作品タイトル不明
文化祭前日にトラブル
「大変じゃあああああああっ!!」
学院の校舎に顔を出した途端、グレンの絶叫が響き渡った。何事かと廊下の奥を見ると、そこには慌てるグレンと壁の方に並ぶ教員達の姿があった。不思議なのは教員達の状況だ。
教員達は何もない壁の方を向いて動かなかったり、中には地面に四つん這いになって項垂れる者もいた。死屍累々といった様相に、私は首を傾げる。
「……何があったのですか?」
そう尋ねると、グレンが勢いよく振り向く。
「おお、アオイ君! 困ったことになったのじゃ! 大変なのじゃ!」
「グレン学長。語彙が無くなってしまっています。落ち着いてください」
珍しく取り乱すグレンに落ち着くように告げる。それに大きく息を吐き、グレンは背筋を伸ばして髭を片手で撫でた。
「……うむ。少々見苦しいところを見せてしまったの」
無理やり落ち着いた様相を見せるグレンだが、表情は冴えない。目を細めて廊下をゆっくりと見回し、グレンは浅く息を吐く。
「実は、アオイ君のところで教えている生徒達が一週間ほど学院の中庭で雷の魔術を練習しているようでの。それを、教員の皆が目撃してしまったのじゃ」
「それの何が問題だったのでしょう。もしかして、教員の方の私物を破壊してしまったとか……」
グレンの言いたいことが分からずに聞き返すと、大きな溜め息が返ってきた。頭を片手で抱えるようにして唸り、返事をする。
「……教員の皆が自らの準備していた発表への自信を失ってしまった」
グレンがポツリとそう呟くと、一部の教員がウッと呻き声をあげて頭を抱えた。よく見ると、廊下に集まっているのは一般教員の面々のようだ。ちなみに、廊下の窓は外からの光で激しく明滅している為、恐らく外では雷の魔術が行使されているものと思われる。
「……ちなみに、教員の皆さんはどのような発表をする予定だったのでしょう」
尋ねると、グレンは軽く頷いて口を開く。
「これまでの魔術の応用による発表が主じゃな。炎や水の操作、二種類の魔術の組み合わせ。中には二人の教員での合作もある。普段なら十分な内容ばかりじゃが、今回は生徒達の発表がそれ以上のものになりそうなのじゃ」
グレンの説明に、廊下では嘆きの声が木霊した。怨霊の類でもいるのかというような不気味さだ。それを横目に、グレンに返事をする。
「なるほど。それでは、それぞれの発表をより良いものに昇華させたら問題ないですね」
そう答えると、グレンが目を瞬かせた。
「今からかね? それは流石にいくらアオイ君といえども……」
提案するとグレンは困ったような顔でそう口にする。
「教員五名の発表ですよね。まずはやってみましょう」
私はそう言って、嘆き呻く教員達を見たのだった。
「コップの水を増やしていき、即席の河を作り出す? 確かに、少々地味かもしれませんね」
「うぐ」
素直に感想を言ってしまい、教員が一人落ち込んでしまう。
「あ、ごめんなさい。それでは、さっそく発表の内容を考えてみましょう。簡単な変更ならば、小さな山を作り、その上で水を増やして滝を作るといった変更でも良いかもしれませんが……どうせなら、氷への変化を加えて即席の氷の城を作りましょう」
「つ、土の魔術に水の魔術、更に性質変化……それはかなり高難易度になりそうな……」
「詠唱次第です。詠唱の内容を工夫しましょう」
一人はどうにか発表までに間に合いそうだ。私はホッと一息吐く。そうして、私は各教員の悩みを聞いていった。
「次の方は……火の魔術で炎の竜巻を作る、ですか。それは規模によっては十分見栄えのする発表だと思います。詠唱に風の一助を加えましょう。最初はあえて火の勢いを抑えておき、炎の竜巻上部に酸素溜まりを作るのです」
「次の方は……土の魔術ですね。その場で背の高い塔を作るのですね。こちらも細部にこだわれば十分見応えがあると思います。出来たら、広場全体を使って庭園を作り、最後に中心に巨大な塔を作る、みたいな流れにしたら面白いかもしれません。庭園ですか? 私としては、半日はそのままにして見学も出来るようにしたいですが……あ、片付けは私がしますのでご安心を」
「次の方は、ストラスさん?」
順番に教員の発表について相談に乗っていたところ、なんとストラスもそこにいた。ストラスは普段通りの顔で私を見下ろしており、困っているようには見えない。
「なにかありましたか?」
そう尋ねると、ストラスは首を僅かに前に倒した。
「ここに来たら上級教員から発表についてアドバイスをもらえると聞いてきた。なんとなくアオイがやっていると思っていたが、当たりだったな」
「発表に悩んでいる方に助言をしていたのですが……あ、似たようなものでしょうか。しかし、ストラスさんは悩んでいないでしょう?」
ストラスは私の疑問に腕を組んで唸る。
「個人的には問題ないと思っていたが、アオイのアドバイスというのも興味がある。まずは見てもらおうか」
と、ストラスは何故か偉そうに発表を見ろと言ってきたのだった。