と、ヴィックは魔術具の使用は認めないと発言する。

「反則? そもそも、魔力がないと魔術具は発動しません。逆に、魔力があるなら誰でも魔術が使えるのです。マーチンさん。詠唱してみましょうか。イメージは小さな炎です」

そう言って、私はマーチンに簡単な詠唱を教えた。マーチンは目を擦りながら深く頷き、口を開く。

そして、魔術を詠唱によって発動した。

「…… 灯(ライト) 」

詠唱は三小節。効率化と省エネを意識した詠唱にしてみたが、上手くいったようだ。マーチンの初めての詠唱魔術は、一瞬だが先程の魔術具の光よりも強いほどのものだった。

「ば、馬鹿な……!」

マーチンの放った光を見て、ヴィックが驚愕する。だが、その驚きを周囲の歓声が掻き消していく。