作品タイトル不明
文化祭4 上級教員
驚愕の末なにも言えなくなってしまったヴィックに向き直り、再度、魔術師として指摘をする。
「……もう一度だけ言わせていただきますが、魔術師になれるかどうかは才能など無関係です。もちろん、世界有数の魔術師になれるかどうかといわれたら才能や努力の仕方なども関係するかもしれませんが」
そう告げると、ヴィックは音がするほど歯を噛み締めた。そして、ピティが噛み付くように吠える。
「不細工! あんたがお父様に逆らったことは忘れないわ! どうなるか分かってるの!?」
涙目になるほど怒り心頭で脅しのような言葉を吐くピティに、私は首を傾げて口を開いた。
「さて、どうなるのでしょう。楽しみにさせていただきます。ちなみに、私も不細工や貴様などと言われたことは覚えておきましょう」
そう告げると、ピティがさらに文句を言おうと口を開き掛けたが、周囲の視線に気がついたヴィックが止めた。
「良い、ピティ。このような下賎な者に時間を割いては無駄も良いところだ。行くぞ」
「……はい、お父様」
ヴィックの言葉に遅れつつ、ピティも周囲の視線が集まっていることに気が付いて素直に従った。幼いのに周囲にどう見られているか感じ取れるあたり、ちゃんと貴族の教育を受けているようだ。
とはいえ、去り際に大きく舌打ちをして去っていくあたり、その教育方針には疑問が残る。
二人が去っていったのを確認すると、周囲に集まっていたギャラリーが弾けるように歓声をあげた。
「凄かったよ、姉ちゃん!」
「お、俺も魔術師になれんのかな!?」
「今のはスカッとしたね!」
「坊やも凄いな! こりゃあ凄い魔術師になれるぞ!」
わぁわぁと人が集まってきて、あっという間に人集りになってしまった。
「ちょっと通してください。お昼から、友人が魔術の発表をするのです」
そう言って離れようとするが、中々移動できない。どうやって目的地に行こうか悩んでいると、誰かが私の顔を見て声を上げた。
「あぁ! あんたが噂の凄い新人教師さんか!」
「なるほど! フィディック学院の! やっぱりフィディック学院の教員は凄いんだなぁ!」
どうやら、私のことを知っている人がいたらしい。更に騒がしさが増す状況にどうしたものかと思っていると、先ほどのマーチンとジェイムスが近くに歩み寄ってきた。
「どうぞ、こちらに」
ジェイムスがそう言うと、マーチンが私の手を取って学院の校舎側へと移動をする。
「申し訳ありません! 急いでおりますので!」
ジェイムスが謝罪の言葉を口にしながら人垣を掻き分けていく。有難いので、素直に二人に従って移動を行った。
無事に移動を終えて、中庭の木陰に辿り着く。
「先ほどはありがとうございました」
私がそう告げると、ジェイムスは恐縮したように首を左右に振る。
「いやいや、こちらがお礼を言わせてください! うちのマーチンは魔術師に憧れていて、でも私の家系ではこれまで魔術師が出たことが無くて……恐らく無理だろうと思っていたのです。本当にありがとうございます。ただ、あのヴィック様に恨まれてしまったのではないかと……」
心配そうにそう言うジェイムスに微笑みを返し、軽く頷いた。
「大丈夫ですよ。フィディック学院には地位や権力は関係ありません。グレン学長が何とかしてくれるでしょう。ご安心ください」
と、二人を安心させる為にグレン学長の名前を出しておく。各国に知れ渡っているグレンの名前を出せば説得力があるだろう。
「成る程。グレン学長は各国の王族にも顔が効くといいますからね。フィディック学院はやはり特別なんですね」
予想通り、ホッとしたようにジェイムスがそう呟いた。そこへ、マーチンが少しモジモジしながら口を開く。
「あ、あの! 僕も、フィディック魔術学院に入れますか……?」
俯きがちで不安そうに質問するマーチンの目を見て、深く頷き返した。
「はい、もちろんです。もし良かったら今度魔術学院にご見学にいらしてください。グレン学長には話を通しておきます」
「本当!?」
答えると、マーチンは目を輝かせて顔を上げた。それにもう一度首肯を返してから、次はまたジェイムスに目を向ける。
「話の流れとは関係ありませんが、出来たら魔術師の総人口も増やしたく思っていますので、誰か良い商人の方を紹介していただけたら有難いです。個人で販売などをされている方が良いのですが、お知り合いの方はいらっしゃいませんか?」
尋ねると、ジェイムスが口の端を上げて目を細めた。これまでの善人らしい笑顔ではなく、どこか野性的な力強い笑みを浮かべている。
「それならお任せください。まだまだ大きくはありませんが、私は商会を営んでおります。ジェイムス商会という名でして、この街の中くらいならばそれなりに販路を持っております。少しでも恩返し出来るならば、微力ながら全力で協力させていただきたいと……」
「そうなんですか。それは心強いです。では、申し訳ありませんが、先ほどの 灯(ライト) の魔術具を販売してもらいたいと思っていまして……あれが一般の方にも広まれば、魔術師の総人口は必ず増えるでしょう。やがて、他の国からもあの魔術具を求める声が聞こえてくるはずです」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
私のセリフに何かを思ったのか、突然ジェイムスが両手を前に出して言葉を遮る。
「あの、先ほどの素晴らしい魔術具が、幾つもあるのですか? それとも、貸出という形で販売を? どちらにせよ、中々一般の市民が買えるような代物では……」
少し慌てた様子のジェイムスに、片手を挙げて左右に振った。
「いえ、私が作成をしますので、材料費程度で問題ありません。そうですね……そこの店で売っているお肉の串焼き五本分ほどでしょうか」
そう答えると、ジェイムスは目を丸くして固まる。数秒してようやく動き出したと思ったら、ジェイムスは大きな声を出して笑いだした。
「はっはっは! いや、失礼しました! しかし、流石に全く儲けを出さないわけにはいきません。材料は出来るだけ安くこちらで準備します。原材料費を抑え、利益をのせましょう。その利益の内一割を我が商会がいただきますので、残りをお受けとりください」
ジェイムスの言葉を聞き、そういえば魔術具はとても簡単なものしか普及していなかったことに気が付く。魔術具と呼べるような代物は殆どが古代の遺物などであり、貴重なものなのだ。
ちょっとやり方を間違えたかと思ったが、どちらにせよ魔術師を増やすならば必要な手段だろう。そう自身を納得させて、私は軽くジェイムスに自己紹介をして、その場を後にしたのだった。