作品タイトル不明
突然の決闘宣言
ロックスとフェルターが余計なことを口にした為、急に和やかな空気が剣呑なものとなった。
フェルターの背を少し小さくして厳つくしたようなラムゼイが私を睨んでいる。革をメインで作った軽装の鎧を着ているのに、筋肉の多さがしっかりと分かるような体格をしていた。
プロレスラーみたいだな、などと思いながら、私はラムゼイの視線を受け止める。
「……何か?」
そう尋ねると、ラムゼイは腕を組んで訝しむような視線になった。
「いや、とても信じられないと思ったのだ。申し訳ないが、姿かたちを変えて年齢を偽っているというのなら納得もいくが」
その言葉に、フィオールが眉根を寄せる。
「あなた。そのような言い方は失礼ですよ」
フィオールが窘めるが、ラムゼイは引く様子もない。
「魔術はどのような天才であっても上級へ至るまでに十年は数えよう。それも一つの属性で、だ。我が国にまで流れてきた噂によると、アオイ殿は全ての属性で上級以上の魔術が使えるという。てっきり、グレン学長と同様に老練なる魔術の使い手を想像していた」
だが、そうは見えない。最後まで口にはせずとも目でそう語っている。軽く溜め息を吐き、首を左右に振る。
「こちらとしては実力を認めてもらわなくても問題はありません。フィディック学院の教員の実力を信用してもらえるなら、学院での講義を受けるのにも支障はないはずです」
そう答えると、ラムゼイは首を左右に倒して骨を鳴らした。
「いいや、そうはいかん。俺の興味は貴殿の実力を確かめることとなった。まさか断りはしないであろうな? 敗北が怖いというならば仕方がないが」
ラムゼイの言葉に、私は思わずフッと息を漏らすように笑う。
「何か、面白いことでも言っただろうか」
ラムゼイは面白いものを見たように私を見て呟く。それに素直に頷き、微笑んだ。
「いえ、御子息と似たような挑発の仕方をされるので、やはり親子なんだなと思いました」
そう告げると、ラムゼイは毒気を抜かれたような顔になって目を瞬かせる。
「……実力はともかく、度胸は人一倍ありそうだな」
呆れたような、困惑したような顔でそう言うと、ラムゼイは顔を上げて笑った。
「よし! では、文化祭当日にフェルターとアオイ殿、二人と戦うことにしよう! わっはっはっは! 楽しみだな!」
そう言ってラムゼイは一人満足そうに頷く。その様子を見て、フィオールは片手を頬に当ててお上品に困った。
「あらあら……今年もやっぱりこうなりましたか。申し訳ありません。良かったら、夫の相手をしていただけると……」
「止めないのですか……」
フィオールのセリフに呆れて返事をする。常識人っぽいと思っていたのだが、旦那に甘過ぎる性格のようだ。
と、その時、大通りの活気のある声が急に静まった。何事かと振り向くと、遠くの方から歩いてくる一団がいた。先頭には目立つ赤い髪の男の姿がある。
「おぉ、ラムゼイ侯爵! 随分と早いではないか! はっはっは。久方ぶりである」
快活に笑いながら、ミドルトンとレア夫婦が近衛兵を伴って歩いてきた。声を掛けられたラムゼイは頷いて応える。
「キルベガン殿、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
ラムゼイは意外にも他国の国王相手でも態度変わらず挨拶を返した。大国の侯爵だからそんな感じなのだろうか。ミドルトンもレアも気にした様子はない。
「はっはっは。変わらないな、ラムゼイ侯爵。それで、さっそくアオイ殿とも知り合えたか。運が良いな」
「む、やはりこの少女が噂の上級教員で間違いないのか。あまりにも若過ぎるのでな。少々懐疑的になっていたのだ」
「ふふ、そういった目で見ていると腰を抜かすことになるぞ。まぁ、私もそうだったのだがな」
ミドルトンがラムゼイと会話して笑い合う。それを横目に、レアがフィオールと軽く挨拶を交わしていた。
「お元気そうね、フィオールさん」
「そちらもお元気そうで何より……ところで、御子息がとても大きくご成長されているご様子ですが、秘訣を教えてくださりませんか? 我が侯爵家はご存知の通り、武人しか生み出せない家柄でして……」
「ロックスがですか? まぁ……それは恐らくアオイ先生のご指導のお陰でしょうね。王族や貴族も関係なく、真摯に生徒に向き合ってくださる方で……」
と、気が付けば井戸端会議のような状況になってしまった。無言で待つロックスとフェルターを横目に見て、私は軽く頭を下げる。
「それでは、私はこれで」
挨拶をして去ろうとすると、ロックスから批判するような目で見られた。
「ずるいぞ」
「家族水入らずの時間を邪魔してはいけませんし」
そんなやり取りをして、二人にも手を振って立ち去ったのだった。