軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

文化祭前夜

学院の裏庭に行くと、ストラスの準備している文化祭の発表用の道具が並んでいた。他の教員は各自どこかにしまい込んでいたりするのだが、ストラスは誰かに見られても気にしていないらしく、発表の道具などもそのまま置いてある。

「この飛行機みたいなものは何でしょう?」

「ヒコーキ? ドラゴンを模して作った模型だ。造形は良く出来たほうだと思っていたが……」

無意識に呟いた一言にストラスが傷ついてしまった。しかし、改めて確認してみても、とても竜には見えない造形である。羽はトンボに近い形状をしており、胴体もウィンナーのようだ。下手をすると空飛ぶホットドッグに見えなくもない。

だが、流石にそうは言えない。

「ドラゴンでしたか。確かに、羽も角もありましたね。どうせなら頭部や尾をもっと分かりやすくした方が迫力のあるドラゴンになるかもしれません」

「……そうだろうか」

何とかフォローしようとしたが、失敗したらしい。ストラスは微妙な顔のまま自らの作ったドラゴンを見ている。

「そ、それで、このドラゴン? をどういう風に使うつもりだったのですか?」

尋ねると、ストラスは珍しく拗ねたような目つきでこちらを見て、すぐにドラゴン? に視線を戻した。

そして、魔術を詠唱する。風が収束していき、対象を持ち上げようと下から吹き上げる。精密な魔力コントロールにより、ドラゴンの模型はふわりと安定した姿勢で浮かび上がっていく。そして、ドラゴンに紐でも付いているように地面に倒れていた板が持ち上がった。山を模したパネルらしい。ドラゴンはその周りを器用にくるりと一周する。

面白い。魔術師ならば皆が感心するような細やかな魔力操作を見て、ストラスへのイメージが少し変わった。だが、なんとストラスの発表はそれで終わりではなかった。土を巻き上げてパネルを倒し、空飛ぶドラゴンに向けて土煙の竜巻が巻き起こる。

ドラゴンが飛ばされてしまう。不格好な筈なのに、何故かストラスの作ったドラゴンの模型に感情移入してしまっていた。

慌てる私を尻目に、ドラゴンはふわりと竜巻に乗り、その外側を優雅に飛んでゆっくりと地上へ降り立つ。

「おお……!」

思わず歓声が出ていた。

私が反応したことに満足したのか、ストラスはふっと息を吐くように笑う。

「中々良い発表だったようだな。さぁ、この発表をどうすれば良くなる?」

途端に強気で自らの発表の改善を要求してくるストラス。得意げな様子が少し子供っぽい。

「そうですね……困ったことに、あまり改善をする場所が思い浮かびませんでした」

「そうか」

「とりあえず、まったくお手伝いしないのも気が引けますし、道具を改造しましょうか」

「え?」

生返事をするストラスを横目に、私は魔術を行使した。土の魔術の応用で、ドラゴンの模型と山を模したパネルを作成してみる。ストラスの作ったドラゴンの横に、細部まできちんとイメージした白いドラゴンが現れる。ちゃんと薄い金属製にしており、中は空洞だ。見た目からは想像も出来ないほど軽い。

そして、山を模したパネルはエベレストのような美しい氷山にしておいた。白いドラゴンによく合う筈である。

「使うかどうかはストラスさんにお任せします」

そう言って一礼し、ストラスに出来たばかりの白いドラゴンと山の模型を差し出した。

「……ああ、ありがとう」

「どういたしまして」

ストラスのお礼に会釈を返して、私はその場を後にする。

その後、スペイサイドの発表の仕上げも行った私は、ようやく一息吐いた。気が付けば、文化祭前日の夕方までしっかり働いていた。日が落ちかけた学院の中庭を歩き、長く伸びた影を見ながら軽く伸びをする。

両手を伸ばして息を吐いた。

街はすでにお祭り騒ぎだったが、学院内もとても騒がしかった。教員が慌ただしくしているからか、生徒達もふわふわと落ち着かない様子だったのだ。だが、雰囲気は悪くない。祭りの前夜に相応しい、ワクワクした落ち着かなさだ。

中庭のベンチに腰掛けて、夕焼けに照らされた学院を軽く見渡す。まだまだ一部の教員が発表のリハーサルなどをしているらしく、離れた場所で魔術を行使する音が響く。

さぁ、明日はまた忙しくなる。

そんなことを思って深く息を吸って両手を大きく伸ばした時、学院の向こう側で激しい閃光が空へ奔った。激しく放電する音が鳴り響き、さながら落雷のような現象だ。

「雷の魔術……誰かが一歩先へ進んだみたいですね」

基礎は確かに私が教えたが、誰かが自身の手でそれを応用したのだろう。素晴らしいことだ。より良い魔術を、より強い魔術を、より新しい魔術を作り上げる……少しでも多くの魔術師がそうあってくれたなら、恐らく一年で魔術は大きく進歩することだろう。

今回の文化祭は、それを知らしめる第一歩である。

「……楽しみですね」

私はそう呟き、空に現れ始めた星々を見上げたのだった。