作品タイトル不明
各国から集まる人々
一ヶ月という月日は経ってみればあっという間だった。
この間は教員が皆講義よりも文化祭の準備に追われており、生徒達は慌ただしい様子の教員を見て呆気にとられていた。
ちなみに、教員は全員参加が原則である。教員は学院の各地点に設置された会場で何かしらの発表を行い、さらに上級教員は来客を一堂に集めて発表を披露しなくてはならないらしい。
ストラスは風の魔術の精密なコントロールを発表するらしく、紙飛行機を飛ばしてみせるとのこと。簡単なコースを作り、そこを縦横無尽に飛ぶ飛行機。それはとても面白い発表となるだろう。
エライザも同様で面白い発表を考えていた。土で小さな山を作り、それが徐々に崩れていくと、中から石で出来た城が現れるというものだ。規模は小さいものの、もしこれが実際の山で行うことが出来たらと想像する人は多いだろう。魔術の可能性を伝えるような良い発表だと思う。
対して、フォア達上級教員はシンプルに巨大な火柱や竜巻など、特級魔術を披露しているらしい。
こちらは私としてはいただけない。どうせなら、新しい試みを発表してもらいたいと思う。新発想の魔術が最良だが、既存の魔術の新しい使い方でも良いだろう。どんどん新しい魔術を作り出し、それを応用、発展していくことが魔術の研究を加速させると考えている為、フィディック学院の教員のみならず、各国の魔術師たちにもその思想を植え付けていく予定だ。
それを知らしめる為にも、私の発表はこの世界において斬新であり、魔術の新しい可能性を想像させるものとしなくてはならない。
「ふふふふふふ……」
色々と構想を練っていると、無意識に笑っていたらしい。生徒達に気味悪がられてしまった。ただ、他の教員達も目の下に真っ黒なクマが出来てふらふら歩いていたり、壁に頭を打ち付けながらブツブツ言っている者もいた為、相対的に私のイメージはあまり損なわれていないものと思われる。
そうこうしている内に、気が付けば文化祭の三日前となっていた。どうやら文化祭当日ではなく、数日前からもう町はお祭り騒ぎとなっているらしい。
準備も済んでいた私は、修羅場となっているエライザやストラスを置いて街の散策を楽しむ。街の中央通りには屋台や衣服の出店などが立ち並び、各国の衣装に身を包んだ観光客や行商人で賑わっていた。
これは、魔術の発表など関係なくイベントとしてもとても楽しい。各国から集まる人々は、この賑やかで楽し気な街の様子を見にきているのかもしれない。
そんなことを思いながら街中を歩いていると、ロックスとフェルターの姿があった。いつもの学生服とは違い、マント姿のロックスと、ローブを巻き付けたような衣装のフェルター。特にフェルターはライオンのたてがみのようなフサフサの髪の毛と衣装がとても合っている。
「珍しい恰好ですね。お二人とも遊びに出てきたのですか?」
そう尋ねると、ロックスがウッと一歩後退る。
「俺は出迎えだ。遊びなんかじゃないぞ」
ロックスが腕を組んでそう言うと、フェルターも首肯した。
「俺も、家族が来るのでな」
ロックスはともかく、何故か嫌そうにそう言うフェルター。その様子に首を傾げる。
「ご両親が文化祭の見学に来るのでしょう? 久しぶりだから嬉しいのでは?」
聞き返すと、ロックスが口の端を上げて笑みを作った。
「去年も来たが、フェルターの父上はブッシュミルズの大侯爵と呼ばれる有名人だが、少々変わっている。フェルターが生まれるまで戦争続きだったせいか、戦争が減った今でも前線で戦えるように鍛え続けている」
ロックスがフェルターの父親について説明をすると、フェルターの顔は更に苦いものとなった。
「……あの男の楽しみは俺や兄上を使って自分の実力を確認することだ。だから、今年もわざわざフィディック学院まで来て俺を殴り倒して帰るつもりだろう」
溜め息混じりにそう呟くフェルターに、ロックスはついに噴き出して笑いだす。
「はっはっは! いつも我が物顔で学院を歩くフェルターが唯一落ち込む日だ。まぁ、流石にブッシュミルズ皇国最強の一人といわれるラムゼイ侯爵にかかっては仕方がないが」
笑いながらフェルターの肩を叩き、慰めにもならない言葉をかける。それにフェルターは鼻から息を吐き、首を軽く左右に振った。
それを見て、私は丁度良いと頷く。
「そうですね。では、今回の発表ではフェルター君はお父さんを一対一で倒してみましょう」
「……なに?」
提案をすると、フェルターが眉を上げて驚きの表情をみせる。ロックスは目を瞬かせてキョトンとしていた。
「ラムゼイ侯爵といえば、ブッシュミルズの大侯爵と呼ばれる……」
「それは先ほど聞きましたよ。ちょうどフェルター君も身体強化の魔術を発表する予定だったでしょう? だから、その成果を発表する為にお父さんと戦ってみましょう」
ロックスの言葉を遮って再度提案をすると、フェルターはしばらく考えるように押し黙った後、ふっと息を漏らすように笑った。
「……面白い。あの男の顔面を殴り返せるというわけか」
フェルターは不敵に笑うと、拳を握って力を込めた。