軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

文化祭2 モンスターペアレントとモンスターキッズ

学院内の風景が変わった。

文化祭開催の為、学院の門が開放されたからだろう。普段は関係者しか入ることの出来ない学院の中を見ようと、多数の見学者が学院内を闊歩していた。

普段も生徒の数が多い時は騒がしいが、今は全く別の騒がしさである。様々な衣装や年齢の男女が歩き、学院の中庭や建物を見ては何か言っていた。

かなり広大な敷地の為、それなりの人数が見学していてもそれほどでもないと予想していた。しかし、昨日の町内の活気以上の状況である。

庭園の方にやけに元気な声が響いていると思って顔を出すと、いたる所に屋台まで出店していた。もはや学院の行事というより縁日に近い。そして、行き交っている人々も老若男女問わずといった状態なので尚更だろう。

「わぁ……! 魔術学院初めて入ったよ!」

子供の声が響き、そちらに目を向けた。そこには髪を結った五歳前後の男の子の姿があった。男の子は目をキラキラと輝かせて学院内を見回している。普段の学院はもっと静かですよと教えたいところだが、お祭りのような景色に興奮しているようなので何も言わないでおく。

「僕も魔術学院に入れるかな?」

嬉しそうにそう尋ねる男の子に、髭を生やした小太りの男が困ったように笑う。

「魔術の才能があれば入れるかもしれんなぁ」

「さいのう?」

首を傾げて聞き返す男の子だったが、男は何も答えずに苦笑したのだった。魔術を使えるように基礎でも教えてあげようかと思ったが、そこへ甲高い笑い声が響いた。

「馬鹿ね。才能があるならもう簡単な魔術の基礎くらい出来ているでしょう? 私なんて五歳で初級の魔術を二つも使えたわ。貴方は何が出来るのかしら」

現れたのは金髪のウェーブがかかった髪の少女だった。六、七歳ほどだろうか。男の子より少し年上に見える。子供らしく思ったことをそのまま口にしてしまったのだろうが、それにしても未来を夢見る男の子には厳しい言葉だ。

何か、男の子の夢を壊さないように声を掛けられないかと口を開きかけた。

だが、私が何か言うよりも早く男の子がムッとした顔で声を上げる。

「わ、分からないよ。僕だって、もしかしたら……」

最初は勢いよく口を開いたのに、男の子が少し怖気づいたような表情になりながら反論しようとした。そこへ、白いマントを来た男が現れる。金髪の髪を後ろに撫でつけたような髪型の男だ。男は男の子の顔と服装を見て、フッと息を吐くように笑う。

「庶民の子だろう。商人の子か何かか……ピティ。弱い者いじめは止めなさい。魔術師になるには血筋も重要だ。あまり現実を突きつけては可哀想だろう」

男がそう告げると、少女は男によく似た仕草で息を吐くように笑った。

「はい、お父様。でも、早めに現実を知れて良かったわね?」

「まぁ、それもそうだな。はっはっは!」

少女の言葉に男は声を出して笑う。男の子は相手の方が地位が上であると感覚的に分かったのか、泣きそうな顔で小太りの男を振り返る。しかし、貴族社会で明らかに貴族であろう相手に逆らうことなど出来ないのだろう。

小太りの男は頭を下げて、無言で男の子の頭を押さえたのだった。

「ちょっと待ってください」

思わず、口を出してしまった。目の前の四人だけでなく、周りで状況を見守っていた他の人たちも私を見る。

「……君は? 何か、意見でも?」

金髪の男が紳士的な微笑を浮かべてそう聞いてきた。小太りの男は焦ったように私に目で訴えかけてきていたが、それよりも、何かに縋るように悲しげな表情をする男の子の目に背中を押される。

私は金髪の男とピティと呼ばれた少女を見つめて、口を開く。

「魔術師になるだけならば、才能は不要です。魔術師になれない者などおりません」

そう答えると、男の子の目が大きく見開かれた。目に輝きを取り戻していく男の子の表情を見れただけで、私はとても嬉しかった。

だが、反対に金髪の男とピティの目つきは厳しいものとなる。男は溜め息を吐き、大袈裟に首を左右に振った。

「そこの子供が可哀想だから嘘を吐いたのか? その選択は一見救済のように見えて気分が良いだろうが、現実的にはとても残酷なものだ。少年は騙されているとも知らずに魔術師になろうと必死に努力をするかもしれない。無駄な時間と労力を割き、ようやく魔術師には絶対になれないのだと気が付いた時、少年は何を思うだろうか。君にはそこまでの想像力は無いのかね? 私ならば、そんな残酷な仕打ちは出来ないよ」

男がそう言うと、ピティも鼻を鳴らして肩を竦める。

「お父様の言う通りよ! 貴族は皆、魔術師の血を引いているから魔術師としての才能があるわ。貴族でもなく、子供の内から魔術師の力に目覚めなかった人は魔術師としての才能も無いってことよ。そんな常識も知らないの?」

馬鹿にしたようにそんなことを言われて、私は首を傾げて返答した。

「それは常識ではありません。ただの無知です」